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月の砂漠のかぐや姫 第93話
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「理亜殿の身体の問題は、やはり、ヤルダンの中で母を待つ少女の奇岩の声を聴いた、これがきっかけとなっているのではないかと思われます。そして、王花の盗賊団の者たちが、ヤルダンの中で奇岩に襲われた、これも当然のことながら、ヤルダンの中での話です。二つの問題が関連しているのか、それとも別々のものかは判断できませんが、いずれにしても・・・・・・」
「ヤルダンの中に踏み込むしかねぇ、よなぁ。やっぱり」
淡々と話す小野の声に、冒頓の声が被せられました。こちらの声は、小野の説明を待ちきれずに発せられたようで、隠し切れなかった興奮の響きが、言葉の端々からにじみ出ていました。
「王花の盗賊団の者たちは、まだ怪我で休んでいるんだろう? ここは、俺たちの出番、小野の交易隊の護衛隊の力の見せどころってわけだ。砂岩だか奇岩だかしらねぇが、切って崩れるしろものなら俺たちが後れを取るわけはない。小野殿が一言命令をくれれば、すぐにでも飛んでいくぜ、なあ超克」
「むやみに突き進む、俄かに行動する」ことを意味する「冒頓」と言う名を持つ隊長から同意を求められた超克は、黙って苦笑しながら小野の方に頷きました。
思い付きで突き進む傾向のある長身の若い隊長とは対照的に、この超克は慎重に考えて行動する事を好む、がっしりとした体格をした壮年の男でした。お互いに足りないものを補い合っているようなこの二人は、冒頓が子供の頃に匈奴から月の民に出された時からの主従であると同時に、冒頓から超克へは子が父に対するような信頼が、超克から冒頓へは父が子に対するような愛情が、注がれているのでした。
超克から「小野殿には考えがおありなんでしょう」と無言の振りを受けた小野でしたが、そこはやはり熟練の統率者、既に今後のやるべきことの方向性は彼の中で定まっているのでした。
「もちろんです、冒頓殿。冒頓殿の護衛隊の力は、これまでの交易でなんども助けられた私が一番理解しております。おっしゃるように、ここは護衛隊の力がどうしても必要になります。交易隊の護衛という本来の職分とは異なりますが、先ほどのお話にもあったように、月の巫女の祭器がヤルダンの中での変異に影響を及ぼしている恐れもありますから、何卒宜しくお願い致します」
小野の落ち着いた声が場に響いただけで、たちまちその場の主導権は、彼の手に戻りました。本来は自分に命令を下す立場である小野から護衛隊の力を認められ、さらにていねいな依頼まで受けた冒頓は、満足そうに「ああ、もちろんだぜ」と返答し、後は小野の具体的な説明に耳を傾けるようになりました。
「やれやれ、うちの若殿をここまでうまく扱えるのは、小野殿を置いて他にはいないな。お見事お見事っ」
その冒頓の横では、小野の見事な会話の術に、超克が心の中で手を打ち鳴らしていました。
さて、再び座の主導権を取り戻した小野は、ぐるりと皆を見回してから、先を続けました。
「そうです、冒頓殿のおっしゃる通りなのです。結局のところ、ここで考えていてもらちが明かないのです。王花殿のお話では、ヤルダンが通り抜けできなくなっているとのことですが、それはこちら側からだけではない、そうですね、王花殿?」
「ああ、あちら側からこちら側、つまり吐露村からこの土光村へと、ヤルダンを抜けてきた交易隊もないんだよ。こちら側でも、あの件があってからはヤルダンに出られなくて困っているし、あちら側の酒場でも同じように困っているんだろう。もちろん、困るのはアタシらだけでなくて、交易隊も困れば、羽磋殿のように旅をする者も困る。話はどんどんと大きくなってくだろうね」
「そうなれば・・・・・・」
小野と王花、それに、冒頓は、黙って目で言葉のやり取りをしました。冒頓の傍らで、超克は目を伏せていました。
それは、このような誰の目にも触れない小部屋の中でも、なかなかはっきりと口には出し辛かったからです。「ことが大きくなれば、我々の単于(王)たる御門殿の耳にも入ることになるだろう」とは。
「王花殿と王柔殿は、理亜殿のことについて村の中で調べられることは、既に手を尽くしてくださいました。それでも、何も解決策は見つからなかった。おそらく、ヤルダンの奇岩について、村の中で調べたとしても同じことでしょう。それでも、我々は、この二つの事から、一つの推論を導き出すことはできます」
小野の口から出ようとしている言葉は、皆が薄々感づいていたことではありました。ヤルダンの奇岩に襲われた交易隊の者たちには、ヤルダンの中で何が起きているのか、自分たちがこのような目にあわされた原因が何なのか、全く想像もつかないことでしょう。でも、理亜を保護し、その話を聞いている王花たちには、この騒動の中心には、彼女がいるとしか考えられないのでした。その彼女とは、すなわち・・・・・・。
「母を待つ少女の奇岩です。およそありえないことがヤルダンで起きたその始まりは、理亜殿が聞いた、彼女の声だと思われます。ならば、我々は行かなければなりません、彼女の元へ」
「ヤルダンの中に踏み込むしかねぇ、よなぁ。やっぱり」
淡々と話す小野の声に、冒頓の声が被せられました。こちらの声は、小野の説明を待ちきれずに発せられたようで、隠し切れなかった興奮の響きが、言葉の端々からにじみ出ていました。
「王花の盗賊団の者たちは、まだ怪我で休んでいるんだろう? ここは、俺たちの出番、小野の交易隊の護衛隊の力の見せどころってわけだ。砂岩だか奇岩だかしらねぇが、切って崩れるしろものなら俺たちが後れを取るわけはない。小野殿が一言命令をくれれば、すぐにでも飛んでいくぜ、なあ超克」
「むやみに突き進む、俄かに行動する」ことを意味する「冒頓」と言う名を持つ隊長から同意を求められた超克は、黙って苦笑しながら小野の方に頷きました。
思い付きで突き進む傾向のある長身の若い隊長とは対照的に、この超克は慎重に考えて行動する事を好む、がっしりとした体格をした壮年の男でした。お互いに足りないものを補い合っているようなこの二人は、冒頓が子供の頃に匈奴から月の民に出された時からの主従であると同時に、冒頓から超克へは子が父に対するような信頼が、超克から冒頓へは父が子に対するような愛情が、注がれているのでした。
超克から「小野殿には考えがおありなんでしょう」と無言の振りを受けた小野でしたが、そこはやはり熟練の統率者、既に今後のやるべきことの方向性は彼の中で定まっているのでした。
「もちろんです、冒頓殿。冒頓殿の護衛隊の力は、これまでの交易でなんども助けられた私が一番理解しております。おっしゃるように、ここは護衛隊の力がどうしても必要になります。交易隊の護衛という本来の職分とは異なりますが、先ほどのお話にもあったように、月の巫女の祭器がヤルダンの中での変異に影響を及ぼしている恐れもありますから、何卒宜しくお願い致します」
小野の落ち着いた声が場に響いただけで、たちまちその場の主導権は、彼の手に戻りました。本来は自分に命令を下す立場である小野から護衛隊の力を認められ、さらにていねいな依頼まで受けた冒頓は、満足そうに「ああ、もちろんだぜ」と返答し、後は小野の具体的な説明に耳を傾けるようになりました。
「やれやれ、うちの若殿をここまでうまく扱えるのは、小野殿を置いて他にはいないな。お見事お見事っ」
その冒頓の横では、小野の見事な会話の術に、超克が心の中で手を打ち鳴らしていました。
さて、再び座の主導権を取り戻した小野は、ぐるりと皆を見回してから、先を続けました。
「そうです、冒頓殿のおっしゃる通りなのです。結局のところ、ここで考えていてもらちが明かないのです。王花殿のお話では、ヤルダンが通り抜けできなくなっているとのことですが、それはこちら側からだけではない、そうですね、王花殿?」
「ああ、あちら側からこちら側、つまり吐露村からこの土光村へと、ヤルダンを抜けてきた交易隊もないんだよ。こちら側でも、あの件があってからはヤルダンに出られなくて困っているし、あちら側の酒場でも同じように困っているんだろう。もちろん、困るのはアタシらだけでなくて、交易隊も困れば、羽磋殿のように旅をする者も困る。話はどんどんと大きくなってくだろうね」
「そうなれば・・・・・・」
小野と王花、それに、冒頓は、黙って目で言葉のやり取りをしました。冒頓の傍らで、超克は目を伏せていました。
それは、このような誰の目にも触れない小部屋の中でも、なかなかはっきりと口には出し辛かったからです。「ことが大きくなれば、我々の単于(王)たる御門殿の耳にも入ることになるだろう」とは。
「王花殿と王柔殿は、理亜殿のことについて村の中で調べられることは、既に手を尽くしてくださいました。それでも、何も解決策は見つからなかった。おそらく、ヤルダンの奇岩について、村の中で調べたとしても同じことでしょう。それでも、我々は、この二つの事から、一つの推論を導き出すことはできます」
小野の口から出ようとしている言葉は、皆が薄々感づいていたことではありました。ヤルダンの奇岩に襲われた交易隊の者たちには、ヤルダンの中で何が起きているのか、自分たちがこのような目にあわされた原因が何なのか、全く想像もつかないことでしょう。でも、理亜を保護し、その話を聞いている王花たちには、この騒動の中心には、彼女がいるとしか考えられないのでした。その彼女とは、すなわち・・・・・・。
「母を待つ少女の奇岩です。およそありえないことがヤルダンで起きたその始まりは、理亜殿が聞いた、彼女の声だと思われます。ならば、我々は行かなければなりません、彼女の元へ」
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