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一学期

とある日の6月の課題発表

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 6月。暑くなり始め、梅雨がもたらすじめっとした環境は誰もの不快指数が急上昇する季節。

「宇宙人的にてるてる坊主ってどうなの」
「周りの湿気を吸い取るガンサラビ星人を象った人形を吊るすというのはとても興味深いですよ?」
「何それ怖い」

 遥がなんとなくてるてる坊主という存在を教えて作って見せたら、ドドも作り出した……目が8つほどあるのがドド作である。広大なる宇宙の1ページを強制的に見せられた気分になりながらも、休日で雨という状況を遥は嘆いていた。

「なぁ、ドド、梅雨前線とかどうにかならないのか?」
「どうにかしてもいいですが、向こう10年雨が降らなくなります」
「加減出来んのか」
「地球用の装置じゃないですし、しかたないかと」

 どうにもならない状況は遥にとってあまりにも暇すぎた。勉強ももちろんやる気になるわけが無い。

「よし、今のうちに聞いとく。6月は何すればいいんだ?」
「おや……積極的になってくれるのは大変喜ばしいですね! 実はもう、6月は決めてあるんですよ。遥様はどうにも何日もやるようなものは苦手なようなので……早ければ1日で終わるものを考えさせて頂きました」

 ドドが食い気味に遥に近寄ってくる。暑くてジメッとしている中に近寄られるとウザさが倍増する。

「6月14日……仁様のお誕生日ですよね? 誕生日を祝うなんて、死に近づいているのに何故? と疑問を抱かざるを得ないよく分からない文化ですが、地球人にとって重要なイベントみたいなので、仁様にプレゼントを用意してあげてください」
「…………それで?」
「それだけです」
「なんだ、それだけか……もともとやろうと思っていたことだから、今月も楽で助かる」

 6月14日。仁の誕生日には何かプレゼントを贈るつもりでいた。高校に入ってから順と遥は仁に勉強をみてもらった感謝を込めてプレゼントを用意したのが始まりだ。無論、今年もするつもりでいた。

「えぇ……2人でではなく、遥様個人から仁様へのプレゼントです」
「…………1人で?」
「もちろんです。プレゼントはなんでもいいですが、このプレゼントに関してはこちらは一切手を貸しません」

 難易度が急に上がる。
 遥はもう、順と共にあげるプレゼントの目星をつけて順にお金を預けてしまっている。今更キャンセルも難しく、残り少ない小遣いから仁が喜びそうなプレゼントを見繕う必要が出てきたのだ。

「6月15日にお誕生会をします。その時までに準備をお願いしますね? 派手でごはんも沢山出るものを予定していますので、これが今月のご褒美でもあります」
「その時に渡せと」
「そうですね? もちろんその前に渡していただいても大丈夫ですよ?」

 今回は時間制限付きである。今日が6月の初めなので丁度2週間。

「ちなみに間に合わなかったら……?」
「既に会場抑えてますし…………泣く泣く、染色体変更ビームを発注します」
「…………本気っぽいな」
「出世がかかってますので」

 ドドの瞳に本気をみた遥は考える。今、自分が出来る仁へのプレゼントは何か。
 お小遣いはほぼなし、ドドに頼ることも出来ない。
 浮かんでは消す、プレゼントは自分という選択肢。
 きっと、鉛筆だろうと消しゴムだろうと喜んでくれるのはわかるのだが、よりにもよって今回、順と共に目星をつけたものが文具セットなのである。
 色々な意味で男であるために遥は湿気すら忘れて悩み続けた。
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