超人ゾンビ

魚木ゴメス

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 ドアを開けると既に閣僚全員揃っていた。

「やあやあ、お待たせしました」

 にこやかに挨拶する。

 全員立ち上がって首相の着席を待った。

「冒頭、総理に残念なお知らせがあります」

 国家公安委員長が発言した。

 なにぃ? 残念なお知らせだと? まさか犯人が捕まったか! 

 そんな心の動揺をおくびにも出さず余裕たっぷりに尋ねる。

「ん、どうしたのかね? まさかサザエさんが終了するとか?」

 どっと笑い声が起こる。

「いえ、そうではありません。総理、新たな犠牲者が出てしまいました。つい先程、国素(くにもと)元Z務事務次官が殺されました」

 それを聞いた瞬間、亜婆はタマヨ、ゴシマ、コロステリェフ、シライ、ペネフ、シライ2、ゴリバノフ、サパタ、シライ3と進んで最後にリューキンを決め、十八・五点を叩き出した──心の中で。

 イィィィィヤホォォオウ!

 侵略者の白人騎兵隊を撃破したアパッチのように心の中で雄叫びをあげた。

 国素元Z務事務次官、それはついさっき口を極めて亜婆を罵倒していた電話の相手の名前だった。一番最初に殺された屠塚の前任者で、六十六歳の亜婆より六つも年下だった。にも拘らずあの口調だった。完全に亜婆を舐めきっていて、昼休みにメロンパン買いに行かせるパシりくらいにしか思っていなかった。

 とどのつまり日本国首相など日本の権力機構の序列で言えばそんな程度なのであった。
  
 亜婆はそのことを一期目の政権で思い知り、二期目からは彼らZ務省の忠実な犬になっていた。
 いや手段を問わない覚悟さえあれば、泥水を飲む覚悟さえあればZ務省に対抗する術などいくらでもあるのだが、泥水を飲むどころか高校生になってもお手伝いさんの母乳を飲んでいた超おぼっちゃん育ちの亜婆にそんな覚悟があるはずもなく。

 熱いトタン屋根でたった一度だけ火傷した猫のように、一期目の挫折で完全に心を折られてしまっていた。

 それになにより自分も上級国民の一員なのだ、その自分が何で下級国民のために矢面に立たにゃならんのだ、TPPが成立しようが種子法廃止しようが水道が民営化しようが移民が入って来ようが法人税下げようが消費税が上がろうが道州制になろうが自分は金持ちだから全く困らん、する気もない憲法改正だけ言ってりゃ、下級国民の奴ら勝手に期待して自分を支持してくれるから、それを最大限利用してZ務省が望む法案全部通したれ、そして日本憲政史上最長政権記録を樹立してやる、と完全に開き直っていた。
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