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山済元Z務事務次官は、靺田元Z務事務次官が殺された三日後の四月十八日未明に自宅の寝室で首をへし折られて殺された。
死亡推定時刻は午前三時。
山済の邸は古式ゆかしい日本家屋であった。
山済の他には上品で人の良さそうな妻と、大柄で毛深く筋骨隆々な十九歳の書生が一人いるだけだった。
邸を囲む防波堤のように高い塀の内側は、ターシャ・テューダーもため息をつくような花鳥風月のテーマパークだった。
池には一匹何千万円もする鯉が何十匹も放されており、また広大な敷地には京都龍安寺の石庭や大仙院の枯山水を模したものなども作られており、その景観はまさに日本の美を凝縮した、幽玄の極みといった趣であった。
山済は趣味で居合をやっており、かなりの腕前だった。
いつも寝るときは国宝級の日本刀を枕元に置いていた。
腕に覚えがあるためか、寝室も鍵などついてなく、と言うより寝室自体が襖ひとつ隔てただけの畳敷の部屋であった。
何かあればすぐに飛び込めるようになっていた。
山済と同じ寝室で、書生も寝起きしていた。
山済はかくしゃくとしており、猛禽類を思わせるその風貌は何物に対する恐れも感じさせず、その所作からは一分の隙も見出だせなかった。
そしてなによりその性格は豪放にして磊落であり、一般の国民がZ務官僚に対して持つ、陰気で卑怯者の宦官のようなイメージからはかけ離れていた。
そんな山済なので隊員たちとはすぐに打ち解け、警護の合間にも特殊部隊員と談笑するだけでは収まらず、わざわざ邸の外に出て新たに配備された機動隊員にまでに親しげに声をかけてまわる始末で、もはや一緒に邸を守っているようだった。
これまで必死の警護も空しく既に六名のZ務事務次官OBが殺されてきている中で、この人だけは、山済だけは何としてでも守りたいとその場の全員が思っていた。
だが次の日の朝、山済は襖ひとつ隔てた寝室で首をへし折られて遺体になっていた。
書生が遺体のそばで正座し声を出さずに泣いていた。
書生は山済から遺書を預かっていた。
それには山済は末期のガンで、むしろ殺してくれて犯人に感謝すると書いてあった。
剖検の結果、山済は末期の膵臓ガンだった。
警察は同一犯と推定した。
死亡推定時刻は午前三時。
山済の邸は古式ゆかしい日本家屋であった。
山済の他には上品で人の良さそうな妻と、大柄で毛深く筋骨隆々な十九歳の書生が一人いるだけだった。
邸を囲む防波堤のように高い塀の内側は、ターシャ・テューダーもため息をつくような花鳥風月のテーマパークだった。
池には一匹何千万円もする鯉が何十匹も放されており、また広大な敷地には京都龍安寺の石庭や大仙院の枯山水を模したものなども作られており、その景観はまさに日本の美を凝縮した、幽玄の極みといった趣であった。
山済は趣味で居合をやっており、かなりの腕前だった。
いつも寝るときは国宝級の日本刀を枕元に置いていた。
腕に覚えがあるためか、寝室も鍵などついてなく、と言うより寝室自体が襖ひとつ隔てただけの畳敷の部屋であった。
何かあればすぐに飛び込めるようになっていた。
山済と同じ寝室で、書生も寝起きしていた。
山済はかくしゃくとしており、猛禽類を思わせるその風貌は何物に対する恐れも感じさせず、その所作からは一分の隙も見出だせなかった。
そしてなによりその性格は豪放にして磊落であり、一般の国民がZ務官僚に対して持つ、陰気で卑怯者の宦官のようなイメージからはかけ離れていた。
そんな山済なので隊員たちとはすぐに打ち解け、警護の合間にも特殊部隊員と談笑するだけでは収まらず、わざわざ邸の外に出て新たに配備された機動隊員にまでに親しげに声をかけてまわる始末で、もはや一緒に邸を守っているようだった。
これまで必死の警護も空しく既に六名のZ務事務次官OBが殺されてきている中で、この人だけは、山済だけは何としてでも守りたいとその場の全員が思っていた。
だが次の日の朝、山済は襖ひとつ隔てた寝室で首をへし折られて遺体になっていた。
書生が遺体のそばで正座し声を出さずに泣いていた。
書生は山済から遺書を預かっていた。
それには山済は末期のガンで、むしろ殺してくれて犯人に感謝すると書いてあった。
剖検の結果、山済は末期の膵臓ガンだった。
警察は同一犯と推定した。
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