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月の砂漠のかぐや姫 第257話
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ところが、です。
「さあ行きましょう、羽磋殿」と、王柔が羽磋に呼び掛けたその声に、ドーンと言う鈍い地響きの音が重なりました。
またもや、地面が大きく揺れたのでした。
理亜が自分を取り戻したからか一度は揺れが小さくなっていた地下世界でしたが、王柔たちの歩みを邪魔しようとしているかのように、再び激しく揺れ出しました。それはこれまでのグラグラッと言う地震とは違って、何か大きなものが何度も地面にぶつかるようなドーンドドーンという振動でした。その振動が起きる度に窪みの底に溜まった青い水はジャブンジャブンと揺り動かされ、刺激を受けたいくつかの窪みからは噴水の様に青い水が立ち昇り、天井の割れ目を通って外の世界にまで噴き出していました。
「オージュー!」
「理亜、あまり身を乗り出しちゃだめだ、落ちちゃうよっ」
二人が発する声にも、地面が、柱が、壁が、そして、天井が揺れる音が重なって、とても聞き取りにくくなっていました。
ドドウンッ。ドンッ。
「・・・・・・来るって。・・・・・・が、・・・・・・って、・・・・・・てた!」
「ええ、何だって、何がっ」
ズズッ・・・・・・。ドーン・・・・・・。
「オカ・・・・・・、が・・・・・・。・・・・・・アサン、キャッ」
ドンッドドンッ!
「理亜っ! 危ないから、縁から離れるんだっ」
「・・・・・・カアサ・・・・・・。デモ・・・・・・」
振動はどんどんと大きくなってきていました。理亜が丘の上から転がり落ちることを心配した王柔は、縁から離れるようにとできる限りの大きな声で叫びました。お互いの声が相手に届きにくい状況ではありましたが、その叫びが届いたのでしょう。王柔が見上げる丘の頂上から、赤い頭が引っ込みました。丘の上には天井までの大きな空間があり、そこに透き通った球体が幾つも浮かんでいましたが、青い水が地面から立ち上がる際に弾き飛ばされたのでしょうか、始めに見た時には雲の様に揺蕩っていたそれは、今では空中を激しく動き回っていました。中には天井や柱にぶつかってしまうものもありましたが、それはシャボン玉が弾けるように割れてしまっていました。
地面の震動の音に負けないように、羽磋は王柔にくっつくようにした上で大きな声を出して尋ねました。
「王柔殿、理亜はなんて言っていたのですか。僕にはよく聞き取れませんでした」
「僕にもあまりよく聞き取れませんでしたが、何かが来るって言っていました。カアサン? カアサンって、前にも言っていましたね。何のことなんでしょうか、理亜のお母さんは奴隷として月の民に送られてくる途中で亡くなっているはずなんですが」
「カアサン・・・・・・。確かに、さっきまでの人が変わったようだった理亜は、オカアサンって呼び掛けていましたね。それが来る・・・・・・。理亜・・・・・・、人が変わったようだった理亜。身体を半分こしているみたいな・・・・・・。はんぶん?」
ガランッ。ビリリッ。グラアッ。
「うわっ、う、羽磋殿、大丈夫ですかっ」
「はんぶん、半分・・・・・・。精霊の力が、理亜の身体に働いていて・・・・・・。だから・・・・・・」
グラアアッ。ドン、ドッドンッ。ドンッ。ビリリイイッ。ビリリリリ・・・・・・。
「あわわ、こ、この揺れは、す、すごいっ」
増々激しくなる振動に立っていられなくなった王柔は、その場にしゃがみこんで右手をつきました。でも、その身軽さから羽と言う名で呼ばれるようになった羽磋は、心に引っかかる何かについて意識を集中させたままでも、襲い掛かって来る振動には上手く身体を反応させて立ち続けていました。
「オカアサンッ。ココダヨ、あたしはっ。下にいるのは、あたしを助けてくれた人だよっ。オカアサンッ」
振動によって生じる轟音を通して、理亜が叫ぶ甲高い声が二人のところにも届きました。それは、先ほどまで王柔と話していた時の口調から変わって、何者かに必死に呼び掛けるものに戻っていました。
「ああ、また理亜が別の人のようになってしまっているっ」
その声を聴いた王柔は、とてもがっかりしてしまいました。別の誰かのようになってしまっていた理亜が完全に自分を取り戻してくれたと思っていたのに、彼女がまた元の状態に戻ってしまったからでした。
「やはり何とかしてこの丘を登って、直接理亜に会わなければ」と王柔は思うのですが、これまで起こっていた揺れよりも激しい振動がドシン、バシンと何度も繰り返し襲ってきています。それに加えて、ビリリリィ、ジジジッという細かな振動も切れ目なく続き、しかも、それが段々と大きくなってきています。脱臼をした左肩の痛みはだいぶん治まっていますが、走ることもままならないこの揺れの中で急斜面に取り付いたとしても、それを登りきることはとてもできそうにありません。
困った時には羽磋に助言を求めることが既に習慣になってしまっている王柔は、羽磋に話しかけるために彼の顔を見ようとしました。でも、地面にしゃがみこんでいる自分とは違って羽磋はこの暴れる馬の背に乗っているような揺れの中でも立ち続けていたので、うまく話しかけることができませんでした。
「さあ行きましょう、羽磋殿」と、王柔が羽磋に呼び掛けたその声に、ドーンと言う鈍い地響きの音が重なりました。
またもや、地面が大きく揺れたのでした。
理亜が自分を取り戻したからか一度は揺れが小さくなっていた地下世界でしたが、王柔たちの歩みを邪魔しようとしているかのように、再び激しく揺れ出しました。それはこれまでのグラグラッと言う地震とは違って、何か大きなものが何度も地面にぶつかるようなドーンドドーンという振動でした。その振動が起きる度に窪みの底に溜まった青い水はジャブンジャブンと揺り動かされ、刺激を受けたいくつかの窪みからは噴水の様に青い水が立ち昇り、天井の割れ目を通って外の世界にまで噴き出していました。
「オージュー!」
「理亜、あまり身を乗り出しちゃだめだ、落ちちゃうよっ」
二人が発する声にも、地面が、柱が、壁が、そして、天井が揺れる音が重なって、とても聞き取りにくくなっていました。
ドドウンッ。ドンッ。
「・・・・・・来るって。・・・・・・が、・・・・・・って、・・・・・・てた!」
「ええ、何だって、何がっ」
ズズッ・・・・・・。ドーン・・・・・・。
「オカ・・・・・・、が・・・・・・。・・・・・・アサン、キャッ」
ドンッドドンッ!
「理亜っ! 危ないから、縁から離れるんだっ」
「・・・・・・カアサ・・・・・・。デモ・・・・・・」
振動はどんどんと大きくなってきていました。理亜が丘の上から転がり落ちることを心配した王柔は、縁から離れるようにとできる限りの大きな声で叫びました。お互いの声が相手に届きにくい状況ではありましたが、その叫びが届いたのでしょう。王柔が見上げる丘の頂上から、赤い頭が引っ込みました。丘の上には天井までの大きな空間があり、そこに透き通った球体が幾つも浮かんでいましたが、青い水が地面から立ち上がる際に弾き飛ばされたのでしょうか、始めに見た時には雲の様に揺蕩っていたそれは、今では空中を激しく動き回っていました。中には天井や柱にぶつかってしまうものもありましたが、それはシャボン玉が弾けるように割れてしまっていました。
地面の震動の音に負けないように、羽磋は王柔にくっつくようにした上で大きな声を出して尋ねました。
「王柔殿、理亜はなんて言っていたのですか。僕にはよく聞き取れませんでした」
「僕にもあまりよく聞き取れませんでしたが、何かが来るって言っていました。カアサン? カアサンって、前にも言っていましたね。何のことなんでしょうか、理亜のお母さんは奴隷として月の民に送られてくる途中で亡くなっているはずなんですが」
「カアサン・・・・・・。確かに、さっきまでの人が変わったようだった理亜は、オカアサンって呼び掛けていましたね。それが来る・・・・・・。理亜・・・・・・、人が変わったようだった理亜。身体を半分こしているみたいな・・・・・・。はんぶん?」
ガランッ。ビリリッ。グラアッ。
「うわっ、う、羽磋殿、大丈夫ですかっ」
「はんぶん、半分・・・・・・。精霊の力が、理亜の身体に働いていて・・・・・・。だから・・・・・・」
グラアアッ。ドン、ドッドンッ。ドンッ。ビリリイイッ。ビリリリリ・・・・・・。
「あわわ、こ、この揺れは、す、すごいっ」
増々激しくなる振動に立っていられなくなった王柔は、その場にしゃがみこんで右手をつきました。でも、その身軽さから羽と言う名で呼ばれるようになった羽磋は、心に引っかかる何かについて意識を集中させたままでも、襲い掛かって来る振動には上手く身体を反応させて立ち続けていました。
「オカアサンッ。ココダヨ、あたしはっ。下にいるのは、あたしを助けてくれた人だよっ。オカアサンッ」
振動によって生じる轟音を通して、理亜が叫ぶ甲高い声が二人のところにも届きました。それは、先ほどまで王柔と話していた時の口調から変わって、何者かに必死に呼び掛けるものに戻っていました。
「ああ、また理亜が別の人のようになってしまっているっ」
その声を聴いた王柔は、とてもがっかりしてしまいました。別の誰かのようになってしまっていた理亜が完全に自分を取り戻してくれたと思っていたのに、彼女がまた元の状態に戻ってしまったからでした。
「やはり何とかしてこの丘を登って、直接理亜に会わなければ」と王柔は思うのですが、これまで起こっていた揺れよりも激しい振動がドシン、バシンと何度も繰り返し襲ってきています。それに加えて、ビリリリィ、ジジジッという細かな振動も切れ目なく続き、しかも、それが段々と大きくなってきています。脱臼をした左肩の痛みはだいぶん治まっていますが、走ることもままならないこの揺れの中で急斜面に取り付いたとしても、それを登りきることはとてもできそうにありません。
困った時には羽磋に助言を求めることが既に習慣になってしまっている王柔は、羽磋に話しかけるために彼の顔を見ようとしました。でも、地面にしゃがみこんでいる自分とは違って羽磋はこの暴れる馬の背に乗っているような揺れの中でも立ち続けていたので、うまく話しかけることができませんでした。
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