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月の砂漠のかぐや姫 第291話
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理亜と王柔も、羽磋に続いて意識を取り戻したのか、それぞれが少しずつ身体を動かし始めました。あまりに大きな変化に遭遇したせいか、目を覚ましてすぐには理亜と王柔の事にまで気が回っていなかった羽磋でしたが、二人の動きですぐに我を取り戻しました。そうすると、「二人が大きなけがなどしていないか」という心配がたちまち羽磋の心に浮かび上がってくるのでしたが、有難いことに彼の目には二人とも自分と同じように大きなけがなどはしていないように見えました。
自分たちの身体に対する心配が無くなると、やはり、自分たちが置かれている状況が気になります。羽磋は軽く頭を振りました。あまりにも急激な変化があったので、まだはっきりと状況をつかみ切れていないのでした。
目の前に飛び込んできた理亜と絡み合って地面に倒れたところで、母親が放った巨大竜巻に巻き込まれたものですから、その後の推移を羽磋がわからないのも無理はありません。周囲の状況どころか、彼にとっては自分たちがどうして死なずに済んだのか、それ自体が不思議でならないのです。
羽磋は額に右手を当てると目を閉じて、あの時のことを思い出そうと努めました。
あの時、つまり、「母を待つ少女」の母親が巨大竜巻を羽磋たちに向けて放とうと頭上に手を振り上げ、一方でそれをさせまいと羽磋が小刀を腰だめに構えたまま母親に向けて走った時、理亜が突然二人の間に割って入ってきました。そして、母親にではなく羽磋に対して正対し、「母親を傷つけるのを止めて」と叫んだのでした。
それは、「母を待つ少女」の母親にとって、全く予想もしていなかったことでした。理亜が自分たちの間に割って入ってくるのを目に捕らえた時に、彼女は反射的に「自分に向かって、お母さんヤメテ、とでも言うのだろう」と思いました。それはそうでしょう。母親はそれまでずっと、理亜が羽磋たちと結託して自分を騙そうとしている、実際は違うのに自分の娘であると嘘を言っている、と考えていたのですから。
ところが、理亜は仲間である羽磋を母親の攻撃から守ろうとするのではなく、羽磋の攻撃から母親を守ろうとしたのです。それも、なんらかの作為を考える間もない咄嗟の行動で、です。
「ええっ?」という驚きがパッと母親の心に生じ、それが一瞬のためらいを生みました。さらにそれが、理亜に向かって怒りの炎を燃え上がらせ、彼女を粉々に砕いてやりたいと思って巨大竜巻の尻尾を握っていた母親の手の力を、僅かに弱くしました。
それでも、理亜の背中が「母を待つ少女」の母親の目に映ったのは、巨大竜巻を羽磋や理亜たちに向けて放ろうとしていた正にその時のことでしたから、彼女は始めからの勢いのままに両手を振り下げ、それを羽磋たちに向けて放ちました。
理亜と縺れ合いながら勢いよく地面に倒れ込んだ羽磋が顔を上げた時には、自分の視界は接近した巨大竜巻で一杯となっていて、次の瞬間には轟音と強風がゴシンバシンと身体に叩きつけられました。そして、彼の視界は巨大竜巻が巻き上げたゴビの砂で真っ暗に閉ざされ・・・・・・、そのまま彼は意識を失ってしまいました。
羽磋は明らかに「死」を意識していました。彼が一目見て理解したとおり、「母を待つ少女」の母親が巻き起こした巨大竜巻は、羽磋や理亜の身体を飲み込んで粉々に砕いてしまうだけの力を十分に持っていました。
では、どうして、羽磋たちは命を拾うことができたのでしょうか。
その理由は、巨大竜巻の進んだ道筋にありました。「母を待つ少女」の母親が羽磋たちに向かって放った巨大竜巻は、その巨体をブルンブルンと揺らしながらも、母親が狙ったとおりに進んで行きました。でも、そこには母親が予期していなかった要素が影響を与えていたのです。
その要素とは理亜の行動でした。自分を守ろうとして羽磋の前に立った理亜の背中が目に入った母親は、予想もしていなかったその行動に驚き、巨大竜巻の尻尾を握っていた手の力をほんのわずかにではありましたが弱めてしまいました。ただ、轟々と勢いよく渦巻く巨大竜巻は恐ろしいまでの力を持っていて、尻尾を握る彼女の手の中でもそれが常に暴れ回っていたほどでしたから、そのわずかな力の差が進む先に影響を与えたのです。つまり、母親が頭上から巨大竜巻を投げおろした時の力がわずかに弱かったので、それは羽磋たちに向けて進みながらも、地面からは段々と浮き上がっていってしまったのでした。
ぶつかりあって地面に倒れ込んでいた羽磋と理亜、そして、その後方でしゃがみ込んでいた王柔。恐ろしい勢いで叩きつけられた轟音と強風、そして、真っ暗に閉ざされたしまった視界のために、彼らは自分たちが巨大竜巻に飲みこまれたのだと考えたのでしたが、実際にはそれは彼らの頭上の離れたところを通過していっていたのでした。
羽磋たちが受けた音や風は、通過した巨大竜巻の力があまりにも大きかったために、それが通過した道筋の下にいた彼らにも音や風が打ち付けていたに過ぎませんでした。
それでも彼らは死を意識せずにはいられなかったのです。
もしも、母親が意図したとおり、そして、彼らが考えたとおりに、巨大竜巻に羽磋たちの身体が飲み込まれていたとしたら、命を失っていたであろうことは間違いありませんし、その身体はバラバラに引き裂かれていくつもの肉片へ変えられていたことでしょう。
まったく、羽磋たちの命が助かった理由は、理亜の行動があったからという一点に尽きるのでした。
自分たちの身体に対する心配が無くなると、やはり、自分たちが置かれている状況が気になります。羽磋は軽く頭を振りました。あまりにも急激な変化があったので、まだはっきりと状況をつかみ切れていないのでした。
目の前に飛び込んできた理亜と絡み合って地面に倒れたところで、母親が放った巨大竜巻に巻き込まれたものですから、その後の推移を羽磋がわからないのも無理はありません。周囲の状況どころか、彼にとっては自分たちがどうして死なずに済んだのか、それ自体が不思議でならないのです。
羽磋は額に右手を当てると目を閉じて、あの時のことを思い出そうと努めました。
あの時、つまり、「母を待つ少女」の母親が巨大竜巻を羽磋たちに向けて放とうと頭上に手を振り上げ、一方でそれをさせまいと羽磋が小刀を腰だめに構えたまま母親に向けて走った時、理亜が突然二人の間に割って入ってきました。そして、母親にではなく羽磋に対して正対し、「母親を傷つけるのを止めて」と叫んだのでした。
それは、「母を待つ少女」の母親にとって、全く予想もしていなかったことでした。理亜が自分たちの間に割って入ってくるのを目に捕らえた時に、彼女は反射的に「自分に向かって、お母さんヤメテ、とでも言うのだろう」と思いました。それはそうでしょう。母親はそれまでずっと、理亜が羽磋たちと結託して自分を騙そうとしている、実際は違うのに自分の娘であると嘘を言っている、と考えていたのですから。
ところが、理亜は仲間である羽磋を母親の攻撃から守ろうとするのではなく、羽磋の攻撃から母親を守ろうとしたのです。それも、なんらかの作為を考える間もない咄嗟の行動で、です。
「ええっ?」という驚きがパッと母親の心に生じ、それが一瞬のためらいを生みました。さらにそれが、理亜に向かって怒りの炎を燃え上がらせ、彼女を粉々に砕いてやりたいと思って巨大竜巻の尻尾を握っていた母親の手の力を、僅かに弱くしました。
それでも、理亜の背中が「母を待つ少女」の母親の目に映ったのは、巨大竜巻を羽磋や理亜たちに向けて放ろうとしていた正にその時のことでしたから、彼女は始めからの勢いのままに両手を振り下げ、それを羽磋たちに向けて放ちました。
理亜と縺れ合いながら勢いよく地面に倒れ込んだ羽磋が顔を上げた時には、自分の視界は接近した巨大竜巻で一杯となっていて、次の瞬間には轟音と強風がゴシンバシンと身体に叩きつけられました。そして、彼の視界は巨大竜巻が巻き上げたゴビの砂で真っ暗に閉ざされ・・・・・・、そのまま彼は意識を失ってしまいました。
羽磋は明らかに「死」を意識していました。彼が一目見て理解したとおり、「母を待つ少女」の母親が巻き起こした巨大竜巻は、羽磋や理亜の身体を飲み込んで粉々に砕いてしまうだけの力を十分に持っていました。
では、どうして、羽磋たちは命を拾うことができたのでしょうか。
その理由は、巨大竜巻の進んだ道筋にありました。「母を待つ少女」の母親が羽磋たちに向かって放った巨大竜巻は、その巨体をブルンブルンと揺らしながらも、母親が狙ったとおりに進んで行きました。でも、そこには母親が予期していなかった要素が影響を与えていたのです。
その要素とは理亜の行動でした。自分を守ろうとして羽磋の前に立った理亜の背中が目に入った母親は、予想もしていなかったその行動に驚き、巨大竜巻の尻尾を握っていた手の力をほんのわずかにではありましたが弱めてしまいました。ただ、轟々と勢いよく渦巻く巨大竜巻は恐ろしいまでの力を持っていて、尻尾を握る彼女の手の中でもそれが常に暴れ回っていたほどでしたから、そのわずかな力の差が進む先に影響を与えたのです。つまり、母親が頭上から巨大竜巻を投げおろした時の力がわずかに弱かったので、それは羽磋たちに向けて進みながらも、地面からは段々と浮き上がっていってしまったのでした。
ぶつかりあって地面に倒れ込んでいた羽磋と理亜、そして、その後方でしゃがみ込んでいた王柔。恐ろしい勢いで叩きつけられた轟音と強風、そして、真っ暗に閉ざされたしまった視界のために、彼らは自分たちが巨大竜巻に飲みこまれたのだと考えたのでしたが、実際にはそれは彼らの頭上の離れたところを通過していっていたのでした。
羽磋たちが受けた音や風は、通過した巨大竜巻の力があまりにも大きかったために、それが通過した道筋の下にいた彼らにも音や風が打ち付けていたに過ぎませんでした。
それでも彼らは死を意識せずにはいられなかったのです。
もしも、母親が意図したとおり、そして、彼らが考えたとおりに、巨大竜巻に羽磋たちの身体が飲み込まれていたとしたら、命を失っていたであろうことは間違いありませんし、その身体はバラバラに引き裂かれていくつもの肉片へ変えられていたことでしょう。
まったく、羽磋たちの命が助かった理由は、理亜の行動があったからという一点に尽きるのでした。
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