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月の砂漠のかぐや姫 第205話
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兎の面をつけていた時に、羽磋は心の中でそのような考えを働かせながら、周囲を調べていました。すると、羽磋は大空間の奥の方の壁面に白い光の塊があることに、気が付きました。壁面の白い光は、兎の面をつけて水面を眺めたときに見えるものと同じ光でした。その光の塊が壁面に見えるということは、そこからも水が流れ込んでいるのか、あるいはその反対に、その箇所からさらに奥の方へと水が流れ出ているのではないかと、羽磋は考えたのでした。
「あれが、ここから水が出ていく出口であればいいのに。それもできるだけ大きな出口で、人が歩いていける洞窟のようなものであればいいのに」
羽磋は、そう願いました。
この大空間に注ぐ水の流れを遡ることは難しくても、ここから出ていく水の流れに従って下流へ進むことができれば、いずれは地上へ出ることができるかもしれません。そもそも、羽磋たちが流された川にしても、源流からここまで到達するまでの間に、ある場所では地下を、そして、ある場所では地上を流れて来ているのですから。
まだ白い光の塊が出口であると決まった訳ではないので、羽磋はこの考えを自分の胸にしまったままにして、気になった場所を調べに行こうと王柔たちに話しました。王柔たちは、すぐに羽磋の言葉に頷きました。いつの間にか、考えたり導いたりする役割は、羽磋のものとなっていたのでした。
彼らと一緒に大空間の奥へ進む間にも、羽磋は周りの様子に注意を向けることを忘れてはいませんでした。ここは誰も訪れたことのない地下の大空間である上に、精霊の力が強く働いている場所でもあります。何があっても、何が起きても、全く不思議ではありません。それに、あの白い光の塊の他にも自分たちの今後に係る何かがあるかもしれませんし、それが自分たちに積極的に語り掛けてくるものだとは限らないのです。漫然と歩いていては、自分たちの生死を分かつ大事な手掛かりがひっそりと隠れているのを、見過ごしてしまうかもしれません。
足場は凸凹とした岩で、しかも、水に濡れたところは滑りやすく、普通に歩くだけでも神経を使います。それでも、羽磋はできるだけ周囲に視線をやって、水の流れる様子や岩壁の変化などに気を配りながら歩き続けました。すると、羽磋は岩壁に興味深い特徴が見られるのに気が付いたのでした。
それは、一箇所だけではなく、大空間の壁全体にわたって刻まれている横縞でした。
水面と平行に岩壁に刻まれた幾つもの縞模様。それらは壁の低いところにもあれば、羽磋の身長よりも高いところにもあります。王柔の話によると、それはかつてこの大空間を流れていた水が刻んだものでした。つまり、以前は今よりももっと多くの水がこの場所を流れていた、と考えられるということでした。
この縞模様を見つけた時から、羽磋の心の中で、先ほど見た壁の中の白い光の塊にかかる期待が大きくなりました。
彼の足取りは軽くなり、前へ進む速度はどんどんと早くなりました。
そして、彼らが大空間を奥へ進むにつれて、水の流れる音が大きく聞こえるようになってきました。これも、羽磋の期待を強く支えるものとなりました。
「これは、きっとそうだ。いや、そうであってくれっ」
その場所が近くになるにつれて、自分の考え通りのものがそこにあるかどうか、その違いが彼らに与える影響の大きさが、実感となって羽磋にのしかかってきました。そのため、知らず知らずのうちに彼の口はぎゅっと結ばれて、とても緊張した表情がその面に現れてきました。
どれだけ歩いたでしょうか。ずいぶんと奥の方まで進んだところで、ようやく、羽磋が足を止めました。そして、彼が前方をじっくりと眺めると、彼らの前では、広々としていた洞窟がぎゅっと狭くなっていて、その回廊の様になっている狭い箇所には大きな穴が二つ開いているのが見て取れました。
これです。まさしく、羽磋が期待していた通りのものが、そこにあったのです。
壁面に開いている二つの大きな穴は、この大空間に池のように溜まっている水の出口でした。壁面に刻まれている横縞が示しているとおり、この大空間には今よりも多くの水が流れ込んでいた時がありましたから、この水が流れ出ている二つの洞窟も大きな口を開けています。でも、現在の大空間が蓄えている水の量はそれほど多くなく、床には地面も表れているほどです。そのことから考えると、水の出口となっている二つの洞窟を流れる水の量も多くはなく、その床部分には羽磋たちが歩いて進むことができる地面の部分があると考えられます。
この大空間に流れ込んでくる川を遡ることはできそうにありませんし、外からの光も差し込んできていませんから、天井や壁面のどこかに外へ通じる隙間があるとも思えません。「ひょっとしたら、外へ出る手段が全く無いのかもしれない」とまで、一時期は羽磋も考えていました。
でも、この目の前で口を開いている洞窟は、この水の出口となっている二つの洞窟は、先の方でどうなっているのかはわかりませんが、少なくともこの大空間から出て、川の流れと共に奥へ進むことはできそうです。
「良かった。まだ、外へ出る希望は、残されているんだ」
ほっとするのが半分で嬉しいのが半分の笑みが、自然と羽磋の顔に浮かんでくるのでした。
「あれが、ここから水が出ていく出口であればいいのに。それもできるだけ大きな出口で、人が歩いていける洞窟のようなものであればいいのに」
羽磋は、そう願いました。
この大空間に注ぐ水の流れを遡ることは難しくても、ここから出ていく水の流れに従って下流へ進むことができれば、いずれは地上へ出ることができるかもしれません。そもそも、羽磋たちが流された川にしても、源流からここまで到達するまでの間に、ある場所では地下を、そして、ある場所では地上を流れて来ているのですから。
まだ白い光の塊が出口であると決まった訳ではないので、羽磋はこの考えを自分の胸にしまったままにして、気になった場所を調べに行こうと王柔たちに話しました。王柔たちは、すぐに羽磋の言葉に頷きました。いつの間にか、考えたり導いたりする役割は、羽磋のものとなっていたのでした。
彼らと一緒に大空間の奥へ進む間にも、羽磋は周りの様子に注意を向けることを忘れてはいませんでした。ここは誰も訪れたことのない地下の大空間である上に、精霊の力が強く働いている場所でもあります。何があっても、何が起きても、全く不思議ではありません。それに、あの白い光の塊の他にも自分たちの今後に係る何かがあるかもしれませんし、それが自分たちに積極的に語り掛けてくるものだとは限らないのです。漫然と歩いていては、自分たちの生死を分かつ大事な手掛かりがひっそりと隠れているのを、見過ごしてしまうかもしれません。
足場は凸凹とした岩で、しかも、水に濡れたところは滑りやすく、普通に歩くだけでも神経を使います。それでも、羽磋はできるだけ周囲に視線をやって、水の流れる様子や岩壁の変化などに気を配りながら歩き続けました。すると、羽磋は岩壁に興味深い特徴が見られるのに気が付いたのでした。
それは、一箇所だけではなく、大空間の壁全体にわたって刻まれている横縞でした。
水面と平行に岩壁に刻まれた幾つもの縞模様。それらは壁の低いところにもあれば、羽磋の身長よりも高いところにもあります。王柔の話によると、それはかつてこの大空間を流れていた水が刻んだものでした。つまり、以前は今よりももっと多くの水がこの場所を流れていた、と考えられるということでした。
この縞模様を見つけた時から、羽磋の心の中で、先ほど見た壁の中の白い光の塊にかかる期待が大きくなりました。
彼の足取りは軽くなり、前へ進む速度はどんどんと早くなりました。
そして、彼らが大空間を奥へ進むにつれて、水の流れる音が大きく聞こえるようになってきました。これも、羽磋の期待を強く支えるものとなりました。
「これは、きっとそうだ。いや、そうであってくれっ」
その場所が近くになるにつれて、自分の考え通りのものがそこにあるかどうか、その違いが彼らに与える影響の大きさが、実感となって羽磋にのしかかってきました。そのため、知らず知らずのうちに彼の口はぎゅっと結ばれて、とても緊張した表情がその面に現れてきました。
どれだけ歩いたでしょうか。ずいぶんと奥の方まで進んだところで、ようやく、羽磋が足を止めました。そして、彼が前方をじっくりと眺めると、彼らの前では、広々としていた洞窟がぎゅっと狭くなっていて、その回廊の様になっている狭い箇所には大きな穴が二つ開いているのが見て取れました。
これです。まさしく、羽磋が期待していた通りのものが、そこにあったのです。
壁面に開いている二つの大きな穴は、この大空間に池のように溜まっている水の出口でした。壁面に刻まれている横縞が示しているとおり、この大空間には今よりも多くの水が流れ込んでいた時がありましたから、この水が流れ出ている二つの洞窟も大きな口を開けています。でも、現在の大空間が蓄えている水の量はそれほど多くなく、床には地面も表れているほどです。そのことから考えると、水の出口となっている二つの洞窟を流れる水の量も多くはなく、その床部分には羽磋たちが歩いて進むことができる地面の部分があると考えられます。
この大空間に流れ込んでくる川を遡ることはできそうにありませんし、外からの光も差し込んできていませんから、天井や壁面のどこかに外へ通じる隙間があるとも思えません。「ひょっとしたら、外へ出る手段が全く無いのかもしれない」とまで、一時期は羽磋も考えていました。
でも、この目の前で口を開いている洞窟は、この水の出口となっている二つの洞窟は、先の方でどうなっているのかはわかりませんが、少なくともこの大空間から出て、川の流れと共に奥へ進むことはできそうです。
「良かった。まだ、外へ出る希望は、残されているんだ」
ほっとするのが半分で嬉しいのが半分の笑みが、自然と羽磋の顔に浮かんでくるのでした。
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