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月の砂漠のかぐや姫 第92話
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「王花サン、みんな、大丈夫デスカ」
一時的に、自分の心の中の方へと意識が向き過ぎていたのかも知れません。王花は心配そうな理亜の声で、我に返りました。
「ああ、ありがとう、理亜。大丈夫、みんな酷いけがをしているし、疲れ果ててもいるけど、もう血は止まっているようだから、命の心配はせずに済みそうだ。ほんとにありがたいことだね。よし、王柔、酒場の者に手伝ってもらって、皆の身体をきれいな水で洗ってあげておくれ」
王花の指示を受けた王柔は、酒場の者に声をかけて、倒れこんだり座り込んだりしている盗賊団の者を、店の裏にある井戸の方まで連れて行くのでした。
心配そうな顔をしながら、理亜もその後ろをついていきました。彼女の表情は「ワタシもお手伝いしたいのだケド」と物語っていました。他人に触ることが出来ないいまの理亜では、手伝うことも限られていますから、とてももどかしく思っているのでしょう。
「でも……、ああそうだ、でも」
王花は、その理亜の顔を見て、自分の心の中いっぱいに雲のようにとらえどころなく広がっていた考えが、一つの形にまとまっていくのを感じました。
・・・・・・そうだ、そうだよ。いま目の前を歩いて行った理亜の身体には、とても信じられないような現象が起きている。理亜はヤルダンの中で「母を待つ少女」の声を聴き、それからあのような現象が起きていると言っていたのじゃないかい。そして、いま、ヤルダンの中で奇岩が動いたと王碧が言ったんだ。確かにこれも信じられないことだけど、ここで理亜の身体に起きていることが現実なら、きっと、ヤルダンの中で起きたということも現実なんだ。もし、これらに繋がりないという者がいたら、アタシはソイツの横っ面を思いっきりひっぱたいてやらなきゃならないね・・・・・。
そうです、ヤルダンの起こす不思議がどれほどのものか、最前まで自分たちは首をひねって考えていたのではなかったのでしょうか。理亜の身体のこと、盗賊団の話したことを考え合わせると、やはり、ヤルダンの中で何かが起きているのです。それも、人知を超えた不思議な何かが。ひょっとしたら、自分たちが探している月の巫女の祭器、精霊の力に大きく関わると言われている祭器すら、これに関係しているのかも知れません。
人間とは不思議なもので、一つのことに意識が集中して他の事には何も関心が向かなくなることもあれば、一つの身体の中に幾つかの感情が同時に存在することもあります。今の王花が、まさしくそれでした。
理亜のことは何とかしてやりたいと同情しています。傷ついた仲間の身体も心配でたまりませんし、腹の中では仲間を傷つけられた大きな怒りが沸々とわいています。それでも。そのような感情を持ちながらも、です。
「もしかしたら、阿部殿のお役に立てるかも・・・・・・」
王花は、大恩を受けた阿部のために、月の巫女の祭器を見つけることが出来るかもしれないと考えると、自分の胸が期待に膨らんでいくのを意識するのでした。
「ということでね。ヤルダンの奇岩が動いたというウチの者の話は、例えでもなければ、見間違いでも何でもないんだ、羽磋殿」
王花は主に羽磋に対して話していた、ヤルダンの奇岩が動き仲間が襲われたことについての説明をこのようにまとめ、「この話をどのように受け取ったらいいのか」という羽磋の迷いを、正面から断ち割ったのでした。
小野の交易隊が土光村に到着して以来、羽磋が王花と会ったのは数度だけで、長く話をする機会を得たのはこれが初めてでした。
そのため、王花にしても、羽磋に呼び掛けるときに「アンタ」と呼んでみたり「羽磋殿」と呼んでみたりして、羽磋との距離感を測りかねている様子でした。
羽磋の方では、王花の大柄な体つきとざっくばらんな話し方のせいか、「どこか大雑把な人だ」という印象を彼女に対して持っていました。でも、年少の羽磋に対しても、このように、事を起こす前に丁寧な説明を行ってくれることから、王花の誠実な一面を感じ取ることができたのでした。
「彼女が、この話は聞いたとおりのことだというのならば、そうなのだろう」、いまでは羽磋にもそう思えるのでした。
「では、大きな問題は二つありますが、両方ともその原因はヤルダンの中にあるのではないか、王花殿はそう言われるのですね」
王花の話に羽磋が頷き、わずかな間が生じましたが、話を引き継いだのは、やはり、人々をまとめることに慣れた小野でした。木の机を囲んで座っているそれぞれの者の顔は、羊飼いの指示を待つ犬たちのように、自然と小野の方へと向けられるのでした。
それだけの真剣な視線を集めれば、慣れていない者ならば自分の考えを述べるのに躊躇してしまうところですが、日頃から大きな交易隊を率いている小野は全く動じることなく、状況の整理を行うのでした。
一時的に、自分の心の中の方へと意識が向き過ぎていたのかも知れません。王花は心配そうな理亜の声で、我に返りました。
「ああ、ありがとう、理亜。大丈夫、みんな酷いけがをしているし、疲れ果ててもいるけど、もう血は止まっているようだから、命の心配はせずに済みそうだ。ほんとにありがたいことだね。よし、王柔、酒場の者に手伝ってもらって、皆の身体をきれいな水で洗ってあげておくれ」
王花の指示を受けた王柔は、酒場の者に声をかけて、倒れこんだり座り込んだりしている盗賊団の者を、店の裏にある井戸の方まで連れて行くのでした。
心配そうな顔をしながら、理亜もその後ろをついていきました。彼女の表情は「ワタシもお手伝いしたいのだケド」と物語っていました。他人に触ることが出来ないいまの理亜では、手伝うことも限られていますから、とてももどかしく思っているのでしょう。
「でも……、ああそうだ、でも」
王花は、その理亜の顔を見て、自分の心の中いっぱいに雲のようにとらえどころなく広がっていた考えが、一つの形にまとまっていくのを感じました。
・・・・・・そうだ、そうだよ。いま目の前を歩いて行った理亜の身体には、とても信じられないような現象が起きている。理亜はヤルダンの中で「母を待つ少女」の声を聴き、それからあのような現象が起きていると言っていたのじゃないかい。そして、いま、ヤルダンの中で奇岩が動いたと王碧が言ったんだ。確かにこれも信じられないことだけど、ここで理亜の身体に起きていることが現実なら、きっと、ヤルダンの中で起きたということも現実なんだ。もし、これらに繋がりないという者がいたら、アタシはソイツの横っ面を思いっきりひっぱたいてやらなきゃならないね・・・・・。
そうです、ヤルダンの起こす不思議がどれほどのものか、最前まで自分たちは首をひねって考えていたのではなかったのでしょうか。理亜の身体のこと、盗賊団の話したことを考え合わせると、やはり、ヤルダンの中で何かが起きているのです。それも、人知を超えた不思議な何かが。ひょっとしたら、自分たちが探している月の巫女の祭器、精霊の力に大きく関わると言われている祭器すら、これに関係しているのかも知れません。
人間とは不思議なもので、一つのことに意識が集中して他の事には何も関心が向かなくなることもあれば、一つの身体の中に幾つかの感情が同時に存在することもあります。今の王花が、まさしくそれでした。
理亜のことは何とかしてやりたいと同情しています。傷ついた仲間の身体も心配でたまりませんし、腹の中では仲間を傷つけられた大きな怒りが沸々とわいています。それでも。そのような感情を持ちながらも、です。
「もしかしたら、阿部殿のお役に立てるかも・・・・・・」
王花は、大恩を受けた阿部のために、月の巫女の祭器を見つけることが出来るかもしれないと考えると、自分の胸が期待に膨らんでいくのを意識するのでした。
「ということでね。ヤルダンの奇岩が動いたというウチの者の話は、例えでもなければ、見間違いでも何でもないんだ、羽磋殿」
王花は主に羽磋に対して話していた、ヤルダンの奇岩が動き仲間が襲われたことについての説明をこのようにまとめ、「この話をどのように受け取ったらいいのか」という羽磋の迷いを、正面から断ち割ったのでした。
小野の交易隊が土光村に到着して以来、羽磋が王花と会ったのは数度だけで、長く話をする機会を得たのはこれが初めてでした。
そのため、王花にしても、羽磋に呼び掛けるときに「アンタ」と呼んでみたり「羽磋殿」と呼んでみたりして、羽磋との距離感を測りかねている様子でした。
羽磋の方では、王花の大柄な体つきとざっくばらんな話し方のせいか、「どこか大雑把な人だ」という印象を彼女に対して持っていました。でも、年少の羽磋に対しても、このように、事を起こす前に丁寧な説明を行ってくれることから、王花の誠実な一面を感じ取ることができたのでした。
「彼女が、この話は聞いたとおりのことだというのならば、そうなのだろう」、いまでは羽磋にもそう思えるのでした。
「では、大きな問題は二つありますが、両方ともその原因はヤルダンの中にあるのではないか、王花殿はそう言われるのですね」
王花の話に羽磋が頷き、わずかな間が生じましたが、話を引き継いだのは、やはり、人々をまとめることに慣れた小野でした。木の机を囲んで座っているそれぞれの者の顔は、羊飼いの指示を待つ犬たちのように、自然と小野の方へと向けられるのでした。
それだけの真剣な視線を集めれば、慣れていない者ならば自分の考えを述べるのに躊躇してしまうところですが、日頃から大きな交易隊を率いている小野は全く動じることなく、状況の整理を行うのでした。
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