114 / 352
月の砂漠のかぐや姫 第113話
しおりを挟む
「羽磋殿のような方にそんな風に言われると、なんだか恥ずかしくなってしまいますね。僕はもう、ほんと駄目駄目で・・・・・・」
「なにをおっしゃっているんですか、王柔殿はそのように案内人の赤い布を巻いて、立派にヤルダンの案内人を務めていらっしゃますし、それに」
羽磋は、のんびりと鞍の上で揺られている理亜の方を見やって、続けました。
「理亜を保護されたことだって、とても立派だったと思います。僕にも守りたい人がいるので、何かお気持ちがわかるようで・・・・・・。いえ、王柔殿のように、しっかりとそれができるかどうか、不安でいっぱいなんですが、絶対に頑張りたいと思っているんです」
「そうですか・・・・・・、そうおっしゃっていただけると、本当に嬉しいです。そうか、僕でも、なにかできてたんですね」
「そうですよ、理亜が奴隷の立場から救われたのは、王柔殿の頑張りのお陰ですよ」
「でも、そのせいで理亜の身体があんな風になってしまったのかも・・・・・・。そう思うと、僕のしたことは本当に良かったのか、と思ってしまうんです」
また、物事の暗い側面に目を向けようとする王柔の意識を、羽磋は理亜の方へ向けさせました。
「いいですか、王柔殿。ほら、理亜を見てくださいよ」
「理亜を、ですか」
王柔と羽磋の横で駱駝に揺られている理亜は、機嫌が良さそうに、鼻歌を歌っていました。
「ぶんぶーん、はんぶんナノ。はんぶんぶぶん、ぶーん・・・・・・、ン、オージュ、なに?」
二人が自分を見上げていることに気がついた理亜は、小首をかしげて彼らを見下ろしました。その頭巾の下に覗いている顔には、のんびりとしたあどけない笑みが浮かんでおり、心配や恐れは少しも表れていないのでした。そして、その柔らかな頬には風粟の病の兆候である紅斑もなければ、それに罹患し回復した時にできる痘痕も全くないのでした。
「うん、落ちないように気をつけてな、理亜」
「アイ丈夫だよー、ほら、あ、あやっやああ」
「おいおいおいっ。はしゃぐと危ないって。理亜。落ちそうになっても、支えてあげられないんだから」
「はーい。気を付けマース」
自分を気遣って声をかけてくれることが嬉しいのか、理亜は鞍上ではしゃいでしまいました。もっとも、そのせいで体勢を崩して、王柔のお小言を喰らう羽目になってしまうのでしたが。
理亜の身体は、自分の服や椅子、鞍や駱駝などは透り抜けません。ただ他人を、透り抜けるのです。そのため、万が一鞍の上から理亜が落ちそうになっても、王柔が彼女を支えてあげることができなので、彼はその点を常に心配しているのでした。
「理亜は、元気そうですよ、王柔殿」
「あ、はい、そうですね。ちょっと元気過ぎて、心配になりますけど」
「ええ、ですから、王柔殿が理亜のためにされたことは、良かったんです」
「そう、ですか・・・・・・」
「ええ、そうです。良かったんです!」
羽磋は、力強く言い切りました。
彼の中には、確信があったのでした。
確かに、いまの理亜の身体の状態は、とても不思議な状態となっています。でも、彼女が浮かべている微笑みは、とても、安心しきった幸せそうなものです。そして、そのような微笑みこそが、輝夜姫の心配事を取り除いた暁に、彼女に浮かべてほしいと羽磋が願っている表情そのものなのです。
ですから、たとえ今の身体の状態がどのようなものであったとしても、そのような微笑みを浮かべられる理亜が幸せでないわけはない、そして、そのように彼女に感じさせる王柔の行動は、決して間違ったものではない、羽磋にはそのように思えるのでした。
「先頭は、何やら楽しそうだなぁ。どうだ、小苑、お前も話に加わってくるか?」
「え、いいんすか! え、いやいや、遠慮しとくっす。いまは、仕事中っすから」
交易隊の真ん中で、先頭の二人を遠目に見ながら話をしているのは、冒頓と苑でした。冒頓は、苑が羽磋と仲が良いのを知っていたので、王柔と羽磋の親密な様子をネタに、彼をからかっているのでした。
苑としても、土光村に来るまでの間とても仲良くしていた羽磋を、王柔に取られたような気がして、穏やかな気持ちではなかったのです。冒頓の言葉に乗って前に出ようとする自分の身体を止めるのに、苦労しなければなりませんでした。
何故って、今は周囲の警戒のために、オオノスリの空風を飛ばしている最中なのです。自分の相棒を放っておいて、おしゃべりをしに行くわけにはいかないではありませんか。
複雑な表情をしながら上空を仰ぎ見ている苑を、冒頓は如何にも楽しそうな表情で見つめていました。その表情は、弟のようにかわいがっている苑にちょっかいを出して愉しむ気持ちと、彼がしっかりと自分の仕事を遂行していることに対する感心が、合わさったものなのでした。
「なにをおっしゃっているんですか、王柔殿はそのように案内人の赤い布を巻いて、立派にヤルダンの案内人を務めていらっしゃますし、それに」
羽磋は、のんびりと鞍の上で揺られている理亜の方を見やって、続けました。
「理亜を保護されたことだって、とても立派だったと思います。僕にも守りたい人がいるので、何かお気持ちがわかるようで・・・・・・。いえ、王柔殿のように、しっかりとそれができるかどうか、不安でいっぱいなんですが、絶対に頑張りたいと思っているんです」
「そうですか・・・・・・、そうおっしゃっていただけると、本当に嬉しいです。そうか、僕でも、なにかできてたんですね」
「そうですよ、理亜が奴隷の立場から救われたのは、王柔殿の頑張りのお陰ですよ」
「でも、そのせいで理亜の身体があんな風になってしまったのかも・・・・・・。そう思うと、僕のしたことは本当に良かったのか、と思ってしまうんです」
また、物事の暗い側面に目を向けようとする王柔の意識を、羽磋は理亜の方へ向けさせました。
「いいですか、王柔殿。ほら、理亜を見てくださいよ」
「理亜を、ですか」
王柔と羽磋の横で駱駝に揺られている理亜は、機嫌が良さそうに、鼻歌を歌っていました。
「ぶんぶーん、はんぶんナノ。はんぶんぶぶん、ぶーん・・・・・・、ン、オージュ、なに?」
二人が自分を見上げていることに気がついた理亜は、小首をかしげて彼らを見下ろしました。その頭巾の下に覗いている顔には、のんびりとしたあどけない笑みが浮かんでおり、心配や恐れは少しも表れていないのでした。そして、その柔らかな頬には風粟の病の兆候である紅斑もなければ、それに罹患し回復した時にできる痘痕も全くないのでした。
「うん、落ちないように気をつけてな、理亜」
「アイ丈夫だよー、ほら、あ、あやっやああ」
「おいおいおいっ。はしゃぐと危ないって。理亜。落ちそうになっても、支えてあげられないんだから」
「はーい。気を付けマース」
自分を気遣って声をかけてくれることが嬉しいのか、理亜は鞍上ではしゃいでしまいました。もっとも、そのせいで体勢を崩して、王柔のお小言を喰らう羽目になってしまうのでしたが。
理亜の身体は、自分の服や椅子、鞍や駱駝などは透り抜けません。ただ他人を、透り抜けるのです。そのため、万が一鞍の上から理亜が落ちそうになっても、王柔が彼女を支えてあげることができなので、彼はその点を常に心配しているのでした。
「理亜は、元気そうですよ、王柔殿」
「あ、はい、そうですね。ちょっと元気過ぎて、心配になりますけど」
「ええ、ですから、王柔殿が理亜のためにされたことは、良かったんです」
「そう、ですか・・・・・・」
「ええ、そうです。良かったんです!」
羽磋は、力強く言い切りました。
彼の中には、確信があったのでした。
確かに、いまの理亜の身体の状態は、とても不思議な状態となっています。でも、彼女が浮かべている微笑みは、とても、安心しきった幸せそうなものです。そして、そのような微笑みこそが、輝夜姫の心配事を取り除いた暁に、彼女に浮かべてほしいと羽磋が願っている表情そのものなのです。
ですから、たとえ今の身体の状態がどのようなものであったとしても、そのような微笑みを浮かべられる理亜が幸せでないわけはない、そして、そのように彼女に感じさせる王柔の行動は、決して間違ったものではない、羽磋にはそのように思えるのでした。
「先頭は、何やら楽しそうだなぁ。どうだ、小苑、お前も話に加わってくるか?」
「え、いいんすか! え、いやいや、遠慮しとくっす。いまは、仕事中っすから」
交易隊の真ん中で、先頭の二人を遠目に見ながら話をしているのは、冒頓と苑でした。冒頓は、苑が羽磋と仲が良いのを知っていたので、王柔と羽磋の親密な様子をネタに、彼をからかっているのでした。
苑としても、土光村に来るまでの間とても仲良くしていた羽磋を、王柔に取られたような気がして、穏やかな気持ちではなかったのです。冒頓の言葉に乗って前に出ようとする自分の身体を止めるのに、苦労しなければなりませんでした。
何故って、今は周囲の警戒のために、オオノスリの空風を飛ばしている最中なのです。自分の相棒を放っておいて、おしゃべりをしに行くわけにはいかないではありませんか。
複雑な表情をしながら上空を仰ぎ見ている苑を、冒頓は如何にも楽しそうな表情で見つめていました。その表情は、弟のようにかわいがっている苑にちょっかいを出して愉しむ気持ちと、彼がしっかりと自分の仕事を遂行していることに対する感心が、合わさったものなのでした。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる