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9.策謀

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「言ってきてやったぜ」
「ご苦労様。もう帰っていいわ」

 路地裏に潜んでいたヴィクトリアにディックが話し掛けた。しかし、用が済んだことを確認すると立ち去るよう伝えるなど、連れない態度だった。

「ちょっと待った、お嬢様よぉ、もっかい訊くがエレンを好きにしていいってのは本当なんだろうな?」

「勿論よ。私はエレンを公爵家から追い出したい。あなたは追い出されたエレンを好きにする。それに何か、問題があって?」

「いやよぉ、王家からの賜りもんなんて、盗んで無事でいられっのかと思ってよぉ……」

「あなたが心配するようなことではありません。貴族のことは貴族に任せなさい」

 ヴィクトリアはエレンとディックを助けるつもりなど、さらさらなく、二人とも始末するつもりでいた。

「まあ、良く分かんねえけど、どの道、このままだとエレンに手出し出来ねえんだ。協力してやるよ」


 ――――数ヶ月前のこと。

 ヴィクトリアは公爵家に彷徨くディックを怪しみ、声を掛けた。

「ここで何をしていらっしゃるの?」
「ああ? ここに世話になってるメイドに話があんだよ。あんた、ここの家の身内か、何かか?」

「そうね、もうすぐ身内になるわ。そう、あのメイドに……少し、お話しできないかしら? あなたにも悪い話じゃないと思うけど」


 ヴィクトリアはディックを伯爵家の離れに招き、二人の関係を聞き出していた。

「そうなんですね。あなたとあのメイドが浮気を……とんだ淫乱女ですこと……」

(そんな女が私の婚約者のお世話だなんて……)

 自らのことを棚に上げ、エレンを非難する。

「あいつは中々の玉だぜ、何せ、俺が仕込んでやったんだ」
「じゃあ、あの女はあなたの言うことは利くのね?」
「ああ、あいつは俺に逆らえねえ!」

 利害が一致したことで互いにほくそ笑んでいた。

          ☆

 ――――伯爵ルートヴィヒの執務室。

 私はどうすれば良いのか、分かりませんでした。分からないながらも翌日、アンナさんに体調が戻ったことを伝え、仕事に復帰していて、旦那様のお部屋を綺麗にしております。

 ディックにはああ言ったけど、偶然にもレオ様から場所を聞いておりました……

 執務室に飾られた国王陛下の肖像画の裏に鍵があり……旦那様様の机の引き出しの中段……

 私は掃除の手を止め、肖像画を外し、鍵を見つけました。そして、引き出しに手を掛け、開けると眩い光が照らしました。


 ――――約束の日。

「持ってきました。もう、これっきりに……」
「分かった、分かった。早く物を渡せ」
「はい……こちらです」

 私は包みを解き、ディックに金時計を見せました。開いた瞬間、顔が写り込むくらい輝いています。

「すげ~ぜ! こいつは……一体、幾らになるんだ? 一生、遊んで暮らせそうだぜ!」

 私から受け取り、小躍りしていたのですが……

「エレン……俺とお前は共犯者だ。黙って欲しかったら、分かるよなぁ、くっくっくっ。また、抱いてやる感謝しろ」
「そんな……これっきりって……」

 私の願いなど、始めから利くつもりなんてなかったのです。

「騙されだってか? 世の中なぁ、騙される方が悪いんだよ!!!」

 勝ち誇ったように私の腰に手を回そうとしたときでした。

「待て、悪党! 僕のエレンに触れるなっ!」

 レオ様が現れ、ディックに向かって叫んだのです。

「何でここにガキが!? エレン! 騙しやがったな!」
「私はもう、あなたの言いなりにはなりません!」
「くそっ!」

 ディックは私を押し退け、一目散に逃げ出しました。

「待てえ~!!!」

 と、レオ様は叫びましたが、追い掛ける素振りは見せませんでした。
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