260 / 350
月の砂漠のかぐや姫 第257話
しおりを挟む
ところが、です。
「さあ行きましょう、羽磋殿」と、王柔が羽磋に呼び掛けたその声に、ドーンと言う鈍い地響きの音が重なりました。
またもや、地面が大きく揺れたのでした。
理亜が自分を取り戻したからか一度は揺れが小さくなっていた地下世界でしたが、王柔たちの歩みを邪魔しようとしているかのように、再び激しく揺れ出しました。それはこれまでのグラグラッと言う地震とは違って、何か大きなものが何度も地面にぶつかるようなドーンドドーンという振動でした。その振動が起きる度に窪みの底に溜まった青い水はジャブンジャブンと揺り動かされ、刺激を受けたいくつかの窪みからは噴水の様に青い水が立ち昇り、天井の割れ目を通って外の世界にまで噴き出していました。
「オージュー!」
「理亜、あまり身を乗り出しちゃだめだ、落ちちゃうよっ」
二人が発する声にも、地面が、柱が、壁が、そして、天井が揺れる音が重なって、とても聞き取りにくくなっていました。
ドドウンッ。ドンッ。
「・・・・・・来るって。・・・・・・が、・・・・・・って、・・・・・・てた!」
「ええ、何だって、何がっ」
ズズッ・・・・・・。ドーン・・・・・・。
「オカ・・・・・・、が・・・・・・。・・・・・・アサン、キャッ」
ドンッドドンッ!
「理亜っ! 危ないから、縁から離れるんだっ」
「・・・・・・カアサ・・・・・・。デモ・・・・・・」
振動はどんどんと大きくなってきていました。理亜が丘の上から転がり落ちることを心配した王柔は、縁から離れるようにとできる限りの大きな声で叫びました。お互いの声が相手に届きにくい状況ではありましたが、その叫びが届いたのでしょう。王柔が見上げる丘の頂上から、赤い頭が引っ込みました。丘の上には天井までの大きな空間があり、そこに透き通った球体が幾つも浮かんでいましたが、青い水が地面から立ち上がる際に弾き飛ばされたのでしょうか、始めに見た時には雲の様に揺蕩っていたそれは、今では空中を激しく動き回っていました。中には天井や柱にぶつかってしまうものもありましたが、それはシャボン玉が弾けるように割れてしまっていました。
地面の震動の音に負けないように、羽磋は王柔にくっつくようにした上で大きな声を出して尋ねました。
「王柔殿、理亜はなんて言っていたのですか。僕にはよく聞き取れませんでした」
「僕にもあまりよく聞き取れませんでしたが、何かが来るって言っていました。カアサン? カアサンって、前にも言っていましたね。何のことなんでしょうか、理亜のお母さんは奴隷として月の民に送られてくる途中で亡くなっているはずなんですが」
「カアサン・・・・・・。確かに、さっきまでの人が変わったようだった理亜は、オカアサンって呼び掛けていましたね。それが来る・・・・・・。理亜・・・・・・、人が変わったようだった理亜。身体を半分こしているみたいな・・・・・・。はんぶん?」
ガランッ。ビリリッ。グラアッ。
「うわっ、う、羽磋殿、大丈夫ですかっ」
「はんぶん、半分・・・・・・。精霊の力が、理亜の身体に働いていて・・・・・・。だから・・・・・・」
グラアアッ。ドン、ドッドンッ。ドンッ。ビリリイイッ。ビリリリリ・・・・・・。
「あわわ、こ、この揺れは、す、すごいっ」
増々激しくなる振動に立っていられなくなった王柔は、その場にしゃがみこんで右手をつきました。でも、その身軽さから羽と言う名で呼ばれるようになった羽磋は、心に引っかかる何かについて意識を集中させたままでも、襲い掛かって来る振動には上手く身体を反応させて立ち続けていました。
「オカアサンッ。ココダヨ、あたしはっ。下にいるのは、あたしを助けてくれた人だよっ。オカアサンッ」
振動によって生じる轟音を通して、理亜が叫ぶ甲高い声が二人のところにも届きました。それは、先ほどまで王柔と話していた時の口調から変わって、何者かに必死に呼び掛けるものに戻っていました。
「ああ、また理亜が別の人のようになってしまっているっ」
その声を聴いた王柔は、とてもがっかりしてしまいました。別の誰かのようになってしまっていた理亜が完全に自分を取り戻してくれたと思っていたのに、彼女がまた元の状態に戻ってしまったからでした。
「やはり何とかしてこの丘を登って、直接理亜に会わなければ」と王柔は思うのですが、これまで起こっていた揺れよりも激しい振動がドシン、バシンと何度も繰り返し襲ってきています。それに加えて、ビリリリィ、ジジジッという細かな振動も切れ目なく続き、しかも、それが段々と大きくなってきています。脱臼をした左肩の痛みはだいぶん治まっていますが、走ることもままならないこの揺れの中で急斜面に取り付いたとしても、それを登りきることはとてもできそうにありません。
困った時には羽磋に助言を求めることが既に習慣になってしまっている王柔は、羽磋に話しかけるために彼の顔を見ようとしました。でも、地面にしゃがみこんでいる自分とは違って羽磋はこの暴れる馬の背に乗っているような揺れの中でも立ち続けていたので、うまく話しかけることができませんでした。
「さあ行きましょう、羽磋殿」と、王柔が羽磋に呼び掛けたその声に、ドーンと言う鈍い地響きの音が重なりました。
またもや、地面が大きく揺れたのでした。
理亜が自分を取り戻したからか一度は揺れが小さくなっていた地下世界でしたが、王柔たちの歩みを邪魔しようとしているかのように、再び激しく揺れ出しました。それはこれまでのグラグラッと言う地震とは違って、何か大きなものが何度も地面にぶつかるようなドーンドドーンという振動でした。その振動が起きる度に窪みの底に溜まった青い水はジャブンジャブンと揺り動かされ、刺激を受けたいくつかの窪みからは噴水の様に青い水が立ち昇り、天井の割れ目を通って外の世界にまで噴き出していました。
「オージュー!」
「理亜、あまり身を乗り出しちゃだめだ、落ちちゃうよっ」
二人が発する声にも、地面が、柱が、壁が、そして、天井が揺れる音が重なって、とても聞き取りにくくなっていました。
ドドウンッ。ドンッ。
「・・・・・・来るって。・・・・・・が、・・・・・・って、・・・・・・てた!」
「ええ、何だって、何がっ」
ズズッ・・・・・・。ドーン・・・・・・。
「オカ・・・・・・、が・・・・・・。・・・・・・アサン、キャッ」
ドンッドドンッ!
「理亜っ! 危ないから、縁から離れるんだっ」
「・・・・・・カアサ・・・・・・。デモ・・・・・・」
振動はどんどんと大きくなってきていました。理亜が丘の上から転がり落ちることを心配した王柔は、縁から離れるようにとできる限りの大きな声で叫びました。お互いの声が相手に届きにくい状況ではありましたが、その叫びが届いたのでしょう。王柔が見上げる丘の頂上から、赤い頭が引っ込みました。丘の上には天井までの大きな空間があり、そこに透き通った球体が幾つも浮かんでいましたが、青い水が地面から立ち上がる際に弾き飛ばされたのでしょうか、始めに見た時には雲の様に揺蕩っていたそれは、今では空中を激しく動き回っていました。中には天井や柱にぶつかってしまうものもありましたが、それはシャボン玉が弾けるように割れてしまっていました。
地面の震動の音に負けないように、羽磋は王柔にくっつくようにした上で大きな声を出して尋ねました。
「王柔殿、理亜はなんて言っていたのですか。僕にはよく聞き取れませんでした」
「僕にもあまりよく聞き取れませんでしたが、何かが来るって言っていました。カアサン? カアサンって、前にも言っていましたね。何のことなんでしょうか、理亜のお母さんは奴隷として月の民に送られてくる途中で亡くなっているはずなんですが」
「カアサン・・・・・・。確かに、さっきまでの人が変わったようだった理亜は、オカアサンって呼び掛けていましたね。それが来る・・・・・・。理亜・・・・・・、人が変わったようだった理亜。身体を半分こしているみたいな・・・・・・。はんぶん?」
ガランッ。ビリリッ。グラアッ。
「うわっ、う、羽磋殿、大丈夫ですかっ」
「はんぶん、半分・・・・・・。精霊の力が、理亜の身体に働いていて・・・・・・。だから・・・・・・」
グラアアッ。ドン、ドッドンッ。ドンッ。ビリリイイッ。ビリリリリ・・・・・・。
「あわわ、こ、この揺れは、す、すごいっ」
増々激しくなる振動に立っていられなくなった王柔は、その場にしゃがみこんで右手をつきました。でも、その身軽さから羽と言う名で呼ばれるようになった羽磋は、心に引っかかる何かについて意識を集中させたままでも、襲い掛かって来る振動には上手く身体を反応させて立ち続けていました。
「オカアサンッ。ココダヨ、あたしはっ。下にいるのは、あたしを助けてくれた人だよっ。オカアサンッ」
振動によって生じる轟音を通して、理亜が叫ぶ甲高い声が二人のところにも届きました。それは、先ほどまで王柔と話していた時の口調から変わって、何者かに必死に呼び掛けるものに戻っていました。
「ああ、また理亜が別の人のようになってしまっているっ」
その声を聴いた王柔は、とてもがっかりしてしまいました。別の誰かのようになってしまっていた理亜が完全に自分を取り戻してくれたと思っていたのに、彼女がまた元の状態に戻ってしまったからでした。
「やはり何とかしてこの丘を登って、直接理亜に会わなければ」と王柔は思うのですが、これまで起こっていた揺れよりも激しい振動がドシン、バシンと何度も繰り返し襲ってきています。それに加えて、ビリリリィ、ジジジッという細かな振動も切れ目なく続き、しかも、それが段々と大きくなってきています。脱臼をした左肩の痛みはだいぶん治まっていますが、走ることもままならないこの揺れの中で急斜面に取り付いたとしても、それを登りきることはとてもできそうにありません。
困った時には羽磋に助言を求めることが既に習慣になってしまっている王柔は、羽磋に話しかけるために彼の顔を見ようとしました。でも、地面にしゃがみこんでいる自分とは違って羽磋はこの暴れる馬の背に乗っているような揺れの中でも立ち続けていたので、うまく話しかけることができませんでした。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

悪役令嬢カテリーナでございます。
くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ……
気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。
どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。
40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。
ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。
40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる