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一学期

ある日のからあげ作り

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 桜野家のキッチンはそこまで広くは無い。それぞれが別の作業をしたとしても、同時に作業が出来て3人、詰めて4人が限界である。なので、キッチン組とダイニングの二手に分かれて作業をすることになった。

「とりあえず、まずはからあげを作る。ドド、順、仁、瀧男はしっかり手洗いをしてから……どうした、ドド何か言いたそうだけど」
「遥様、班わけに異議があります! どうして瀧男様と!? せめて、仁様辺りで」
「えー、ドド君仲良くしようよ? あ、ドド君、宇宙人とか興味無い? この間、カラオケの近くで目撃されたって話があってさ」
「いやー!?」
「よし、問題なさそうだから作業するぞ」

 厳正なるジャンケンによる班わけの結果である。遥には諦めろとしか言えない。

「まずは鶏皮を剥いで……これ手本いるか?」
「出来れば欲しい」
「わかった、瀧男に手本見せたらそっちでもやる」

 遥が真剣な表情で鶏皮を剥いでいく。

「なぁ、仁……お前、来れなかったんじゃないのか?」
「テストを頑張ったから息抜きだ。そっちこそ、難しいと聞いだぞ」
「店の手伝い頑張ったから息抜き……」

 そんな遥を順と仁は2人で眺めながら会話をする。

「てか、鳥の皮剥くぐらい頑張れば出来んじゃね? 家庭科でやった記憶あるだろ」
「遥がずっとあちらにかかりきりで良ければ、僕が教えてやろうか」
「……遥に教えてもらった方がいいな」

 遥の表情もそうだが、瀧男の表情も真剣そのものである。本当に純粋に料理を習いに来たのだとわかる。

「おーふたりさん」

 いつの間にか、ドドが元々小さな体を更に小さくするように屈んで順と仁の足元までやって来てきた。

「おぅ、ちびっこどうした」
「ドドくんだったか、あっちで皮のはぎ方を習わなくていいのかい?」
「ボクの国ではああいうのはオートメーション化してますから……それはそうと、おふたりは遥様がお好きですよね?」

 ドドの言葉に2人が台所へと一瞬で沈む。順と仁が2人してドドの口を手で塞いでいる。

「どうしてわかった!?」
「順は分かりやす過ぎる! 順は遥にバレていないだけ奇跡だということを理解しろ。問題は僕だ、どうしてわかった」

 2人して混乱していたが、しっかりと小声にはなっている。

「それはおふたりが分かりやすいですから……さて、ボク、瀧男様とお出かけしてきますね? 遥様が言ってましたが、この後、お肉に下味をつける時間があるみたいなのでその時にでも」
「おい、オレたち、ちびっこに気を使わてるぞ……」
「いや、実際ありがたい……」

 順と仁は珍しく全く同じ思いを抱いていた。

『できれば、2人きりになりたい』

 これである。どうにかして2人きりになれないだろうか……相手をこの家から引き離す方法をそれぞれが考える。

「では、布石をうっておきますね……あー! 遥様! 食後のデザートがないですよ!! ボク、今日はアイスの気分何ですけど!」
「いや、知らん! 急に言われてもないぞ」

 なるほど、これでちびっこと瀧男は外に出るのかと順が感心している間に、仁は全く違うことを考え、実行に移した。

「遥、この後、肉を漬け込むんだろ? その間に僕と2人でアイスを買いに行かないか」
「あっ、おまっ! だったらオレもいく!」
「3人もいらないだろ……よし、ならお前ら2人で行ってきてくれるか? その間に俺と瀧男は玉子の白身と黄身を上手く別ける練習しておくから」
「えっ……あ、えーあー、うー……」

 瀧男は順と仁の絶望的な表情を見て2人の狙いが分かったが、瀧男も料理の練習は是非したいところなので黙るしかない。

「ありがとうございましたー!」

 こうして順と仁の2人のは仲良く5人分のアイスを買いに行くことになったのであった。
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