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歴代Z務事務次官連続殺害犯など少しも恐れていないことを、自分が噂通りの豪胆な男であることを殊更世間に対して示すべく、また身の程知らずに星堕を妬み嫉み果ては件の犯人によるその殺害までも望む腐れ庶民どもに対する威嚇も兼ねて、星堕は土佐犬軍団十五頭を引き連れて、ついでに特殊部隊員と機動隊も引き連れて、自邸の敷地内でも十分散歩はできるのに、わざわざ邸の塀の外に出て、古代ローマの闘犬部隊か、織田信長の京都馬揃えかとでも言ったパレードを敢行することにしたのだ。
塀の外の道を二三周して終わるつもりだった。
その程度なら苦情もあまり出ないだろうと思った。
苦情を言う者は一連の騒ぎが終息したら速やかに制裁し近所から追い出すつもりだった。
邸をがら空きにするわけにはいかないので、特殊部隊員と機動隊員の半分は残し、もう半分に星堕と空手有段者の飼育係六名が率いる土佐犬軍団の前後を挟ませ、星堕が土佐犬軍団の先頭に立って散歩に出た。
交通規制こそ敷かれなかったものの、そんな集団に近づく者がいるはずもなく、さながら無人の地を行くがごとしであった。
異変は二週目にさしかかったときに起きた。
星堕が手綱を持つ体重八十キロの青嵐号(雄・四歳)が突然背後に向かって脱兎のごとく駆け出したのだ。
否応なく星堕は仰け反った。
その刹那、星堕の首から上がぽーんとバレーボールのトスのように空中に撥ね飛んだのだ。
それぞれの切断面から、レーザーメスによるそれのように数秒遅れて血の噴出が始まった。
全ての土佐犬は青嵐号とほぼ同時に、まるで前方の何かから必死の逃走を試みるように背後に向かって全力で駆け出した。
人間全員が何事が起こったか把握できず大混乱になった。
空手有段者の飼育係たちは逆走を始めた土佐犬どもに薙ぎ倒され綱を離し、その後ろにいた特殊部隊員と機動隊員は向かってくる土佐犬どもに発砲するわけにもいかず思い思いの方向に逃げ惑った。
土佐犬十五頭は人間には目もくれず、あっという間に星堕邸に逃げ戻ると、興奮したまま悲し気な声でいつまでも鳴いていた。
その鳴き声は、自分たちは星堕に飼われているけど星堕の仲間じゃない、自分たちは星堕とは関係ないから殺さないでくれと何者かに訴えているようだった。
死亡推定時刻は午後三時三十三分。
こうして星堕は、世間に対して豪胆さを保てたままかどうかは知らないが、派手にして呆気ない最期を遂げた。
数分後には速報が全国を駆け巡っていた。
今までのパターンと違い、白昼堂々公道で起きた九番目のZ務事務次官OB殺し。
大勢が警護する中、難なく標的の首を刎ね飛ばす姿なき犯人。
誰もが思った、この犯人に狙われたら最後だと。
生き残りOBには、背後で大鎌をかざす死神がはっきり見えた。
同日また一人、リレーでバトンを受け取るように、OBの中から心臓麻痺で死人が出たのだった。
塀の外の道を二三周して終わるつもりだった。
その程度なら苦情もあまり出ないだろうと思った。
苦情を言う者は一連の騒ぎが終息したら速やかに制裁し近所から追い出すつもりだった。
邸をがら空きにするわけにはいかないので、特殊部隊員と機動隊員の半分は残し、もう半分に星堕と空手有段者の飼育係六名が率いる土佐犬軍団の前後を挟ませ、星堕が土佐犬軍団の先頭に立って散歩に出た。
交通規制こそ敷かれなかったものの、そんな集団に近づく者がいるはずもなく、さながら無人の地を行くがごとしであった。
異変は二週目にさしかかったときに起きた。
星堕が手綱を持つ体重八十キロの青嵐号(雄・四歳)が突然背後に向かって脱兎のごとく駆け出したのだ。
否応なく星堕は仰け反った。
その刹那、星堕の首から上がぽーんとバレーボールのトスのように空中に撥ね飛んだのだ。
それぞれの切断面から、レーザーメスによるそれのように数秒遅れて血の噴出が始まった。
全ての土佐犬は青嵐号とほぼ同時に、まるで前方の何かから必死の逃走を試みるように背後に向かって全力で駆け出した。
人間全員が何事が起こったか把握できず大混乱になった。
空手有段者の飼育係たちは逆走を始めた土佐犬どもに薙ぎ倒され綱を離し、その後ろにいた特殊部隊員と機動隊員は向かってくる土佐犬どもに発砲するわけにもいかず思い思いの方向に逃げ惑った。
土佐犬十五頭は人間には目もくれず、あっという間に星堕邸に逃げ戻ると、興奮したまま悲し気な声でいつまでも鳴いていた。
その鳴き声は、自分たちは星堕に飼われているけど星堕の仲間じゃない、自分たちは星堕とは関係ないから殺さないでくれと何者かに訴えているようだった。
死亡推定時刻は午後三時三十三分。
こうして星堕は、世間に対して豪胆さを保てたままかどうかは知らないが、派手にして呆気ない最期を遂げた。
数分後には速報が全国を駆け巡っていた。
今までのパターンと違い、白昼堂々公道で起きた九番目のZ務事務次官OB殺し。
大勢が警護する中、難なく標的の首を刎ね飛ばす姿なき犯人。
誰もが思った、この犯人に狙われたら最後だと。
生き残りOBには、背後で大鎌をかざす死神がはっきり見えた。
同日また一人、リレーでバトンを受け取るように、OBの中から心臓麻痺で死人が出たのだった。
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