月の砂漠のかぐや姫

くにん

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月の砂漠のかぐや姫 第247話

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 一方で、川の近くや自分たちが立っていた場所の近くで理亜を探していた羽磋も、彼女を見つけられずにいました。洞窟の中とは違って地下世界は明るいとは言え、地面には大きな起伏がたくさんあります。これだけ周りを見回しても見つからないということは、彼女は窪んだ場所のどこかで座り込んでいるのではないかと考えた羽磋は、地面が落ち込んでいるところへ走り寄ってはその中を見下ろしました。でも、近くにある窪んだ場所を一通り探しても、理亜を見つけることはできませんでした。
「ああ、理亜はどこに行ってしまったんだろう。精霊の力が理亜の身体に働いているのが、何か影響しているのだろうか。だけど、もしもそうだったとしても、いままではこんなことは起きていなかったのに、急にどうしてしまったんだろう。あの池の様に青い水が溜まっていた場所でも、ここまで歩いてきた洞窟の中でも、理亜にはおかしなことは起きていなかった。それどころか、怖がったり興奮したりさえもしていなかった。そうだよ、王柔殿よりも落ち着いていたぐらいだ。それなのに、どうして・・・・・・」
 羽磋が覗き込んでいた窪みから顔を上げて、他に理亜が居そうな場所はないかと周辺を見回していたその時、王柔の叫び声が上の方から振ってきました。
「いたっ! 理亜がいました、羽磋殿。あそこです。あそこに理亜の頭が見えるっ!」
 地下世界の地面に羽磋は立っていましたが、王柔が立っていたのは、地面よりも数段高いところに開いている洞窟の出入口の脇でした。その高い場所から、王柔が叫ぶような大きな声で羽磋に呼び掛けていました。その彼の右手は、羽磋の頭を超えて地下世界の先の方を真っすぐに指さしていました。声に反応して王柔の方を見上げた羽磋は、王柔の指さす方向へと素早く振り返りましたが、彼のいるところから少し先で地面が隆起していたために、それ以上先は見通せませんでした。高い場所に登ったために、王柔にはその隆起の先まで見通せているのでしょう。理亜がどこにいるかわからずにもう一度王柔の方を見た羽磋に、彼はじれったそうに叫びました。
「ええっ、わかりませんか、羽磋殿。そうか、そこからはあの隆起が邪魔になって見えないんですね。羽磋殿、あの隆起の先に理亜がいます。だけど、理亜は走っているみたいで、少しずつ遠ざかっていっているんです。お願いです、羽磋殿っ。追いかけてくださいっ。隆起の上へ登れば、きっと羽磋殿にも理亜のいる場所がわかるようになります。僕もすぐに追いかけますから、お願いしますっ」
 王柔は羽磋への依頼を大声で一気にまくしたてたので、その後は膝に手をついて呼吸を整えなくてはなりませんでした。しばらくゼーハーと荒い呼吸を繰り返した彼は息が楽にできるようになってくると、再び胸いっぱいに大きく空気を吸い込んで、今度は理亜に向けてできる限りの大声で呼びかけました。
「おーい、理亜ぁ。僕はここだよぉ。今から行くから動かないでいてくれぇ・・・・・・」
 狭い洞窟の内部とは違って、地中とは思えないほどの広い空間を有する地下世界でしたが、それでも王柔の出した大声は、地面と天井の岩や土に跳ね返りながら拡散していきました。王柔は自分の呼び掛けによって遠くに見えている理亜の赤い髪の動きが止まらないかと、祈るような思いでじっと見つめていましたが、しばらくすると地下世界へと下る斜面の方へ走り出しました。王柔のお腹の底から大声を出した呼び掛けの甲斐もなく、視界の奥の方で細かに動いている理亜の姿は、止まってくれなかったのでした。

「はぁっはぁっ」
 荒い息を吐きながら、理亜は一心不乱に前へ向かって走っていました。
 地下世界の地面には急な隆起や大きな窪みが幾つもありました。青い水がいっぱいに溜まっている大きな窪みこそ避けたものの、急な傾斜を持つ隆起が目の前に出てきても、理亜はそこで立ち止まることはしませんでした。真っすぐにその隆起に向かって走っていき、傾斜がきつくなって走ることが困難になれば歩き、そして、歩くことさえ難しい箇所では両手両足をつかってそれをよじ登るのでした。隆起の反対側に出てそれを下る際にも理亜は走る速度を落とさなかったので、勢いが付きすぎた彼女は、足をもつれさせて何度も地面に転がってしまうのでした。
 もしもこの場所に理亜のその姿を見る者がいたとしても、その前へ前へと急ぐ少女が、これまで王柔たちの後ろを大人しく歩いていた少女と同じ人物だとは、とても信じられなかったことでしょう。理亜は自分が他人に触れることができなくなっても、動くサバクオオカミの奇岩に襲われても、そして、このような地下の空間というお話でも聞いたことがない不思議な場所に流されてきても、他人から見て不思議なほどに動じた様子を見せていませんでした。その彼女がどうしたことか、いまでは獲物を追う飢えたサバクオオカミのような鬼気迫る行状で、走り続けているのでした。
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