上 下
33 / 48
VS聖騎士

聖騎士との戦い?

しおりを挟む
・聖騎士との戦い?
 俺には攻撃力というものが備わっていない。物理的な干渉は出来ないのだ。俺がしゃべっているのも厳密には物理的な干渉ではない。俺がどんなに暴れてもどんなに大声を出しても埃ひとつ動かせないということだ。逆に言えば、俺にはどんな物理攻撃も干渉ができない。傷を負うことがない。なので目の前で剣を構えられても恐怖がない。
「ヤクモ、あんたがリッチーだとは思わなかったわ。さすがリッチー、ずる賢いリッチーらしいわ」
「そっちが勝手に勘違いしただけな気がするんだよなぁ……」
 聖水の効果がない、それをしっかりと理解するまでに数秒かかったようだが、サラはようやく我を取り戻し剣を引き抜く。一応、まだまだ戦う気ではあるらしい。俺としては臭すぎるので出来れば外に行きたいのだが、位置関係として相手が扉の方にいるので、それも難しい。というか、死霊術士ギルドはそれほど広くはない。長物を振り回されると被害が出る可能性が高い。
「ここじゃ、狭いからやるなら外でやるぞ」
「ヤクモさん、大丈夫ですか?」
「まぁ、やばいと思ったら止めてくれ」
 ダメもとで外に出るように声をかけるとサラは大人しく外に出る。タンポポは心配そうな表情で俺を見ていたが、聖水の威力を考えると俺を完全に害する手段を持っていないように思えた。問題のサラだが、大人しく死霊術士ギルドの外へ出てくれたのはありがたい。言ってみる物である。
 今日の天気は曇り、俺にはわからないが暦としては冬に近いようなので肌寒くなるんだろう。俺に続いて、タンポポとエリザベスも外に出てくる。
「ふふっ。曇りだからって外に出るとは油断したわね! 全知全能なるゼン神よ。哀れな私たちにその一端をお見せください。その光が私達の救いとなる。光よっ!」
 サラが呪文らしきものを詠唱すると同時に何かを空に向かって投げる。呪文ってそんなことをいっていたのか……感心しながら俺はどうするべきか考えていた。朝の時間帯、周りに人がいることを考えるとサラはそこまで無茶苦茶しないと思う。エリザベスも心配して外に出てきているし、サラはエリザベスをしっかり視認してから呪文の詠唱をしていたので被害はそこまで大きくないはず。とりあえず、何もせずに棒立ちを選択。
 サラが空に向かって投げていたものは何か小さな袋でそれが空中で霧散すると、雲が消えてなり、太陽が顔を出す。
「ふんっ。太陽の光で浄化されるがいいわ!」
「すまん、それはもうやったんだ」
 太陽に照らされても全然問題はない。これは以前、何の気なしに試してしまっている。見守っているタンポポも慌てもしない。見てくれは可愛らしいサラの表情が面白いぐらいに変わる。しかし、太陽を顔を出させる……なんていうおそらく魔術は目立ちすぎる。ギャラリーがどんどん多くなっていく。見た目的には聖騎士であるサラが1人で騒いでいる状態になるのだが、大丈夫だろうか?周りの反応を見ているとサラの恰好がいかにも聖騎士であることが幸いしてなのか悪いものではなく温かい声援のようなものが飛んでいるようだ。
「ありがとうございます。ここにいるリッチーは私が倒して見せますので! みなさんは安心していつも通りの生活を送ってください! あぶないので近寄らない様にだけおねがいします」
 その証拠にサラがギャラリーに対して声をかけている。しかし、サラの呼びかけに対してギャラリーたちは見物を決め込んだようで遠巻きにサラを眺めている。
「……サラ、お前は動かなくていいから、次はその抜き身の剣でも使うんだろ?」
 ギャラリーには俺が見えていない。なんとなくサラの身体の剥いている方にリッチーがいるのだろうと思いそちらをなんとなく開けているのだが、ギャラリーが増えてくるとそれもお構いなしになってくる。だんだんとサラ中心にギャラリーの円が出来てしまっている。俺はすでにそのギャラリーに飲み込まれつつあるのである。この状態でサラが急に動いたりするとギャラリーはそれに対応できずに大変なことになるのが目に見えていた。
「リッチーにしては良い心がけね」
「死霊術士ギルドの前で怪我されちゃ敵わん……」
 サラの目の前に立つと瞬間、ずんっっと俺の身体に衝撃が走る。よく見ると抜き身の剣に光が宿っている。おそらくこれも魔術の類なのだろう。剣が俺に触っている。しかし、衝撃だけである。重いには重いが大きなぬいぐるみで、ムキムキの男に殴られたような衝撃しかない。生前もそんな経験はないのでこの例えがあっているかわからないが……細身の女性が振るう細身の剣で出せる衝撃ではないという事だけは確かである。
 剣は俺の身体の左肩のあたりから入り、臍の少し上のあたりで止まっている。痛みはないがこのビジュアルはかなりショッキングな気がする。
「タンポポ先生、あれは大丈夫なのかしら!?」
「リッチーには核というものがあると言われていまして……それが凡そ体の中心にあると言われています。それを壊そうとしたんだと思うんですが……ヤクモさんは規格外なので核が固すぎたのかと」
 何それ初耳情報。俺には核というものがあるらしい。それが今、剣が止まっている位置にあるようだ。タンポポが慌てていないのを考えると……いや、サラの実力がありすぎて慌てることすら出来なかったのかもしれない。
「くっ……抜けないっ」
「すまん、俺からしてやれることもない」
 剣ががっちりと俺の体の中に入り込んでしまっている。しかし、この剣は考えようによってはめちゃくちゃ便利な気がする。つまるところ、俺が装備できるかもしれないものなのだ。素材なのか魔術なのかわからないが、興味深い。素材であるならこの素材で孫の手のようなものを作れれば、世界に干渉が可能になる。試しに刀身を触ろうと手を伸ばす。
 バキィィィィィィンッ
 甲高い音と共に剣が折れると同時に刀身が地面に落ちる。ギャラリーが急にざわめき始める。タンポポも青ざめ、エリザベスはキラキラとした瞳で俺を見る……目の前にいるサラを見たくないが……視認すると驚愕と絶望の表情を浮かべている。
 あぁ、俺はまた何かやってしまったらしい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

僻地に追放されたうつけ領主、鑑定スキルで最強武将と共に超大国を創る

瀬戸夏樹
ファンタジー
時は乱世。 ユーベル大公国領主フリードには4人の息子がいた。 長男アルベルトは武勇に優れ、次男イアンは学識豊か、3男ルドルフは才覚持ち。 4男ノアのみ何の取り柄もなく奇矯な行動ばかり起こす「うつけ」として名が通っていた。 3人の優秀な息子達はそれぞれその評判に見合う当たりギフトを授かるが、ノアはギフト判定においてもハズレギフト【鑑定士】を授かってしまう。 「このうつけが!」 そう言ってノアに失望した大公は、ノアを僻地へと追放する。 しかし、人々は知らない。 ノアがうつけではなく王の器であることを。 ノアには自身の戦闘能力は無くとも、鑑定スキルによって他者の才を見出し活かす力があったのである。 ノアは女騎士オフィーリアをはじめ、大公領で埋もれていた才や僻地に眠る才を掘り起こし富国強兵の道を歩む。 有能な武将達を率いる彼は、やがて大陸を席巻する超大国を創り出す。 なろう、カクヨムにも掲載中。

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。 転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。 それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。 これから零はどうなってしまうのか........。 お気に入り・感想等よろしくお願いします!!

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

異世界に転生!堪能させて頂きます

葵沙良
ファンタジー
遠宮 鈴霞(とおみやりんか)28歳。 大手企業の庶務課に勤める普通のOL。 今日は何時もの残業が無く、定時で帰宅途中の交差点そばのバス停で事件は起きた━━━━。 ハンドルを切り損なった車が、高校生3人と鈴霞のいるバス停に突っ込んできたのだ! 死んだと思ったのに、目を覚ました場所は白い空間。 女神様から、地球の輪廻に戻るか異世界アークスライドへ転生するか聞かれたのだった。 「せっかくの異世界、チャンスが有るなら行きますとも!堪能させて頂きます♪」 笑いあり涙あり?シリアスあり。トラブルに巻き込まれたり⁉ 鈴霞にとって楽しい異世界ライフになるのか⁉ 趣味の域で書いておりますので、雑な部分があるかも知れませんが、楽しく読んで頂けたら嬉しいです。戦闘シーンも出来るだけ頑張って書いていきたいと思います。 こちらは《改訂版》です。現在、加筆・修正を大幅に行っています。なので、不定期投稿です。 何の予告もなく修正等行う場合が有りますので、ご容赦下さいm(__)m

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ボッチはハズレスキル『状態異常倍加』の使い手

Outlook!
ファンタジー
経緯は朝活動始まる一分前、それは突然起こった。床が突如、眩い光が輝き始め、輝きが膨大になった瞬間、俺を含めて30人のクラスメイト達がどこか知らない所に寝かされていた。 俺達はその後、いかにも王様っぽいひとに出会い、「七つの剣を探してほしい」と言われた。皆最初は否定してたが、俺はこの世界に残りたいがために今まで閉じていた口を開いた。 そしてステータスを確認するときに、俺は驚愕する他なかった。 理由は簡単、皆の授かった固有スキルには強スキルがあるのに対して、俺が授かったのはバットスキルにも程がある、状態異常倍加だったからだ。 ※不定期更新です。ゆっくりと投稿していこうと思いますので、どうかよろしくお願いします。 カクヨム、小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...