月の砂漠のかぐや姫

くにん

文字の大きさ
上 下
166 / 345

月の砂漠のかぐや姫 第164話

しおりを挟む
 ザシィンッ! ドンッ、ゴロンゴロン・・・・・・。 
 騎馬隊の先頭に立って突入してきた冒頓に対して、サバクオオカミの奇岩の群れの中央を走ってきた一頭が飛び掛かりました。その奇岩は冒頓の正面から近づいてきていて、群れの中で彼に最も距離が近いものでした。つまり、冒頓の方からも「まず、こいつが飛び掛かってくるだろうな」と予想されていた一頭だったのです。そのような直線的な攻撃が冒頓に通じるはずがありませんでした。サバクオオカミの奇岩の頭は、冒頓の短剣の一撃で切り落とされ、地面に転がり落ちました。
 冒頓は、頭の転がっていく先などは一向に気にせず、力をなくして馬にもたれかかってきた奇岩の胴を足で蹴り飛ばすと、さらに前に馬を進めました。
 今度は、冒頓の馬を狙って、正面から飛び掛かってくる奇岩がありました。
 冒頓は愛馬の手綱を力いっぱい引いて、前足を大きく上げるようにしました。興奮して振り回される馬の前足は、ちょうど襲い掛かってきたサバクオオカミの奇岩の頭の位置になりました。固い蹄を何度も叩きつけられた奇岩は、肩から上が粉々に砕けてしまいました。
「おら、おらぁっ」
 冒頓は左右から自分に飛び掛かってくるサバクオオカミの奇岩には短剣で応戦しながらも、自分から攻撃は仕掛けずに、前へ前へと馬を進めました。冒頓がサバクオオカミの奇岩の群れを掻き分けてくれるおかげで、彼の後ろを走る騎馬隊の男は、自分たちの前と外側からの攻撃にだけ集中することができました。そして、後続の者たちも、自分から攻撃を仕掛けて隊形を崩すようなことはせず、自分に向かってこない敵は、さらに後ろに控える仲間に任すようにしていました。
 槍の穂先の隊形をしっかりと維持した騎馬隊は、サバクオオカミの奇岩の攻撃を確実に退けながら、先ほどと同じように敵の群れをやすやすと分断していきました。騎馬隊が通った後には、少し前まではサバクオオカミの奇岩だった砂岩の断片が、幾つも幾つも転がっていました。そして、そこには、傷を負って倒れている騎馬隊の男は一人もおりませんでした。
 やはり、隊形をしっかりと保ち、一か所に留まることなく奇岩の群れの中を駆け抜ければ、一人が複数の敵に囲まれて攻撃されることは防げるようでした。
 ただし、こちらから攻撃を仕掛けないことから、一度の突撃で倒すことのできる敵の数は、それほど多くはありません。「敵の群れを突き破っては、反転して再度突撃をする」、これを何度も繰り返せば、味方の損害を最小限に抑えたままで、敵をせん滅することは可能だと思われますが、最大限の速度で駆けさせる馬にかかる負担は大きく、これを何度も何度も繰り返すことはできません。それに、未だに細かな振動を繰り返している地面に冒頓は不安を感じていましたから、馬がつぶれたり状況が悪化したりする前に、できるだけ早くの決着をつけようとしていたのでした。
 サバクオオカミの奇岩の群れを突き破り反対側に出た冒頓は、馬上で頭を高く上げて、周囲を見回しました。
 ポツンポツンと大きな砂岩の塊が、湖に浮かぶ小島のように、盆地の中に点在しています。そして、その盆地の地肌には、大きな裂け目が幾つも口を開けて、地上を走るものを呑み込もうと待ち構えています。冒頓の鋭い視線は、その奇怪な光景を通り抜けた先に、他の男では見分けられないようなほんの小さな大きさでしたが、サバクオオカミの奇岩の群れと、人の姿に似た形をした砂岩の像があるのを見分けました。
 盆地の外周部で、幾つも幾つも存在する大きな岩や大地の裂け目を避けながら、サバクオオカミの奇岩と走りあっている間に、母を待つ少女の奇岩がいる中心部からは遠く離れたところに、彼らは来ていたのでした。
「よし、ちょうどいいなっ。悪いな、相棒、もう少し頑張ってくれよっ」
 冒頓は、勢いよく上下する愛馬の首筋を軽く叩くと、その鼻先を盆地の中心部に向けました。そして、持っている全ての力を絞り出すようにと、激しく波打っているその腹を蹴って伝えました。これまでもサバクオオカミの奇岩との追走劇で走り通しだった冒頓の愛馬は、口の端から泡を飛ばしながらも、主人の指示に応えようとさらに足に力を籠めるのでした。
「お前らっ、敵の親玉を叩くぞっ。後ろから来るオオカミには構うなっ。母を待つ少女を砕くんだっ」
「おうっ!」
「よおしっ。了解ですっ」
 サバクオオカミの奇岩の群れを突き抜けた騎馬隊は、先ほどとは違って反転をすることはせず、盆地の中心部に小さく見える母を待つ少女の像を目指して、さらに勢いを速めて馬を駆けさせました。
 全ての力を振り絞って馬を走らせれば、先ほど断ち割ったサバクオオカミの奇岩の群れが後ろから追いかけてきたとしても、自分たちの方が速いのです。もちろん、馬がその速度で走り続けることはできませんが、冒頓は馬が疲れ切って足を止めてしまう前に、母を待つ少女の奇岩とそれを守るサバクオオカミの奇岩の元に辿り着いて、一撃の元にそれを破壊するつもりでした。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...