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月の砂漠のかぐや姫 第217話
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「では、決めさせていただきます。王柔殿、奥の洞窟の方に入っていきましょう」
もともと、「奥の洞窟に入るのが良いと思う」と、自分の意見を王柔に話そうとしていた羽磋でしたが、それが最終的な判断になると思うと、緊張せずにはいられませんでした。
王柔は羽磋の判断に異論は唱えませんでした。自分では判断ができないからそれを任せたのですから、それは当然でした。ただ、羽磋が手前の洞窟でなくて奥の洞窟に入ると決めた理由については知りたいと思ったので、異論を唱えていると誤解されないように言葉を選びながら羽磋に確認をしました。
「わかりました、羽磋殿。おっしゃるように奥の洞窟に入りましょう。ただ、すみません、良かったらなのですが、羽磋殿が奥の洞窟を選んだ理由を教えていただいてもよろしいでしょうか。いえ、文句があるわけではないんです。自分ではどちらの洞窟も同じように思えていたので、どうして羽磋殿が奥の方を選ばれたのか、知りたいだけなんです」
「ええ、どうして僕が奥の方を選んだのかと王柔殿が思われるのは当然です。お気になさらないでください。もちろん、奥の方を選んだのには理由があります。こうして見ると二つの洞窟の間にはほとんど違いが無いように見えますが、実は昨日兎の面をつけて見比べたときに、はっきりとした違いがあることがわかったんです。それは、奥の洞窟の方が手前の洞窟よりも精霊の力が遥かに強く働いているということなんです」
「なるほど、精霊の力の違いですか」
羽磋に言われてみると、昨日この辺りでそのような話をしたような気もしてきました。王柔は目を凝らしながら二つの洞窟を見比べてみました。すると、兎の面を付けない状態でも、それらに違いがあることに気が付きました。それは、水が放つほのかな青い光の違いで、手前の洞窟よりも奥の洞窟の方が流れ込んでいる水が放つ青い光が強いのでした。
「羽磋殿の言葉を聞いた後で見比べると、青い光の強さの度合いが二つの洞窟で違うように思えますね。たしか、この青い光は精霊の力の現れでしたっけ」
「ええ、そうなんです。野営した場所で周囲と・・・・・・」
羽磋は一瞬、話し続けるのを躊躇しました。そして、素早く王柔に身体を寄せるとその袖を引いて、そっと理亜から離れました。この後に話すことは彼女には聞かせない方がいいと思ったからでした。
「・・・・・・理亜を兎の面を付けて見たときに、青い光が精霊の力の現れであることが分かったのです」
「理亜も、ですか」
ぐっと声の大きさを小さくして話を再開した羽磋にあわせて、王柔の声の大きさも小さくなりました。
「はい。青い光こそ放ちませんが、理亜の身体にも精霊の力が働いていることがはっきりとわかりました。もともと、僕たちがヤルダンにやってきたのは、動く砂岩の像と理亜の身体の不思議、その二つには精霊の力が働いているかもしれないと考えたからです」
「そうでしたね。母を待つ少女の奇岩が特に怪しいので、それが立つ場所を目指しているんですよね。まぁ、あれに精霊の力が働いていることは、怪しいどころか、はっきりしていますけど」
自分たちを何度も襲ってきた母を待つ少女の奇岩とサバクオオカミの奇岩を思い出しながら、王柔は苦々しい顔をしました。
「ええ、だからです。正直に申し上げて、どちらの洞窟が外につながっている可能性が高いかは、僕にはわかりません。ただ、今ヤルダンで起こっている不思議、理亜の身体に起こっている不思議に関連しているだろう精霊の力が強いのは、間違いなく奥の洞窟の方です。そうであれば、奥の洞窟に入った方が良いと思ったのです」
「ははぁ、よくわかりました。精霊の力が問題なのですから、その力が強い方に進めば、何らかの進展があるかもしれませんね。さすがは羽磋殿です」
羽磋の言葉に納得できたので、王柔の顔はぱっと明るくなりました。でも、何かに思い当たったのか、その顔に心配そうな表情が浮かび上がってきました。
「でも、羽磋殿。精霊の力が強い方に入っていって、その、例えば、怖い悪霊のようなものに出会ったりはしないですか・・・・・・」
そもそも彼らが今ここにいるのは、精霊の力で動き出した母を待つ少女の奇岩やサバクオオカミの奇岩に襲われたためです。そのことを思い出した心配性の王柔は、精霊の力が強い方の洞窟に入っていって、その力を放出している何かに襲われたりすることはないかと不安になったのでした。
このように王柔が先のことに不安を訴えると、頭からそれを否定する人も多くいましたし、彼のことを臆病者だと言って馬鹿にする人さえもいました。でも、王柔と一緒に母を待つ少女の奇岩に襲われた経験があるからか、羽磋は彼の言葉をもっともなものだと受け止めて、大きく頷いたのでした。
もともと、「奥の洞窟に入るのが良いと思う」と、自分の意見を王柔に話そうとしていた羽磋でしたが、それが最終的な判断になると思うと、緊張せずにはいられませんでした。
王柔は羽磋の判断に異論は唱えませんでした。自分では判断ができないからそれを任せたのですから、それは当然でした。ただ、羽磋が手前の洞窟でなくて奥の洞窟に入ると決めた理由については知りたいと思ったので、異論を唱えていると誤解されないように言葉を選びながら羽磋に確認をしました。
「わかりました、羽磋殿。おっしゃるように奥の洞窟に入りましょう。ただ、すみません、良かったらなのですが、羽磋殿が奥の洞窟を選んだ理由を教えていただいてもよろしいでしょうか。いえ、文句があるわけではないんです。自分ではどちらの洞窟も同じように思えていたので、どうして羽磋殿が奥の方を選ばれたのか、知りたいだけなんです」
「ええ、どうして僕が奥の方を選んだのかと王柔殿が思われるのは当然です。お気になさらないでください。もちろん、奥の方を選んだのには理由があります。こうして見ると二つの洞窟の間にはほとんど違いが無いように見えますが、実は昨日兎の面をつけて見比べたときに、はっきりとした違いがあることがわかったんです。それは、奥の洞窟の方が手前の洞窟よりも精霊の力が遥かに強く働いているということなんです」
「なるほど、精霊の力の違いですか」
羽磋に言われてみると、昨日この辺りでそのような話をしたような気もしてきました。王柔は目を凝らしながら二つの洞窟を見比べてみました。すると、兎の面を付けない状態でも、それらに違いがあることに気が付きました。それは、水が放つほのかな青い光の違いで、手前の洞窟よりも奥の洞窟の方が流れ込んでいる水が放つ青い光が強いのでした。
「羽磋殿の言葉を聞いた後で見比べると、青い光の強さの度合いが二つの洞窟で違うように思えますね。たしか、この青い光は精霊の力の現れでしたっけ」
「ええ、そうなんです。野営した場所で周囲と・・・・・・」
羽磋は一瞬、話し続けるのを躊躇しました。そして、素早く王柔に身体を寄せるとその袖を引いて、そっと理亜から離れました。この後に話すことは彼女には聞かせない方がいいと思ったからでした。
「・・・・・・理亜を兎の面を付けて見たときに、青い光が精霊の力の現れであることが分かったのです」
「理亜も、ですか」
ぐっと声の大きさを小さくして話を再開した羽磋にあわせて、王柔の声の大きさも小さくなりました。
「はい。青い光こそ放ちませんが、理亜の身体にも精霊の力が働いていることがはっきりとわかりました。もともと、僕たちがヤルダンにやってきたのは、動く砂岩の像と理亜の身体の不思議、その二つには精霊の力が働いているかもしれないと考えたからです」
「そうでしたね。母を待つ少女の奇岩が特に怪しいので、それが立つ場所を目指しているんですよね。まぁ、あれに精霊の力が働いていることは、怪しいどころか、はっきりしていますけど」
自分たちを何度も襲ってきた母を待つ少女の奇岩とサバクオオカミの奇岩を思い出しながら、王柔は苦々しい顔をしました。
「ええ、だからです。正直に申し上げて、どちらの洞窟が外につながっている可能性が高いかは、僕にはわかりません。ただ、今ヤルダンで起こっている不思議、理亜の身体に起こっている不思議に関連しているだろう精霊の力が強いのは、間違いなく奥の洞窟の方です。そうであれば、奥の洞窟に入った方が良いと思ったのです」
「ははぁ、よくわかりました。精霊の力が問題なのですから、その力が強い方に進めば、何らかの進展があるかもしれませんね。さすがは羽磋殿です」
羽磋の言葉に納得できたので、王柔の顔はぱっと明るくなりました。でも、何かに思い当たったのか、その顔に心配そうな表情が浮かび上がってきました。
「でも、羽磋殿。精霊の力が強い方に入っていって、その、例えば、怖い悪霊のようなものに出会ったりはしないですか・・・・・・」
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このように王柔が先のことに不安を訴えると、頭からそれを否定する人も多くいましたし、彼のことを臆病者だと言って馬鹿にする人さえもいました。でも、王柔と一緒に母を待つ少女の奇岩に襲われた経験があるからか、羽磋は彼の言葉をもっともなものだと受け止めて、大きく頷いたのでした。
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