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月の砂漠のかぐや姫 第94話
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「ヤルダンへ。母を待つ少女の奇岩の元へ。やっぱり、そうだね。それしかないだろうね」
時を置かずに、王花が小野の言葉に同意を表しました。これまでに聞いていた話の内容から、羽磋にも同じように考えられました。小野の指示を聞く体勢となっている冒頓も深く頷いていますし、超克も同様です。小部屋の中にいる人たちの意思は、小野の意見の下に統一されたように見えました。・・・・・・ただ一人、真っ白な顔色をして細かく震えている男を覗いては。
「具体的な方策としては、盗賊団の者が襲われたことを考えて、やはり冒頓殿、貴方に動いてもらうのが一番だと思います。私の交易隊は荷を下ろしたばかりですし、まだ動かせません。それに、もう既にこの問題について話が広がっているのかも知れませんが、やはり、できるだけ事を大きくしない方向で動きたいのです」
小野は皆の同意が得られたと考え、具体的な動きの指示をし始めました。
ヤルダンの問題と理亜の問題の共通の原因として、人知を超えた精霊の力の動きがあると考える以上、小野は問題を大きくし、それに関わる人を増やして、結果的に御門に話が伝わることを恐れていました。小野たちは、「月の巫女を月に還す」という考えを持つ阿部たちの下で、精霊の力についての情報や月の巫女に関わる祭器を集めていましたが、それは、「月の巫女の力や精霊の力を戦に利用する」という考えをもち、それに関する情報や祭器を集めている御門たちと、相反する活動になるからでした。
「そこで、申し訳ありませんが、羽磋殿。貴方にも協力していただきたいのです」
「え、ええ!? 私ですか?」
突然、広がっていた話が糸のように紡がれて、自分の方へ真っすぐに飛んできたことに、羽磋は虚を突かれました。もっとも、羽磋としては、できるだけの協力をするつもりでこの話を聞いていたのですし、それが、月の巫女の祭器や、精霊の不思議に関するものであるのなら、自分から願い出てでも、その活動に加えてほしいと考えていたところでした。なぜなら、その月の巫女の祭器の話などが、輝夜姫を月に還す術を探すという自分の目的にも、繋がってくるかもしれないからでした。
「ええ、そうです、羽磋殿。ご迷惑であるのは承知の上で、お願い申し上げます。何卒、ご協力いただけないでしょうか。それに、羽磋殿の旅の目的から考えて、貴重な知識を得られることになるかもしれませんし」
「ああ、いえっ、すみません。びっくりしてしまっただけで、協力するのが嫌とか困るとかいうわけではないのです。小野殿のおっしゃるように、私の旅の目的から考えても、私の方から同行をお願いしたいぐらいです。もちろん、喜んで協力させていただきます・・・・・・。それで、私は何をすればよいのでしょうか」
生真面目な返答を返す羽磋に、小野は深々と頭を下げて謝意を伝えると、その依頼の中身を説明し始めました。
「つまり、こういう形にしようと思うのです。ここまで、羽磋殿は我々と旅を共にしてきました。しかし、我々はこの土光村にしばらく留まり、他の交易路を通ってきた交易隊と荷の交換などをしようと考えています。いつ吐露村へ向かうことになるのかは、その経過次第ということになるので、今のところわかりません」
「え、そうなのですか、あっ」
小野の言葉を正面から受け止めそうになった羽磋は、冒頓が右手を机の上に置いて「待てよ」と伝えた事で、気が付きました。これは、「対外的にこのような形にする」という、小野の説明なのでした。
小野は羽磋の方へ軽く会釈しながら、中断することなく話を先へ進めていきました。それは既に彼の頭の中で出来上がっている計画で、あとはそれを取り出して皆に伝えるだけになっているのでした。
「そこで、貴霜(クシャン)族から肸頓(キドン)族へ出され、肸頓族の族長である阿部殿に会うために吐露村を目指しておられる羽磋殿には、交易隊とは別に行動していただく事にしたいと思うのです。つまり、我々の動きを待つことなく、先に吐露村へ行っていただくということです。もちろん、大事な留学の徒を我が肸頓族へお迎えするわけですから、お一人で危険なヤルダンを通らせることはできません。村に留まる間は護衛の仕事は少なくなりますから、冒頓殿たち護衛隊の者を羽磋殿に同行させます。それにヤルダンを通る訳ですから、王花の酒場から案内人を出してもらいます。ああ、そうですか、王花殿。王柔殿を出していただけるのですか。それは、ありがたいですね。羽磋殿は、主に祁連山脈の周囲で遊牧を行っている、貴霜族のご出身。こちらの方へ来られたのは初めての事だそうですし、できれば、世にも珍しいヤルダンの奇岩も、道中にご覧になっていただけると良いですね。駱駝岩や孔雀の岩、単于の杯や、そう、もちろん、母を待つ少女の像も」
時を置かずに、王花が小野の言葉に同意を表しました。これまでに聞いていた話の内容から、羽磋にも同じように考えられました。小野の指示を聞く体勢となっている冒頓も深く頷いていますし、超克も同様です。小部屋の中にいる人たちの意思は、小野の意見の下に統一されたように見えました。・・・・・・ただ一人、真っ白な顔色をして細かく震えている男を覗いては。
「具体的な方策としては、盗賊団の者が襲われたことを考えて、やはり冒頓殿、貴方に動いてもらうのが一番だと思います。私の交易隊は荷を下ろしたばかりですし、まだ動かせません。それに、もう既にこの問題について話が広がっているのかも知れませんが、やはり、できるだけ事を大きくしない方向で動きたいのです」
小野は皆の同意が得られたと考え、具体的な動きの指示をし始めました。
ヤルダンの問題と理亜の問題の共通の原因として、人知を超えた精霊の力の動きがあると考える以上、小野は問題を大きくし、それに関わる人を増やして、結果的に御門に話が伝わることを恐れていました。小野たちは、「月の巫女を月に還す」という考えを持つ阿部たちの下で、精霊の力についての情報や月の巫女に関わる祭器を集めていましたが、それは、「月の巫女の力や精霊の力を戦に利用する」という考えをもち、それに関する情報や祭器を集めている御門たちと、相反する活動になるからでした。
「そこで、申し訳ありませんが、羽磋殿。貴方にも協力していただきたいのです」
「え、ええ!? 私ですか?」
突然、広がっていた話が糸のように紡がれて、自分の方へ真っすぐに飛んできたことに、羽磋は虚を突かれました。もっとも、羽磋としては、できるだけの協力をするつもりでこの話を聞いていたのですし、それが、月の巫女の祭器や、精霊の不思議に関するものであるのなら、自分から願い出てでも、その活動に加えてほしいと考えていたところでした。なぜなら、その月の巫女の祭器の話などが、輝夜姫を月に還す術を探すという自分の目的にも、繋がってくるかもしれないからでした。
「ええ、そうです、羽磋殿。ご迷惑であるのは承知の上で、お願い申し上げます。何卒、ご協力いただけないでしょうか。それに、羽磋殿の旅の目的から考えて、貴重な知識を得られることになるかもしれませんし」
「ああ、いえっ、すみません。びっくりしてしまっただけで、協力するのが嫌とか困るとかいうわけではないのです。小野殿のおっしゃるように、私の旅の目的から考えても、私の方から同行をお願いしたいぐらいです。もちろん、喜んで協力させていただきます・・・・・・。それで、私は何をすればよいのでしょうか」
生真面目な返答を返す羽磋に、小野は深々と頭を下げて謝意を伝えると、その依頼の中身を説明し始めました。
「つまり、こういう形にしようと思うのです。ここまで、羽磋殿は我々と旅を共にしてきました。しかし、我々はこの土光村にしばらく留まり、他の交易路を通ってきた交易隊と荷の交換などをしようと考えています。いつ吐露村へ向かうことになるのかは、その経過次第ということになるので、今のところわかりません」
「え、そうなのですか、あっ」
小野の言葉を正面から受け止めそうになった羽磋は、冒頓が右手を机の上に置いて「待てよ」と伝えた事で、気が付きました。これは、「対外的にこのような形にする」という、小野の説明なのでした。
小野は羽磋の方へ軽く会釈しながら、中断することなく話を先へ進めていきました。それは既に彼の頭の中で出来上がっている計画で、あとはそれを取り出して皆に伝えるだけになっているのでした。
「そこで、貴霜(クシャン)族から肸頓(キドン)族へ出され、肸頓族の族長である阿部殿に会うために吐露村を目指しておられる羽磋殿には、交易隊とは別に行動していただく事にしたいと思うのです。つまり、我々の動きを待つことなく、先に吐露村へ行っていただくということです。もちろん、大事な留学の徒を我が肸頓族へお迎えするわけですから、お一人で危険なヤルダンを通らせることはできません。村に留まる間は護衛の仕事は少なくなりますから、冒頓殿たち護衛隊の者を羽磋殿に同行させます。それにヤルダンを通る訳ですから、王花の酒場から案内人を出してもらいます。ああ、そうですか、王花殿。王柔殿を出していただけるのですか。それは、ありがたいですね。羽磋殿は、主に祁連山脈の周囲で遊牧を行っている、貴霜族のご出身。こちらの方へ来られたのは初めての事だそうですし、できれば、世にも珍しいヤルダンの奇岩も、道中にご覧になっていただけると良いですね。駱駝岩や孔雀の岩、単于の杯や、そう、もちろん、母を待つ少女の像も」
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