超人ゾンビ

魚木ゴメス

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 だがこのとき国素は、自身に迫り来る危険への恐怖で発狂寸前であった。

 それはこの時点で生き残っている全てのZ務事務次官OBに言えることであった。

 事実、先に殺された蚊藤より年長で存命のOBは八人いたが、そのうち六人までがここ数日の間に急性心不全で死んでいた。

 彼らは呪いのビデオを回し観て貞子に殺されたわけではなく、歴代Z務事務次官連続殺害犯に対する恐怖のために心停止したのであった。

 想像を絶するストレスがその肉体や精神にかかったためであった。

 国素はまずミマヨとバスルームに入り、たっぷり一時間かけて互いの体を洗い合った。

 隊員たちに聞かせるように嬌声きょうせいが響いた。

 外人の警護ならさして気にならないのに、同じ日本人だとどうしてこんなにも不快なのかと隊員誰もが不思議に思った。

 それから国素とミマヨは朝食をとった。

 食事の間も隊員たちに自分の絶大な権力を知らしめるように、国民誰もが知っている巨乳の超人気モデルを相手に、聞くにえないようなセクハラトークを延々繰り広げるのだった。

 国素にとって隊員たちは虫けら同然だったから恥ずかしいとは微塵も思わなかった。

 むしろ自分の男振りを、隊員たちと自分との格の違いを嫌と言うほど見せつけてやろうと思うのだった。

 傍若無人に振る舞いながらも国素の精神の均衡には崩壊が近づいていた。

 行動範囲は嫌でも狭められ、どこへ行くにも隊員たちがついてくる。

 いくら隊員たちを虫けらのように思っていても、いやそう思えばこそ、その虫けらに頼る自分は何なのだと。

 この虫けらどもが全く役に立っていないことは他のZ務事務次官OBがほぼ日替わりで殺されているのを見ても明らかだった。

 そうと知りながら虫けらどもの警護を断ることができない自分、その自己矛盾に対する苛立ちは限界に近づいていた。

 誰かに八つ当たりがしたかった。 

 それが国素が亜婆に電話をかけた理由だった。

 現職の総理に八つ当たりできる俺、凄いやん、素敵やん、と心の中でつぶやき、その場の全員に向かって演説でもするように、吹き抜けのある二階フロアに上がり、通話に出た亜婆に向かって怒鳴り散らした。

 亜婆に浴びせた悪罵あくばはそのまま警護の隊員たちへの悪罵であった。

 激高する国素を眺める隊員たちは完全に白けていた。

 亜婆が通話を切ったようだった。

 国素は未練がましく握ったスマホに向かって喚き続けていたが、やがてそれを床に叩きつけた。

 階下のミマヨに向かって新しいスマホを買いに行くと叫び、二段ほど階段を降りたところで、見えない誰かに後ろから突き飛ばされて真っ逆さまに落ちて首の骨を折って死んだ──そのように見えたのだが、遺体の首の後ろは足裏の形にぺしゃんこになっており、恐るべき力で誰かに首を踏み折られたようにしか見えなかった。

 そこまでが直ちに官邸に伝えられたのだが、このあと続きがあった。
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