上 下
24 / 79
一学期

とある日のゴールデンウィーク3日目

しおりを挟む
 ゴールデンウィーク3日目。5月5日はこどもの日である。この日は仁の母親の出勤時間に合わせて仁の家へ集まってから車で図書館に向かうことになっている。

「よろしくおねがいします」
「よろしくね。なんだか仁はあなたと勉強する方が身になるみたいだからこっちとしても大助かりよ」
「人に教えるには教える側は何倍も理解しておかないといけないからね。遥は飲み込みも早いし教えるのも楽しくて」
「あんま褒めんなよ。恥ずかしい……」

 車で揺られること20分。遥があまり来ない方向へ移動しているので少し新鮮な景色を見ていると大きな建物の駐車場へと車が入っていく。どうやらこの大きな建物が目的の図書館のようだ。

「でっけぇ……なんだこれ」
「僕も初めて来た時はそんな感じだったよ。じゃあ、母さん仕事終わりはいつも通りだよね?」
「そうよ。遅れそうならまた連絡するわ」

 仁は微笑ましそうに遥を見ながら、迎えの時間を確認する。

「よし、行こうか」
「おう!」

 仁と遥は並んで図書館へと向かう。遥は人生初体験レベルの大きさの図書館にワクワクしていた。
 外が大きければ、当然のように中も広い。受付から見える範囲だけでも数えるのが億劫になるほどの量の本棚が見える。遥がキョロキョロしている間に仁がグループワーク用の自習室を借りてきてくれたらしく。

「おーい、遥、こっちだ」
「待ってくれよ」

 いつの間にか司書さんが仁を案内しているところで、遥は小走りで仁になんとか追いつけた。
 グループワーク用の自習室はかなり小さめの部屋ながらしっかりと椅子と机のセットが4つ、お互いの顔が見えるように向かい合わせで並べられている。

「飲食は飲食スペースか庭でお願いしますね」
「わかりました」

 簡単な注意事項の最後に司書さんが付け加えてから扉が閉じられる。

「とりあえず、出てた宿題から片付けるか?」
「プリントだよな……」

 休みの前に宿題として各教科プリントが出ていた。遥も寝る前や時間のある時に少しでも進めようとしたのだが、分からない問題が多く空欄が目立ってしまっている。

「なるほど、まずは空欄をうめるか……30分集中してやろう」

 仁がそう言うとスマホのタイマーを30分で設定してスタートさせる。お互いに黙々とプリントを終わらせていく。遥は考え、悩みながら進めていくのに対し、仁はまったく悩むことなくサクサクと進めていく。

 ぴぴぴぴ! ぴぴぴぴ!

 タイマーがなる頃には仁はほぼ全てのプリントを終わらせてしまっていた。数日分の宿題として出されたプリントのほとんどである。

「もうそこまで終わってるの!?」
「これぐらいはな」

 向かい合って座っていた仁が席を変えて遥の隣へと移る。物理的に一気に距離が近くなる。遥は意識したら負けだと自分に言い聞かせながら仁が口を開くのを待つ。仁は真剣に遥のプリントをじっと見つめている。
 これだけ近くにいるのに汗臭さを感じないどころかなんだか少しいい匂いまでする。よくよく嗅いでみるとシャンプーの匂いだと気がつく。昔からこいつは同じシャンプーを使い続けているので遥も嗅ぎなれた匂いで少し安心する。

「よし、とりあえず、今のところは大丈夫そうだが……どうした遥?」
「い、いや、なんでもない説明を続けてくれ」

 ガン見しているのがバレて仁から不思議そうな顔をされてしまった。

 そも、どうして俺がこんなにドキドキしなきゃならないんだ? 好きになったのは向こうなのだからドキドキするべきは向こうだろう! 遥はそんな事を思っていた。

 しかし、仁もドキドキしていないわけが無いのである。遥のプリントを確認している時からドキドキしており、物凄く見つめられていることに気がついた時はわざと2回ほどいつもよりも多く見直しをしてしまっていた。ここが図書館でなければすぐにでも抱きしめたい衝動が抑えきれなかったかもしれない。順も遥の事が好きだとわかった今、仁も焦っているのだ。

「まったく……どうしてこんな事に……」
「お、おう、俺そんなにヤバい?(成績的な意味で)」
「…………声に出てたか。すまない……まぁ、ヤバいな(自分がドキドキしすぎて何をするか分からなくなってくるという意味で)」
「そうかぁ…………」
「ま、まぁ、遥が気にすることでは無い」
「俺のことなのに!?」

 お互いドキドキしながらも楽しく勉強会は過ぎていったのだった。
しおりを挟む

処理中です...