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月の砂漠のかぐや姫 第208話
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「あ、そうだ。ねぇねぇ。来てっ」
何かを思いついたのか、理亜は二人についてくるように促しながら、手前の洞窟の入り口の方へ、小走りで向かいました。水面が放つほのかな青い光に満たされた地中の大空間という、日常の世界とは全くかけ離れた状況ではありましたが、理亜の様子には怯えというものは全く見られず、むしろ、楽しんでいるかのようにさえ見えるのでした。
洞窟の広い開口部の前に立つと、理亜は後ろをちらりと見て二人が立っていることを確認しました。そして、「見ててネ」と声を掛けてから洞窟に向き直ると、その小さな体を精一杯膨らませて、大きく息を吸いました。
「誰かっ、いますかあぁあ・・・・・・・」
理亜は小さな手を口の横に添えると、自分が出せる中で最も大きな声で、洞窟の中に向って呼びかけました。
ダレカ、レカ、レカ・・・・・・。イマスカ、マスカ、スカ・・・・・・。
砂岩の壁で反射しながら、理亜の声は洞窟の奥の方へと、浸透していきました。
これに驚いたのは王柔でした。慌てて理亜の口を塞ごうと手を出しましたが、その手は理亜の顔を素通りしてしまい、自分の身体の近くに戻ってきてしまいました。
それでも、王柔がびっくりして自分を止めようとしたことは理亜にもわかりました。ただ、彼女には、どうして王柔が自分を止めようとしたのかはわかりませんでした。そのため、理亜は得意そうな顔をして、王柔に説明をするのでした。
「ね、ねっ。この中に誰かがイたら、きっとお返事してくれるよ。良いヒトそうだったらそっちに行けばいいし、怖いヒトそうだったら、反対に行けばいいんだよ」
「い、いや、理亜。こんな訳が分からない不思議なところに、そんなっ。えーと、人よりもこうもりとか獣とか悪霊とか、そっちの方がいそうだよ。大声をあげて、それを刺激しちゃだめだよ。本当に怖いことになるかもしれないよっ」
「えー、そうなの? そんなに怖い感じはしないよぉ」
口で言うとおり、理亜は自分が発した声の返事が洞窟の中から返ってくるのを楽しみにしているようで、そこから恐ろしいものが飛び出してくるなんて、全く想像していないようでした。
「いやいやいやいやっ。理亜っ、何があるかわからないんだからっ」
「ううーん・・・・・・」
心配のあまり口調がきつくなる王柔に、理亜は少し不満げな様子です。そこへ、これまでは黙っていた羽磋が割って入ってきました。
「あの、王柔殿。僕もびっくりはしましたけど、理亜のやり様も確かに有効ではありますね」
「ええっ、羽磋殿まで何を言い出すんですか。この洞窟の中には誰かが暮らしていて、呼びかけたら返事をしてくれるとでもいうんですか」
「そう言うことでは無いんですが・・・・・・。ほら、こうして聞いてみてください」
感情的になりかけて早口で話す王柔に、羽磋は耳の横に手をやって洞窟からの音を注意して聞くように促しました。
先ほど理亜があげた大声は、洞窟内の壁に当たって何重にも反響し、長く長く尾を引いていましたが、耳を澄ますうちに最後に残った小さな声も川の水音にかき消されてしまいました。そして、当然のことではありますが、理亜の声に反応して挙げられた返事が洞窟の奥から聞こえてくることはありませんでした。また、王柔が心配しているような、こうもりの群れや他の動物などが大声に反応して飛び出してくることもなさそうでした。
「羽磋殿、当たり前ですけど、こんな地中の洞窟で奥から誰かが返事をくれるなんてないですよ。まぁ、変なものが飛び出してきそうにないのは良かったですけど」
王柔は、羽磋が自分よりも理亜の肩を持ったように思って、少しいらだったように話しました。でも、羽磋が王柔に聞くように促したのは、洞窟の奥で誰かが上げる返事ではありませんでした。
「いえ、王柔殿。理亜の声がずいぶんと長く響いていたと思われませんか。それに、奥の方から理亜の声が返ってくる様子はありません」
「ええ、確かにそれはそうですね」
「それはつまり、この洞窟がある程度の広さを有したままで、奥の方までずっと続いているということですよ。もしも、すぐ先で洞窟が行き止まりになっていたり、急激に狭まっていたりしたら、理亜の声はそこで反射してこちらに返って来るでしょうから」
「ああっ・・・・・・。そういうことですかっ」
羽磋が言いたかったこととは、洞窟が奥の方まで続いているかどうかが理亜の声の反射の具合でわかる、と言うことだったのでした。
彼らは出口を探しているのですから、行き止まりになっている洞窟ではなく、奥の方まで長く続いている洞窟に入っていきたいのです。
入り口から見える限られた部分のさらに先で洞窟がどのようになっているのかは、目に頼っていてはさっぱりわかりませんが、音の反射具合からある程度それについて想像を付けることができます。このような洞窟の中で大声を上げるということには王柔の言うようなリスクがあるのはもちろんなのですが、それから得るものがあるのも確かなのでした。
何かを思いついたのか、理亜は二人についてくるように促しながら、手前の洞窟の入り口の方へ、小走りで向かいました。水面が放つほのかな青い光に満たされた地中の大空間という、日常の世界とは全くかけ離れた状況ではありましたが、理亜の様子には怯えというものは全く見られず、むしろ、楽しんでいるかのようにさえ見えるのでした。
洞窟の広い開口部の前に立つと、理亜は後ろをちらりと見て二人が立っていることを確認しました。そして、「見ててネ」と声を掛けてから洞窟に向き直ると、その小さな体を精一杯膨らませて、大きく息を吸いました。
「誰かっ、いますかあぁあ・・・・・・・」
理亜は小さな手を口の横に添えると、自分が出せる中で最も大きな声で、洞窟の中に向って呼びかけました。
ダレカ、レカ、レカ・・・・・・。イマスカ、マスカ、スカ・・・・・・。
砂岩の壁で反射しながら、理亜の声は洞窟の奥の方へと、浸透していきました。
これに驚いたのは王柔でした。慌てて理亜の口を塞ごうと手を出しましたが、その手は理亜の顔を素通りしてしまい、自分の身体の近くに戻ってきてしまいました。
それでも、王柔がびっくりして自分を止めようとしたことは理亜にもわかりました。ただ、彼女には、どうして王柔が自分を止めようとしたのかはわかりませんでした。そのため、理亜は得意そうな顔をして、王柔に説明をするのでした。
「ね、ねっ。この中に誰かがイたら、きっとお返事してくれるよ。良いヒトそうだったらそっちに行けばいいし、怖いヒトそうだったら、反対に行けばいいんだよ」
「い、いや、理亜。こんな訳が分からない不思議なところに、そんなっ。えーと、人よりもこうもりとか獣とか悪霊とか、そっちの方がいそうだよ。大声をあげて、それを刺激しちゃだめだよ。本当に怖いことになるかもしれないよっ」
「えー、そうなの? そんなに怖い感じはしないよぉ」
口で言うとおり、理亜は自分が発した声の返事が洞窟の中から返ってくるのを楽しみにしているようで、そこから恐ろしいものが飛び出してくるなんて、全く想像していないようでした。
「いやいやいやいやっ。理亜っ、何があるかわからないんだからっ」
「ううーん・・・・・・」
心配のあまり口調がきつくなる王柔に、理亜は少し不満げな様子です。そこへ、これまでは黙っていた羽磋が割って入ってきました。
「あの、王柔殿。僕もびっくりはしましたけど、理亜のやり様も確かに有効ではありますね」
「ええっ、羽磋殿まで何を言い出すんですか。この洞窟の中には誰かが暮らしていて、呼びかけたら返事をしてくれるとでもいうんですか」
「そう言うことでは無いんですが・・・・・・。ほら、こうして聞いてみてください」
感情的になりかけて早口で話す王柔に、羽磋は耳の横に手をやって洞窟からの音を注意して聞くように促しました。
先ほど理亜があげた大声は、洞窟内の壁に当たって何重にも反響し、長く長く尾を引いていましたが、耳を澄ますうちに最後に残った小さな声も川の水音にかき消されてしまいました。そして、当然のことではありますが、理亜の声に反応して挙げられた返事が洞窟の奥から聞こえてくることはありませんでした。また、王柔が心配しているような、こうもりの群れや他の動物などが大声に反応して飛び出してくることもなさそうでした。
「羽磋殿、当たり前ですけど、こんな地中の洞窟で奥から誰かが返事をくれるなんてないですよ。まぁ、変なものが飛び出してきそうにないのは良かったですけど」
王柔は、羽磋が自分よりも理亜の肩を持ったように思って、少しいらだったように話しました。でも、羽磋が王柔に聞くように促したのは、洞窟の奥で誰かが上げる返事ではありませんでした。
「いえ、王柔殿。理亜の声がずいぶんと長く響いていたと思われませんか。それに、奥の方から理亜の声が返ってくる様子はありません」
「ええ、確かにそれはそうですね」
「それはつまり、この洞窟がある程度の広さを有したままで、奥の方までずっと続いているということですよ。もしも、すぐ先で洞窟が行き止まりになっていたり、急激に狭まっていたりしたら、理亜の声はそこで反射してこちらに返って来るでしょうから」
「ああっ・・・・・・。そういうことですかっ」
羽磋が言いたかったこととは、洞窟が奥の方まで続いているかどうかが理亜の声の反射の具合でわかる、と言うことだったのでした。
彼らは出口を探しているのですから、行き止まりになっている洞窟ではなく、奥の方まで長く続いている洞窟に入っていきたいのです。
入り口から見える限られた部分のさらに先で洞窟がどのようになっているのかは、目に頼っていてはさっぱりわかりませんが、音の反射具合からある程度それについて想像を付けることができます。このような洞窟の中で大声を上げるということには王柔の言うようなリスクがあるのはもちろんなのですが、それから得るものがあるのも確かなのでした。
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