258 / 350
月の砂漠のかぐや姫 第255話
しおりを挟む
「どこなの・・・・・。ここだよ、あたしはここだヨ。そうだ、お母さん、お母さん! あたしはここだよ。ねぇ、お母さん! 違う、オージュ。違う違う、お母さん、おかあさーん! オージュ、助けて! 怖いヨ、助けて!」
「理亜ぁっ、うわ、うわわわっ。理亜っ。大丈夫か!」
とうとう、理亜の声は王柔ではなく何者かに向けられたものに変わってしまいました。でも、その言葉の中には、まだ王柔に向けられた言葉も残っていました。それはまるで、理亜の身体を彼女と誰かが取り合っていて、表面に出てくる人が入れ替わる度に言葉の内容もころころと変わっているかのようでした。
ドウ、ドオオン! ビリビリビリ・・・・・・。
理亜が「お母さん」と呼び掛けたことに反応したかのように、大地の揺れの中に急に大きな波が生じました。その揺れは呼び掛け前から起きていたものよりも遥かに大きくて、理亜に話しかけるために立ち上がっていた王柔たちの身体も激しく揺さぶられ、何度か地面から体が浮き上がってしまったほどでした。
あまりに大きな衝撃に、またもや王柔はしゃがみ込んで両手をついてしまいましたが、先ほどと同じように腰を落として揺れが治まるのを待つのではなく、今度は直ぐに立ち上がりました。そして、まだ激しい揺れが続いている地下世界の地面を強く蹴って、王柔は前方にそそり立つ丘の急斜面に向けて走り出しました。王柔の隣にいた羽磋は、反射的に手を伸ばして彼を引き留めようとしましたが、あまりに素早い行動だったので間に合いませんでした。
それは、王柔自身にとっては、考えるまでもないことでした。彼に理亜が助けを求めているのです。それも、すぐ先に見える丘の上からです。地面の揺れはまだ続いていて走り出すには危険が伴いますが、そんなことは関係が無いのです。自分で自分が何をしているか気が付いた時には、既に走り出していたのです。
「理亜、理亜っ!」
「王柔殿、危ないですよ!」
不規則に揺れ続けている地面のせいで、王柔は思うように走る事ができませんでした。窪みに落ちないように気つけながらできるだけの速さで走ろうとするのですが、よろけて倒れそうになってしゃがみ込んだり岩の塊や柱に手をついて身体を支えたりということを、何度も繰り返さなければなりませんでした。それでも、王柔は諦めずに前に進んで行き、もう少しで丘に続く急斜面に取り付けるという所にまでたどり着くことができました。
ドンッ、ドゴウンッ! ゴゴゴウッ!
「もう少しだ、理亜」と王柔が思った時、これまでになかったほどの大きな揺れが、前触れもなく地下世界を襲いました。地面に四つん這いになっていた羽磋は、必死に地面を掴んで揺れを凌ぎましたが、走っている王柔の方はそうはいきません。天幕を畳む際には敷布を振るって埃や汚れを落とすのですが、彼には自分の足元がその時の敷布のようにバタンバタンと波打っているように感じられました。そして、次に感じられたのは、左肩に生じた大きな痛みでした。あたかも地面という敷布に載っていたゴミであったかのように王柔は払い落され、勢いよく転倒してしまったのでした。
「ああっ! うううっ、痛あっ! く、くそ、ああっ、痛い痛い痛いぃっ!」
ガツンッと地面に叩きつけられた王柔の口から、悲鳴が上がりました。何かに躓いて転んだのであれば咄嗟に手を出したり衝撃に備えたりすることができるのですが、この時の王柔は不意に地面が無くなって足が空回りしたような状態でしたから、倒れるときに身体をかばうことなど全くできておらず、高い所から地面に落下したかのように激しく身体を打ち付けていたのでした。
それでも、理亜のことが心配で仕方がない王柔は、再び走り出すために両手をついて体を起こそうとするのですが、左手を地面に付けた瞬間に燃える松明を左肩に当てられたような痛みを感じ、もう一度地面に倒れ込んでしまいました。王柔は左肩を右手で押さえながら、痛みを訴え続けました。彼の左肩から先は不自然な形で身体と繋がっていました。どうやら、地面に酷く身体を打ち付けた時に左肩を脱臼したか、あるいは、どこかの骨を折ってしまったかしたようでした。
王柔の苦しそうな声は、羽磋にも、そして、丘の上の理亜にも届いていました。
「オージュ? オージュ!」
「王柔殿! 大丈夫ですかっ!」
怪我の痛みで叫ぶ王柔の声が理亜の意識を呼び覚ましたのか、丘の上から聞こえてきた理亜の言葉は彼を心配するものであって、地下世界の何者かに呼び掛けるものではありませんでした。その変化はこの地下世界にも影響を与えたのでしょうか、地面の震動が弱く細かなものに変わってきました。
激しい揺れが続いていた間は立ち上がることすらできなかった羽磋でしたが、この時とばかりにしゃがみ込んでいた場所から飛び出しました。微弱になっているとは言ってもいつまた前触れもなく激しい揺れが起きるかわからない状況でしたが、悲鳴を上げ続ける王柔の事が心配でならなかったので、危険な窪みの縁を避けることもせず、自分が出せる精いっぱいの速さで彼の所へと急ぐのでした。
「理亜ぁっ、うわ、うわわわっ。理亜っ。大丈夫か!」
とうとう、理亜の声は王柔ではなく何者かに向けられたものに変わってしまいました。でも、その言葉の中には、まだ王柔に向けられた言葉も残っていました。それはまるで、理亜の身体を彼女と誰かが取り合っていて、表面に出てくる人が入れ替わる度に言葉の内容もころころと変わっているかのようでした。
ドウ、ドオオン! ビリビリビリ・・・・・・。
理亜が「お母さん」と呼び掛けたことに反応したかのように、大地の揺れの中に急に大きな波が生じました。その揺れは呼び掛け前から起きていたものよりも遥かに大きくて、理亜に話しかけるために立ち上がっていた王柔たちの身体も激しく揺さぶられ、何度か地面から体が浮き上がってしまったほどでした。
あまりに大きな衝撃に、またもや王柔はしゃがみ込んで両手をついてしまいましたが、先ほどと同じように腰を落として揺れが治まるのを待つのではなく、今度は直ぐに立ち上がりました。そして、まだ激しい揺れが続いている地下世界の地面を強く蹴って、王柔は前方にそそり立つ丘の急斜面に向けて走り出しました。王柔の隣にいた羽磋は、反射的に手を伸ばして彼を引き留めようとしましたが、あまりに素早い行動だったので間に合いませんでした。
それは、王柔自身にとっては、考えるまでもないことでした。彼に理亜が助けを求めているのです。それも、すぐ先に見える丘の上からです。地面の揺れはまだ続いていて走り出すには危険が伴いますが、そんなことは関係が無いのです。自分で自分が何をしているか気が付いた時には、既に走り出していたのです。
「理亜、理亜っ!」
「王柔殿、危ないですよ!」
不規則に揺れ続けている地面のせいで、王柔は思うように走る事ができませんでした。窪みに落ちないように気つけながらできるだけの速さで走ろうとするのですが、よろけて倒れそうになってしゃがみ込んだり岩の塊や柱に手をついて身体を支えたりということを、何度も繰り返さなければなりませんでした。それでも、王柔は諦めずに前に進んで行き、もう少しで丘に続く急斜面に取り付けるという所にまでたどり着くことができました。
ドンッ、ドゴウンッ! ゴゴゴウッ!
「もう少しだ、理亜」と王柔が思った時、これまでになかったほどの大きな揺れが、前触れもなく地下世界を襲いました。地面に四つん這いになっていた羽磋は、必死に地面を掴んで揺れを凌ぎましたが、走っている王柔の方はそうはいきません。天幕を畳む際には敷布を振るって埃や汚れを落とすのですが、彼には自分の足元がその時の敷布のようにバタンバタンと波打っているように感じられました。そして、次に感じられたのは、左肩に生じた大きな痛みでした。あたかも地面という敷布に載っていたゴミであったかのように王柔は払い落され、勢いよく転倒してしまったのでした。
「ああっ! うううっ、痛あっ! く、くそ、ああっ、痛い痛い痛いぃっ!」
ガツンッと地面に叩きつけられた王柔の口から、悲鳴が上がりました。何かに躓いて転んだのであれば咄嗟に手を出したり衝撃に備えたりすることができるのですが、この時の王柔は不意に地面が無くなって足が空回りしたような状態でしたから、倒れるときに身体をかばうことなど全くできておらず、高い所から地面に落下したかのように激しく身体を打ち付けていたのでした。
それでも、理亜のことが心配で仕方がない王柔は、再び走り出すために両手をついて体を起こそうとするのですが、左手を地面に付けた瞬間に燃える松明を左肩に当てられたような痛みを感じ、もう一度地面に倒れ込んでしまいました。王柔は左肩を右手で押さえながら、痛みを訴え続けました。彼の左肩から先は不自然な形で身体と繋がっていました。どうやら、地面に酷く身体を打ち付けた時に左肩を脱臼したか、あるいは、どこかの骨を折ってしまったかしたようでした。
王柔の苦しそうな声は、羽磋にも、そして、丘の上の理亜にも届いていました。
「オージュ? オージュ!」
「王柔殿! 大丈夫ですかっ!」
怪我の痛みで叫ぶ王柔の声が理亜の意識を呼び覚ましたのか、丘の上から聞こえてきた理亜の言葉は彼を心配するものであって、地下世界の何者かに呼び掛けるものではありませんでした。その変化はこの地下世界にも影響を与えたのでしょうか、地面の震動が弱く細かなものに変わってきました。
激しい揺れが続いていた間は立ち上がることすらできなかった羽磋でしたが、この時とばかりにしゃがみ込んでいた場所から飛び出しました。微弱になっているとは言ってもいつまた前触れもなく激しい揺れが起きるかわからない状況でしたが、悲鳴を上げ続ける王柔の事が心配でならなかったので、危険な窪みの縁を避けることもせず、自分が出せる精いっぱいの速さで彼の所へと急ぐのでした。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

悪役令嬢カテリーナでございます。
くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ……
気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。
どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。
40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。
ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。
40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる