超人ゾンビ

魚木ゴメス

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 そんな男の取り調べ第一声が冒頭の発言だ。部屋の中がおかしな空気になるのも当然と言えた。

「条例違反だろう」
 
 刑事──村西が口をきいた。条例とは、青少年保護育成条例、中でも淫行条例を指すものと思われる。

「条例違反ね」
 
 男──Tは小馬鹿にしたような口調でつぶやくと続けて発言した。

「お互いが望んでいるんだったら問題ないよね」
 
 村西は事件の容疑とは全く関係のないこの話についてどうしたものかと思いながら、自身にも今年十三歳になる一人娘がいることもあって乗ってみることにした。
 
 上からも自由に喋らせろと言われている。
 
 少なくともこいつ──Tは話をする気でいるのだ、きっかけは何でも良い。いずれ本題に持って行けばよかろう。
 
 Tは続ける。

「十三歳でも男子なら精通、女子なら初潮が済んでいれば生物学的には立派な成人じゃねえのか」

 さっきから口調が……しかし村西刑事はそれについては何も言わなかった。

「オレはね、刑事さん。小学五年の時に精通が来た。親もそれを知ってた。精液でガピガピになったパンツをそのまま洗濯カゴに出してたからね。親戚にそれを話してるのを聞いたよ。何て親だと思ったね。オレの親父はK産党員でさ、オレが小四のときに盲腸になりかけて腹が痛いから学校休みたいつったら、当時オレがクラスでいじめられてたの知ってて、その上で何も対処しなかったくせに、兎に角世間体気にして学校行けつって、オレを仮病扱いしやがった。てかオレが自殺したらどうしたんだ? 泣き寝入りだろ。母親はノンポリだったけど兎に角とろくさくて近所の口うるさいババアどもに何かと馬鹿にされてた。そのせいか知らんがってそのせいだな、オレに八つ当たりすることが多かった。親父ともセックスに関してはそんなにうまくいってなかったのかな、ある日オレはこの母親から生涯のトラウマになるような、その後の一定の期間オレの人生を狂わせた致命的な一言をぶつけられたんだ。それはこうだ。どういうシチュエーションだったかもう定かではないが、オレは少年ジャンプを読んでいた。気まぐれオレンジロードだったかな、そこへ母親がいきなり来てこういったんだ。『男と女がイチャイチャする漫画なんか読みやがって!』憎々しげに言い放ったその表情、今でも忘れられない。なぁ、普通こんなこと実の親が言うか? 自分の子供に向かって。頭おかしいだろ絶対。あいつら毒親だろどう考えても。そんな親でもオレはやっぱり愛していたんだな、親が嫌がるようなことはすまいと、潜在意識にすり込まれちまった。悲劇の始まりだ。その日からそんなに遠くない将来、まぁ小六から中学の三年間、オレは信じられないくらいの幸運に恵まれたんだが、その間のオレときたら、このときの母親の一言によって全部ぶち壊しにしてしまった。信じられないくらいの美味しい青春を遅れたはずが、全て棒に振っちまった。思い返せばそこがオレの唯一の奇跡的モテ期、というか今までの人生を通した結果わかったことだが最高の美少女と巡り会い、その美少女をオレの好きなようにチョメチョメできたのに彼女に指一本触れることなくあまつさえ徹底的に無視し、彼女を振っちまったんだよ! クソがぁッ!」
 
 怒声とともにTは右拳を振り上げた。
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