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12.婚約破棄

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  ――――公爵家。

「さて、今日こちらへ起こし頂いたのは他でもない。そちらのヴィクトリアさんとレオの婚約についてだ」

 神妙な面持ちで旦那様の前に座る伯爵様夫妻……その隣にはヴィクトリア様がいらっしゃいます。

 私も公爵家の家従及び、金時計事件に関わったことで同席が許されていました。

「そちらのお嬢さんがごろつきを使い、家のエレンを脅し、陛下より賜った金時計を盗むことを示唆したのは聞いていることだろう」

「「はい……」」

 ご夫妻は申し訳なさそうに返事され、ヴィクトリア様はくっと唇を噛み締め、うなだれています。

「申し訳ないが今回の件はなかったことにしたい」
「そんな!? 婚約破棄ということですか!?」

「ああ、そうだ。盗みの教唆だけなら、まだしも婚約中に不貞とは呆れて、物が言えん……到底、レオに相応しい配偶者とは言い難い!」

「ははは……ははは……誰が……誰がこんな好き好んでこんなガキに嫁ぎたいと思うのよぉぉーー!! ふざけるんじゃないわよ! 私は最初からこんな婚約に乗り気じゃなかったのよ!」

 旦那様から婚約破棄という言葉を聞いた瞬間、ヴィクトリア様が急に立ち上がり、心の中でプッツリと糸が切れたように今までの鬱憤が吹き出していました。

 そして……

「それもこれも全部、あなたが悪いのよーーー!!!」

 ヴィクトリア様は突然、隠し持っていたナイフを取り出し……

「きゃっ!?」
「エレンッ!!!」

 凶刃が私に向かって、真っ直ぐ進んできたのです。そのときでした、レオ様がヴィクトリア様に思い切り、体当たりして、凶刃の軌道は私から逸れました。

「レオ様ッ!?」
「僕は大丈夫! 鍛えてるからね。それよりもエレンはなんともなかった?」 
「はい!」

 バランスを崩したヴィクトリア様は直ぐにステファンさん達に取り押さえられ、顔を床に押し付けられていました。

「あの女だけは絶対に殺してやるぅぅぅーーー!!!」
「いい加減にしろっ! 全部、あんたが悪いんだろ! エレンはただ、僕に一生懸命仕えてくれただけだ!」

 レオ様は私を守るようにヴィクトリア様の前で宣言したのです。旦那様は頷いたあと、立ち上がり、良くやったとばかりにレオ様の頭を撫で、伯爵様夫妻の方を向いて……

「お宅のお嬢さんは婚約どころか貴族の振る舞いにも相応しくないようだ。済まないが騎士団へ身柄を預けさせてもらうか……」

「「は……はい……」」

 ヴィクトリア様の行いにより、旦那様の信頼を全て失われてしまったようでした。

 こうして、レオ様とヴィクトリア様の婚約は破談となってしまい、レオ様は再び婚約相手を探す羽目になってしまいます。


 ――――数日後。

 ヴィクトリア様の身柄が騎士団へと引き渡される日が来ました。伯爵令嬢の醜聞を聞きつけ、周りには観衆が集まっています。

 後ろ手に縛られ、連れていかれるヴィクトリア様に駆け寄る男性がおりました。その方の顔を見た瞬間、彼女は明るい表情へと変わったのです。

「セシル……来てくれたのね! 私は何も悪くないわよね? あなたに尽くしてきた私は……罪を償い終えたら、結婚しましょう!」

「済まない……これまでのことは何もなかったことにしてくれないか? 今までのことは感謝している」
「そ……そんな……そんなことって……あはは、あはは、あーはっはっはっ……」

 壊れたように大声で笑い、騎士の方が制止してもその笑い声が止むことがなく……そのあと、ヴィクトリア様は罪を背負い、牢獄へと連れていかれたそうです。


 婚約破棄後、旦那様はレオ様に新しい婚約話を持って来られていました。ですが……

「僕はエレンしかいらない! 他の女の子なんて、嫌だ!」
「レオ……そんな我が儘を言うんじゃない!」

「だって、お父様が決めた相手が酷い女だったじゃないか! 今度は僕にだって決める権利があるはずだよ!」

「お前……幾らエレンを愛そうとも、彼女は貴族じゃない……結婚は無理なのだ……妾なら……」

「嫌だぁぁぁーーー!!!」
「レオ! 待ちなさい!」

 お茶を旦那様に届けようとしたとき、廊下からでも聞こえてしまっていました。乱暴に旦那様の部屋の扉が開いて、飛び出すレオ様。

 いつもなら私が側に居れば、声を掛けて下さるのに……

 レオ様のことが気になりながらも、旦那様の部屋へお茶を届けます。

「困ったものだ……」

 旦那様も色々あり、気落ちされているように見えました。

「私が悪いのです……レオ様にここまで思われてしまうなんて……」
「いや、エレン……キミは悪くない。私が呼んだのだから……」

 用意していたもう一つのお紅茶はすっかりと冷えてしまっていたのでした。

「旦那様……差し出がましいかと思いますが説得してこようと思います」
「そうか! そうしてくれると助かる。最近、私の言うことより、エレンのことばかり利いてしまうからな……」

 少し寂しいような表情をされ、窓の外の夜空を眺められています。私はティーセットを片付けたあと、レオ様を探しました。

 色々探し回った結果、お部屋のテラスでお姿を見つけたのです。

「レオお坊ちゃま……お風邪を引いてしまいますよ。中へ入りましょう」
「お父様の分からず屋なんだ。何で分かってくれないんだよ……」

 テラスで膝を抱えて座られるレオ様……

「エ、エレン……」

 後ろからレオ様を抱き締めました。

「私はどうなろうともレオ様と一緒です。たとえ、レオ様の望む通りにならなくても……」

「僕はエレンと結婚したい! 年が離れていても、お父様が反対しても! ねぇ、エレンもそう言ってよ!」
「私は……」

 突然の幼いレオ様からのプロポーズ……

 私はもうどうして良いのか分からなくなってしまいました。
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