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8.過去の過ち

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 私が街へ買い出しに出掛けたときでした。

「よお、エレン……久しぶりだなぁ」
「ディック!」

 昼間から、お酒の匂いを漂わせ、私の肩に触れてきたのです。事故とはいえ、あんなことがあったのに……

「もう、あなたとはお付き合い致しません。手を退けて下さい」
「お前、随分と上手くやったなぁ~、公爵家に入って、ガキに気に入られるなんて、全く大した玉だぜ」

「なぜ、そのことを……」
「舐めてもらっちゃあ、困るぜ。なあ、そこでよぉ、頼みがあるんだが……」

「いやです! どうして、私があなたの頼みなんて利かなくちゃならないんですか! 金輪際、私に関わらないで」

「お~っと、俺にそんな口利いても良いのかぁ~? 公爵様に洗い晒い話ちまうぜ、お前が旦那に隠れて、俺と浮気してたとんでもない淫乱女だってことをよぉ、くっくっくっ……」

「お願いですから……そのことは……」
「だったら、俺の言うことを利け。なあ~に悪いようにはしねえって」
「はい……」


 ――――酒場の片隅。

「まあ、座れって」

 酒場の隅の席に連れていかれ、話を持ち掛けられました。

「公爵家にはなぁ、王家から賜った金時計があるらしいんだよぉ。そいつをちゃちゃっとくすねて来てもらいてえんだな」
「そんな物……どこにあるのか知りません」

「ガキに聞きゃ~すぐ分かんだろ。随分とエレン、エレンって懐いてるらしいじゃねえか。なあ、俺とお前の仲だろ、また、俺としっぽりやろうぜ」

 怒りと同時に吐き気が込み上げたのですが、何もすることが出来ず……

「もう、これで最後にして下さい……」
「まあ、考えといてやるよ。頼んだぜ~」

 昼間からエールを飲み散らかすディックの側を離れ、お屋敷へ戻ってきました。

「お帰り、エレン。あんた、どうしたんだい? 顔色が優れないようだけど……もう、ここはあたしらに任せて、上がんなって」

「ありがとうございます……」
「無理すんじゃないよ!」

 余程、私の顔色が悪かったのか、アンナさんから仕事を早めに切り上げるよう仰って頂き、直ぐに部屋に籠もったのです。じっとしていると忌まわしい過去が頭をもたげてきました。

          ◆

 ――――私がかつて犯した過ち……

 コンコン、コンコン。

「随分と早く戻ってきてくれたのね!」

 長旅から戻ったゲオルグを出迎えようと扉を開けたときです。

「残念、俺でしたぁ~」
「ディック!?」

 討伐に遠征していた夫が予定より早く戻ってきたと思って、扉を開けてしまったのが全ての間違いでした。

「エレン……ゲオルグが居なくて、溜まってんだろ? 俺が慰めてやっから、どうだ? もちろん、あいつには内緒だ」
「いやです! 私は彼の妻なんですから!」

「は~ん、俺は知ってるぜ。お前が夜な夜な自分で慰めてるってな」
「違います。私はそんなこと……」

「そんな強がるなって、もっと自分に正直になれよ。女慣れしてねえ、あいつより気持ち良くさせてやるからよぉ」

 拒んでいるにも拘わらず、ディックに無理矢理ベッドに押し倒され、キスされてしまい……

「止めて! 止めてったら!」
「おお~、止めてって言いながら、なんだぁ? 下着が湿ってるのはどういうこった? くっくっくっ……」

 私に馬乗りになって、下着の上から嫌らしい手付きで愛撫してきたのです。その手は止まることなく、下着の中へと滑り込み……

 あっ! あうん!

 悟られるのが嫌で声を押し殺しましたが陰核に指の腹が当たり、気持ち良さに抗えなかったのです。

 こんな男に……私は……

 気付くと彼の肉棒が私の膣内を穿っていました。心が抗おうと思えば思うほど、身体が快楽に堕ちていってしまう。彼に犯されている時間は地獄そのものでした。


 ゲオルグ……許して……

 こんな男に犯されているのに淫らな声を……

 感じてしまったことを……


「そんな泣くなって、気持ち良ったろ?」
「もう、家に来るのは止めて下さい!」

「くくく……笑わせやがる。お前はもう不貞の人妻なんだよ。お前が俺に突かれて、ヨガってたことをゲオルグにチクッたら、どうなることやら……」

(私を愛してくれたゲオルグにだけは知られたくない……)

「お願いですから、それだけは止めて下さい……」
「だったら、どうすりゃ良いか分かってるよなぁ……」
「はい……」


 バシャァァァーーー!!!


 ディックが家から去ったあと、外が寒いにも拘わらず、井戸の水を汲み上げ、下着のまま桶に並々と汲んだ冷水を浴びました。

 夫を裏切ってしまったこと……

 身体が他の男に汚されてしまったこと……

 何度、冷水を浴びようとも私の身体から気持ち悪さが消え失せることはなかったのです……


 それからというもの、ディックはゲオルグが不在のときに現れ、彼との関係を強要されてしまうのでした。
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