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一学期

ある日の卵焼きづくり

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 主菜ミニハンバーグ、副菜サラダのお昼ご飯を食べたら、今度は卵焼きの番である。甘いのしょっぱいの出汁などなど1口に卵焼きと言っても好みが別れる。そして、分厚い卵焼きを作るにはなんども失敗しスキルを磨く必要がある。

「慌てなくてもいい、ゆっくり丁寧に……卵は余熱でも少しずつ固まってくれるから怖ければ、火から少し離して時間をかけるのもありだから」
「は、はい」

 すでに沢山のスクランブルエッグができている。これについては仁や順、ドドも出来たものを消費する役割になる。
 ドドとしては恋愛のあれやそれも盛り込みたいところなのだが、今回はご褒美。友情優先なのだ。恋愛トークするにしても男友達がするであろう話題程度に収めている。

「んで? そういうドドはどうなんだよ」
「そういえば、そうだな、故郷に好きな人ぐらいいるんじゃないのか?」
「ボク!? い、居ないですよ?」
「ここでドドが初恋の相手を話したら遥の初恋の相手も聞きやすいと思うんだが、どう思う?」
「なるほど、それは名案だぜ」
「へーるぷ!! 遥様! へるぷです!!」
「こっちも卵焼きがいい感じになるかどうかの瀬戸際だから、こっちはこっちで頑張るから、そっちはそっちで頑張れ」

 少しずつ、少しづつだが卵が巻けてきている。著しく卵を消費したがドドが用意してくれた卵はまだまだあるので問題がない。

「ふぅ、もう少しで掴めそうなんですけど……お手本お願いできますか?」
「やって覚えた方がいいと思うけど……まぁ、手の休憩がてらならいいか」

 遥が慣れた手際で卵を割ってボウルに移してといでいく。やりすぎてはいけない。黄身と白身が混ざりきらないぐらいの方がいい。中にマヨを少し入れて、味付けは塩コショウ。シンプルな卵焼き……ただし、フライパンに敷く油もマヨネーズにしておく。

「よしと……」

 慣れているとはいえ、しっかり集中しないといけない。食材を無駄にしないためひとつひとつ丁寧にが基本である。

 じゅわぁぁぁ。

 マヨネーズが少し焦げる香ばしい匂いが漂ってくる。作った卵液を適量入れて暫くまってからは繰り返し作業になる。

「分からないところがあるんですけど」
「ん、なんだ?」
「センパイの初恋は結局どなたですか?」
「うわっとぉ!?」

 力が入り思わずフライパンをひっくり返しそうになる遥。どうなるかなんとなく察していたので少し離れていた瀧男は驚きもせず見守る。

「その反応、いるみたいですね?」
「うっせい……お前にこれはやらんぞ」
「いいじゃないですか、今は違うんでしょ? 初恋がずっと続いてるとかありえないですし」

「がはっ!?」
「仁ー!? 大丈夫か!?」
「わー?! お水飲みますか!?」

 流れ弾が仁にクリティカルヒットする。むせ込んで倒れる仁を2人で全力で介護にかかる。

「覚えてるような覚えてないような……わからん」
「えー!? なんですかそれ」
「そういうもんじゃないのか? 初恋って……なぁ?」

 遥が消費係たちに訪ねようとしたが、なんだか忙しそうだった。そして、少なくとも初恋を今まで大事にしてきた人もそこに居た。

「子どもの頃になんかそういう経験があったようななかったような?」

 正直、遥は初恋の話を振られると困るのだ。確かにあった気がする。でもいつ、何処で誰だったか。どんな結末を迎えたのかは全く分からない。初恋とはそんな物だと思っていた。初恋が語れるのは最近、初恋を知った人や一部の人だけだと思っていたが……みんなの空気や反応を見るとどうにも違うらしい。
 恋愛から遠い存在、遥はなんだかさらに恋愛が遠く感じるのだった。
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