月の砂漠のかぐや姫

くにん

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月の砂漠の輝夜姫

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「羽磋殿、こいつに川の水を飲ませときますね」
「え・・・・・・、は、はい。お願いします」
 まだ目を開ければクラクラとするので、羽磋は顔を上に向けながら片手で目を覆っていました。目を閉じていても目蓋の裏の暗闇自体が回っているように感じられて、羽磋はとても何かを考えられる状態ではありませんでした。そのため、王柔から話しかけられると、深く考えることなく反射的に答えてしまいました。
「ごめんな、秣は流されてしまって手元にないんだよ。お前に飲ますための水の袋も無くなってしまったんだけど、川の水があるからこれで我慢してくれよ」
 王柔は駱駝の首を叩きながら優しく語りかけ、川の水を飲むように促しました。
 駱駝は、「これ、飲んで良いの?」と尋ねるように王柔の顔を見ましたが、彼に促されて納得したのか、ゆっくりと首を下げて水面に口を付けました。交易路から落下して川を流された後で地下の大空間で意識を取り戻してから、駱駝には水もエサも与えられていませんでした。環境の変化に緊張していたのか、駱駝の方からもそれを求めるような声は上がってはいませんでした。でも、やはり喉が渇いていたのでしょう。一度川の水に口を付けると、駱駝はゴフッゴフッと音を立てながらそれを勢いよく飲み込んでいくのでした。
「おお、おおっ。良い飲みっぷりだな、お前」
 王柔はその駱駝の様子を見てとても嬉しくなりました。疲れが溜まったのか羽磋も弱っている様ですし、自分たちが地下に閉じ込められているという状況自体にも変化がありませんし、元気づけられるような明るい出来事を心が求めていたのでした。
「オージュ、このお水、なんだか池のお水よりもアオいよね。ラクダさん、これ好きなのかな」
 王柔と駱駝の横に理亜もやってきて、勢いよく水を飲む駱駝の口元を指さしました。
「ああ、確かにそうだよね。最初に僕たちがいた広い場所の池の水よりも、この川の水の方が青い光が強いね。ねぇ羽磋殿、この川の水はあの池の水よりも青い光が強いですけど、なにか理由がありましたか」
 王柔も理亜の指さす先を見て、洞窟を流れる川の水が大空間で池のように溜まっていた水よりも青い光を強く放っていることを見て取りました。大空間にあった池の水がこの洞窟に流れ込んで川の様になっているのですから、このことについて理亜に言われると不思議に思えます。
 改めて考えてみると、このことについて洞窟に入る前に羽磋が何か言っていたような気もして、王柔は壁際で腰を下ろしている羽磋に対して、質問を投げかけました。
「水、川の水ですか・・・・・・」
 羽磋は薄目を開けて声がした方を向きました。自分から少し離れたところで、王柔が引き綱を持って駱駝に何かをさせていて、その横で理亜が何かを覗き込んでいました。
 目をつぶって疲れた頭を休ませていたところだったので、羽磋は王柔の言葉の後ろの方しかはっきりと聞き取れませんでした。なにやら川の水の光の強さについて王柔は尋ねてきたようです。羽磋は目をつぶったままで、自分が大空間の中で確かめたことを思い出しながら、王柔に答えました。
「ええ、確かにこっちの洞窟に流れる川の水は、あの広い空間の池の水よりも青い光を強く放っているようです。広い空間に僕たちがいるときに、二つある洞窟のどちらに入るかを決めるために、周囲を調べたり兎の面を被って見回したりしましたよね。その時にもお話していたと思います。同じ池の水が流れ込んでいるんですけど、こちらの洞窟に流れ込む水は青い光を強く放っていて、もう一つの洞窟に流れ込む水はあまり光を放っていなかったんです。まるで、もともとの池には青い水とそうでない水が二層になって溜まっていて、こちらには青い水、もう一つの洞窟にはそうでない水が流れ込んでいるような感じがしました」
 羽磋に言われて王柔も思い出しました。確かに、どちらの洞窟に入るかを決めるときに、羽磋とその様な話をしていました。
「ああ、思い出しました、羽磋殿。そもそも、こちらの洞窟に入ると決めたのも、それがあったんでしたよね」
「ええ、そうです。兎の面をつけて見た時も、こちらの洞窟の方が精霊の力の働きを示す白い光が強かったのです。精霊の力が強い場所こそヤルダンの不思議の大元だろうということでこちらの洞窟に進んだわけですが、それから考えると水が放つ青い光も精霊の力の現れかもしれませんね、というお話をしていました」
「そ、そうでした・・・・・・。ヤルダンに起こっている不思議は精霊の力の働きによるもので、この地下にある水が放っている青い光は精霊の力の現れかもという話でした・・・・・・」
 王柔は羽磋と話しながらも、彼の方に向いていた顔を自分の横に向けました。そこでは、駱駝がまだ水を飲み続けていました。青い光を放つ水を。広い空間で池のように溜まっていた時よりも強く青い光を放つ水を。
 突然、明るかった王柔の心に心配が黒雲の様に沸き立ってきました。自然と彼が羽磋に話す声の調子は、小さくて震えるものとなっていきました。
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