月の砂漠のかぐや姫

くにん

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月の砂漠のかぐや姫 第214話

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 この地下に広がる大空間の上部は砂岩ですっかりと覆われていますから、月や星の動きで時間の経過を知ることはできません。もちろん、太陽の光が差し込んできて朝になったことがわかるということもありません。
 羽磋は王柔と見張りを交代する適当な時間がわからなかったので、できるだけ長い時間見張りを続けることにしましたが、とうとう疲れと眠気が限界に達したので、王柔の身体を揺り動かすことにしました。
「王柔殿、起きてください。見張りを交代してください。僕ももう、すっかりと疲れてしまいました」
 王柔は寝ようと決めて寝たわけではなくて、食べ物と飲み物を口にしてそのまま眠り込んでしまったので、目が覚めてすぐに言われた羽磋の言葉の意味がよくわかりませんでした。そもそも、自分がどれくらい眠ってしまったのかもわからなければ、羽磋が見張りをしてくれていたことも知らなかったのですから、それは仕方のないことでした。でも、王柔はヤルダンの案内人の仕事をしていて野営の経験は十分にあったので、どうやら自分は長い時間眠り込んでしまっていたこと、羽磋が夜の前半の見張りに立ってくれていたことが、すぐにわかりました。
 そうとわかれば、夜の後半の見張りには自分が立たなければなりません。王柔は羽磋と同じように、眠気を抑えるために立ち上がりました。
 羽磋は、王柔と入れ替わるように、地面の上に力を抜いて横になりました。自分で王柔に説明していたように、もう疲れと眠気の限界だったのでしょう。横になったかと思うと直ぐに、彼は眠りの世界に落ちていきました。
 理亜はあいかわらず規則正しい寝息を立てて、眠っています。水面からのぼんやりとした明りに照らされた広い大空間の中には、水が流れ込む時に立てる静かな音がときおり音色を変える他には、特段の変化はありません。青いほのかな光だけでなく、重苦しい静けさもこの大空間に満ちていると、王柔には感じられました。
「ここはとても不思議な空間だけど・・・・・・。いまここで起きて活動しているのは自分だけなんだな」
 王柔は見張りの心得として周囲を注意深く見回した後で、感慨深く大きなため息をつき、独り言をぶつぶつとつぶやき始めました。
「ああ、どうしてこんなことになってしまったんだろう。今、僕たちは一体どこに居るんだろう。ヤルダンの地下にまで流されてきたんだろうか。それとも、全然違うところに流されてきたんだろうか。この先、僕たちはどうなってしまうんだろうか。ここから出ることはできるんだろうか。まさか、このままここで最後まで・・・・・・。最後だって? いや、そんなことは絶対に嫌だ。理亜なんか、あんなにちっちゃいじゃないか。このまま外に出られないなんて、可哀そうすぎるよ。だけど、ひょっとして、もしかして・・・・・・。ああ、もう、どうしてこうなっちゃったんだ・・・・・・」
 日中の様に傍らに羽磋がいてくれれば、小さな不安が生じた段階で話し相手になってもらうことができます。理亜が傍で明るく振舞ってくれれば、それを見て不安を忘れることもできます。それに、周囲の調査などの身体を動かす作業があれば、それに集中して不安なことを忘れることもできます。
 でも、今の王柔にはそれらの何もありませんでした。シャサササ・・・・・・と言う水が立てる音を伴奏とするかのようにつぶやかれる王柔の不安は、全く留まるところがありませんでした。それどころか、その声はだんだんと大きくなり、独り言というよりは誰かと話をしているかの様になってきました。羽磋と理亜の二人は、疲れているので深い眠りに落ちていましたが、そうでなければ王柔が奏で続ける不安の唄に眠りを邪魔されていたでしょう。
「ああ、どうしよう、このまま外に出られなかったら。奴隷として売られた妹の稚を探すことも、もうできなくなってしまう。もちろん理亜の身体に起きている不思議を治すこともできやしない。どうすれば良いんだ、こんな時には。ああ、助けてください、王花さんっ。そうだ、交易路から僕たちは落下してしまったけど、護衛隊は落下していないんじゃないか。ここにも他の人は流れてきていないし。お願いします、冒頓殿。助けに来てくださいっ。僕たちは地下に閉じ込められているんです。死んでなんかいません。生きているんです。助けてください、冒頓殿っ!」
 自分の話す声を聞いて増々興奮の度合いが高まってしまったのか、最後には王柔は天井に向けて両手を差し上げて、叫ぶように大声を発しました。
「冒頓殿、殿、どの、の・・・・・・」
 大空間の内部に、王柔の声が広がっていきました。でも、その声が全て砂岩の壁に吸収されてしまった後には、元の静けさが戻ってきました。
 先ほどまで自分が大声を上げていたせいでしょうか、王柔にはその静けさが、最初に感じていたものよりも、もっと厳しく重苦しいものに感じられました。
「ああ、助けなんて来るわけがないよなぁ・・・・・・」
 王柔はがっくりと首を下げ、背を丸めてしまいました。
 それでも、身を小さくしながら王柔は見張りを続けるのでしたが、彼が朝になったと判断して羽磋と理亜を起こすまでの時間は、羽磋が始めに見張りに立っていた時間と比べて、相当短いものでありました。






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