月の砂漠のかぐや姫

くにん

文字の大きさ
上 下
245 / 352

月の砂漠のかぐや姫 第243話

しおりを挟む
 地面はと言えば、まるで怒り狂った巨人が拳で地面を叩いて回った後であるかのように、歪んだ形をした大きな窪みがいたるところに見られ、そこに洞窟を流れてきた川の水が溜まっていました。これまで羽磋たちが歩いてきた洞窟は曲がりくねってはいたものの大きな陥没や隆起は見られなかったのですが、この地下世界では青く輝く水が溜まっている陥没した箇所がある一方で、隆起していて少しも水に濡れていない箇所もたくさんありました。また、羽磋たちが始めに目覚めた大空間では水面は一つにまとまって池となっていて、残りの岩が露出した地面部分とははっきりと分かれていましたが、この地下世界ではその様にはなっていないようでした。羽磋たちが見た限りでは、水に没しているところとそうでないところが複雑に入り乱れてはいるものの、隆起している部分を選んで進んでいけば水が溜まっている個所を避けることはできそうです。でも、迷路のように繋がっている地面部分のどれを選んで進んでいけば行き止まりにならないのか、全く見当もつきませんでした。
「羽磋殿・・・・・・。これは・・・・・・」
「ええ・・・・・・、何なんでしょう。これは・・・・・・」
 王柔も羽磋も、何度も何度も地下世界を見回すのですが、なかなか明確な言葉を発することができないでいました。
 狭い洞窟は広大な地下世界に入ったところで扇を広げたようにパッと広がっていて、二人はちょうど洞窟と地下世界の境い目に立っていました。洞窟から地下世界へ流れ込んだ川はそのまま真っすぐに進んで行き、少し先の大きな窪みの中で大きな池のように溜まっていました。その窪みからは何本かの水の流れが出て行っていて、また別の窪みへと繋がっていました。そして、その先でもまた同じように窪みと水の流れが繋がり合っていて、それらはまるで網の目のように絡みあっているのでした。
 羽磋はこの地下世界をどう進むべきかが、まったくわからなっていました。
 洞窟は基本的に一本道でしたから、その中を奥に進んでいけば良かったのです。羽磋は洞窟の奥に精霊の力の源があるかもしれないとは考えていました。馬の足音を聞いてからは、出口があるかもしれないとも期待していました。ただ、進む先を選ばないといけない状況がもう一度来るとは、考えてもいなかったのでした。
 精霊の力の源がどのようなものかはわかりませんが、それを探すにしても出口を探すにしても、一体この広い地下世界のどこに向かって行けばいいのでしょうか。そして、もしも進むべき方向が定まったとしても、至る所に存在する水を湛えた窪みとそれを結ぶ川の間に浮かび上がった、葉脈の様に複雑に絡み合っている地面のどれを選択して歩いていけばいいのでしょうか。
「羽磋殿、あの天井からは・・・・・・、出られませんよねぇ、やっぱり」
 王柔はさも残念そうな声を出しながら、高い天井を見上げました。
 王柔が言っているのは、地下世界の空を斜めに走っている光の柱の源、つまり、天井に開いている大きな穴のことでした。王柔も羽磋と同じように、これからどちらへ進めばいいのかを考えていたのですが、彼がまず考えたことは、あの天井にいくつも開いている大きな亀裂からなんとか外に出られないだろうか、と言うことでした。
「あ、上ですかっ。そう、ですねぇ。入ってきている光があんなに太いですから、天井に開いている亀裂はとても大きいものだと思います。ただ、洞窟の天井よりもここの天井はもっと高いところにありますから、あそこまで上がる手段がどうも無さそうな気がします」
「そう、そうですよね。やっぱり無理ですよね。うん、そうだ。すみません、羽磋殿のお考えの邪魔をしてしまって」
 王柔にも深い考えがあったわけではなく、これは思いついたことをそのまま口にしただけのものでした。羽磋に天井まで上がる手段がないことを指摘されると、たちまち王柔は恥ずかしさでいっぱいになってしまって、慌てて自分の考えを否定するのでした。
「いやいや、そんなことないですよ、王柔殿。僕の方こそ下ばっかり見過ぎていました。王柔殿のおっしゃるように、上から出られればそれが一番良いんです。その視点が僕にはありませんでした。そうだ、あの天井を支えている大きな石の柱、何本も何本もありますし、それぞれが複雑な形をしています。ひょっとしたら、調べてみたら天井まで登れるような手掛かりがあるかもしれませんね」
 そんな王柔の様子を見て、羽磋は慌てて顔の前で手を振りました。確かに王柔の言う通り、外に通じる大きな亀裂が天井にいくつも開いているのですから、そこから外に出られればそれに越したことはないのです。自分はあまりに「どう進むのか」に考えを集中し過ぎて周りを見る余裕が無くなっていたと、羽磋は反省をしました。ここはヤルダン魔鬼城の地下。人智を超えた精霊の力が働く場所。常識で自分の考えを縛ってしまっていては、見るべきものが目の前にあっても、それに気が付くことができない場所だというのに。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

処理中です...