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月の砂漠のかぐや姫 第89話
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「さぁ、遠慮がなくなったところで、二つ目の問題だ。理亜の問題に加えて、小野がさっき話していたように、精霊の力、それも祭器によって大きくされた力が働いたような問題が、ヤルダンに起こっているのさ。実は、ヤルダンを通り抜けることができなくなっているんだよ。俄かには信じられないかもしれないが、ヤルダンの魔物、あの奇岩たちに遮られてね」
「ヤルダンが通り抜けできなく・・・・・・、え、それでは、吐露村に行けないってことですか?」
羽磋は驚きの声をあげました。羽磋のこの旅の目的は「阿部に会う」ことでした。そして、阿部は・・・・・・吐露村にいるのでした。このままでは、阿部に会うことが出来ません。それに、聞くところによるとヤルダンは吐露村と土光村を結ぶ交易の要所とのこと、そこが通れないとなれば、月の民の交易全体に関わる非常に大きな問題なのではないでしょうか。
羽磋は、部屋にいる者の顔を見回しました。羽磋以外の皆はこの問題についてあらかじめ知っていたと見えて、どの顔にも驚きの表情は浮かんではいませんでした。でも、そこにはこの問題の難しさを表すように、とても厳しい表情が浮かび上がっていました。
「そのとおりさ。羽磋殿。こちらから吐露村に行くこともできなければ、吐露村からこちらへ来ることもできないんだ。あ、いや、ヤルダンを大きく迂回すれば行き来することは可能だよ。ただし、ヤルダンの周りには、遊牧も行われない、水場のないゴビが広がっているんだ。だからこそ、最短距離を結ぶ交易路としてヤルダンが利用される訳なんだけど、そんな枯れ果てたゴビを交易隊が突き抜けていくことの大変さは、交易の経験はなくても、遊牧に慣れたアンタにはよくわかるだろう?」
羽磋には王花の言わんとすることが良くわかりました。
遊牧隊が季節に応じて遊牧地を変える際には、記憶の中にあるオアシスや川などの水場をたどって進みます。また、遊牧地として選ぶ場所は、羊や駱駝たちが餌とする草がたくさん生えていることはもちろんですが、人が生きていくために必要な水を確保することができる場所であることが大事なのです。つまり、このゴビにおいては、何をするにしても、まず水の確保を第一に考えなければいけないのです。
羽磋たちが、宿営地を定めた後で放牧を行う際には、家畜を追うために馬を利用するので、一つの水場を中心に、広い範囲に家畜を放して、ところどころに散らばっている草地を利用することができます。そして、水場の恩恵を受けることができないところへは出ていきません。
でも、交易隊が、水場と水場を結ぶように作られている交易路を離れて、重い荷物を積んだ駱駝と共に徒歩でゴビの中を進もうとするとしたら・・・・・・。もちろん、一口にゴビと言っても、各地でその様子は異なりますが、水場と水場の間で自分たちの命をつなぐために、とてもたくさんの水と食料が必要になるでしょう。そして、その結果として、運ぶことのできる荷物はとてもわずかなものになってしまうことでしょう。それに、これまでに交易隊や旅人が往復することで情報が蓄積されている交易路と違い、誰も通ったことのないゴビにはどのような危険があるのか、全く想像もできません。自然の災厄の恐れもあれば、盗賊などに予想もつかない場所で襲われることも考えられます。「未知」という言葉は、「危険」という言葉と等しいのです。
ただ、この事はよくわかるのですが、羽磋には王花の言葉の中で、どうにもわからないことがあったのでした。
「王花殿がおっしゃることは、よく判ります。いえ、そのヤルダンを抜けることができなければ、土光村と吐露村の行き来ができない、ということはよく判ります。でも、わからないこともあります。先程、ヤルダンの魔物、奇岩たちに遮られて、ヤルダンを抜けることができないとおっしゃいましたか?」
「ああ、そのとおりさ、羽磋殿。アンタの言うとおり、ヤルダンの魔物、奇岩たちに遮られて、ヤルダンを抜けることができないんだよ」
「奇岩ですか・・・・・・。ヤルダンには奇妙な形をした岩が林立していると、交易隊の方から聞いてはいます。先程、王花殿が、それがヤルダンを通り抜けるのを阻んでいるとおっしゃられたのは、どのような状況なのでしょうか」
「岩が道をふさぐ」というと、通常は「大きな岩が風などの影響で崩れて道を塞いでいる」というような状況を想像しますが、王花の発する言葉の響きからは、そのような風景は思い浮かばなかったのでした。まず、羽磋の頭に浮かんだのは、「ヤルダンの魔物と呼ばれる奇岩」が動き出して、交易隊の隊列に襲い掛かっている姿でした。でも、まさか、そのようなことが実際に起こるとは、考えられません。羽磋は、自分の目の前に座っている、豊かな髪を持つ大柄な女性が、なにか独特の言い回しをして自然災害を表現しているのだろうと推測をし、確認をしたのでした。
ところが、何らかの自然災害の説明をするのだろうという羽磋の推測に反して、王花の返答は素っ気なく、しかし、明確なものでした。
しょうがないね、とでもいうように肩をすくめて王花が発した言葉は、次のようなものだったのでした。
「なんだ、羽磋殿。ちゃんと、聴いてなかったのかい。ヤルダンの魔物、奇岩たちに遮られたんだよ。つまり、奇岩たちが動き出して、隊の者が襲われたんだ」
「ヤルダンが通り抜けできなく・・・・・・、え、それでは、吐露村に行けないってことですか?」
羽磋は驚きの声をあげました。羽磋のこの旅の目的は「阿部に会う」ことでした。そして、阿部は・・・・・・吐露村にいるのでした。このままでは、阿部に会うことが出来ません。それに、聞くところによるとヤルダンは吐露村と土光村を結ぶ交易の要所とのこと、そこが通れないとなれば、月の民の交易全体に関わる非常に大きな問題なのではないでしょうか。
羽磋は、部屋にいる者の顔を見回しました。羽磋以外の皆はこの問題についてあらかじめ知っていたと見えて、どの顔にも驚きの表情は浮かんではいませんでした。でも、そこにはこの問題の難しさを表すように、とても厳しい表情が浮かび上がっていました。
「そのとおりさ。羽磋殿。こちらから吐露村に行くこともできなければ、吐露村からこちらへ来ることもできないんだ。あ、いや、ヤルダンを大きく迂回すれば行き来することは可能だよ。ただし、ヤルダンの周りには、遊牧も行われない、水場のないゴビが広がっているんだ。だからこそ、最短距離を結ぶ交易路としてヤルダンが利用される訳なんだけど、そんな枯れ果てたゴビを交易隊が突き抜けていくことの大変さは、交易の経験はなくても、遊牧に慣れたアンタにはよくわかるだろう?」
羽磋には王花の言わんとすることが良くわかりました。
遊牧隊が季節に応じて遊牧地を変える際には、記憶の中にあるオアシスや川などの水場をたどって進みます。また、遊牧地として選ぶ場所は、羊や駱駝たちが餌とする草がたくさん生えていることはもちろんですが、人が生きていくために必要な水を確保することができる場所であることが大事なのです。つまり、このゴビにおいては、何をするにしても、まず水の確保を第一に考えなければいけないのです。
羽磋たちが、宿営地を定めた後で放牧を行う際には、家畜を追うために馬を利用するので、一つの水場を中心に、広い範囲に家畜を放して、ところどころに散らばっている草地を利用することができます。そして、水場の恩恵を受けることができないところへは出ていきません。
でも、交易隊が、水場と水場を結ぶように作られている交易路を離れて、重い荷物を積んだ駱駝と共に徒歩でゴビの中を進もうとするとしたら・・・・・・。もちろん、一口にゴビと言っても、各地でその様子は異なりますが、水場と水場の間で自分たちの命をつなぐために、とてもたくさんの水と食料が必要になるでしょう。そして、その結果として、運ぶことのできる荷物はとてもわずかなものになってしまうことでしょう。それに、これまでに交易隊や旅人が往復することで情報が蓄積されている交易路と違い、誰も通ったことのないゴビにはどのような危険があるのか、全く想像もできません。自然の災厄の恐れもあれば、盗賊などに予想もつかない場所で襲われることも考えられます。「未知」という言葉は、「危険」という言葉と等しいのです。
ただ、この事はよくわかるのですが、羽磋には王花の言葉の中で、どうにもわからないことがあったのでした。
「王花殿がおっしゃることは、よく判ります。いえ、そのヤルダンを抜けることができなければ、土光村と吐露村の行き来ができない、ということはよく判ります。でも、わからないこともあります。先程、ヤルダンの魔物、奇岩たちに遮られて、ヤルダンを抜けることができないとおっしゃいましたか?」
「ああ、そのとおりさ、羽磋殿。アンタの言うとおり、ヤルダンの魔物、奇岩たちに遮られて、ヤルダンを抜けることができないんだよ」
「奇岩ですか・・・・・・。ヤルダンには奇妙な形をした岩が林立していると、交易隊の方から聞いてはいます。先程、王花殿が、それがヤルダンを通り抜けるのを阻んでいるとおっしゃられたのは、どのような状況なのでしょうか」
「岩が道をふさぐ」というと、通常は「大きな岩が風などの影響で崩れて道を塞いでいる」というような状況を想像しますが、王花の発する言葉の響きからは、そのような風景は思い浮かばなかったのでした。まず、羽磋の頭に浮かんだのは、「ヤルダンの魔物と呼ばれる奇岩」が動き出して、交易隊の隊列に襲い掛かっている姿でした。でも、まさか、そのようなことが実際に起こるとは、考えられません。羽磋は、自分の目の前に座っている、豊かな髪を持つ大柄な女性が、なにか独特の言い回しをして自然災害を表現しているのだろうと推測をし、確認をしたのでした。
ところが、何らかの自然災害の説明をするのだろうという羽磋の推測に反して、王花の返答は素っ気なく、しかし、明確なものでした。
しょうがないね、とでもいうように肩をすくめて王花が発した言葉は、次のようなものだったのでした。
「なんだ、羽磋殿。ちゃんと、聴いてなかったのかい。ヤルダンの魔物、奇岩たちに遮られたんだよ。つまり、奇岩たちが動き出して、隊の者が襲われたんだ」
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