66 / 350
月の砂漠のかぐや姫 第65話
しおりを挟む飯田と休みが重なって八重子は久しぶりに喫茶店に入った。
職業病とでも言うのだろうか、床のワックスが所々剥げていることとか照明器具の上に埃があることなどに目がいくようになった。
飯田は八重子に痩せましたね、心労からですか?と言いにくそうに尋ねた。
八重子は笑いながら、仕事に出るようになったからですよ、と答えた。
八重子は飯田に現状を話しながらコーヒーに角砂糖を沈めた。角砂糖は茶色く染まって端からサラサラと崩れていく。
「もしかしたら菜摘が進学する頃には離婚するかもしれません。」
八重子は真っ直ぐな目をしてそう語った。
「菜摘ちゃんは大丈夫ですか?涼華の話だといつも朝早くから勉強して家でもしてるみたいって。」
「菜摘は佑みたいに自分を追い込んでまで勉強しませんよ。大丈夫です。」
飯田はおずおずと話しだした。
自分は涼華が小さい頃離婚して寂しい思いをさせたとか、別れた旦那が養育費を振り込んでくれなかったとか、苑田の事で力になれなかったなど、話すごとに萎縮していった。
「飯田さんが写真をくれたおかげでもう覚悟は決まったんです。どうもありがとうございます。」
八重子はここは私に出させてください。
そう言って2人分の会計を済ませて店を出た。
六郎は仕事を終えて苑田の家に来た。苑田の家は入居者8名ほどの小さな安アパートで旦那さんが亡くなってからここに住んでいる。
六郎は呼び鈴を鳴らし、苑田の名前を呼んだ。しかし人の気配はない。
隣の住人がひょっこり顔を出した。
「苑田さんなら引っ越しましたよ。」
「引っ越したってどこに?!」
六郎は声が大きくなる。
「鹿児島だったかなぁ、福島だったかなぁ?」
六郎は苛立ちを隠せない。
「もう身内もいないし好きに生きたいって言ってましたね。」
そう言って隣の住人は家に入った。
六郎はスマホを握りしめながら走った。苑田が居なくなった。それは六郎にとって致命的なことだった。六郎は公園まで走って苑田に電話をかけた。
「この電話番号は現在使われておりません。」
ガイダンスが流れる。
「めぐみぃぃぃ!!」
六郎は苛立ちながら、月を眺めた。
こんなときに何だが月が美しく、死んでも良いわを思い出した。
そして苑田は居なくなった。
職業病とでも言うのだろうか、床のワックスが所々剥げていることとか照明器具の上に埃があることなどに目がいくようになった。
飯田は八重子に痩せましたね、心労からですか?と言いにくそうに尋ねた。
八重子は笑いながら、仕事に出るようになったからですよ、と答えた。
八重子は飯田に現状を話しながらコーヒーに角砂糖を沈めた。角砂糖は茶色く染まって端からサラサラと崩れていく。
「もしかしたら菜摘が進学する頃には離婚するかもしれません。」
八重子は真っ直ぐな目をしてそう語った。
「菜摘ちゃんは大丈夫ですか?涼華の話だといつも朝早くから勉強して家でもしてるみたいって。」
「菜摘は佑みたいに自分を追い込んでまで勉強しませんよ。大丈夫です。」
飯田はおずおずと話しだした。
自分は涼華が小さい頃離婚して寂しい思いをさせたとか、別れた旦那が養育費を振り込んでくれなかったとか、苑田の事で力になれなかったなど、話すごとに萎縮していった。
「飯田さんが写真をくれたおかげでもう覚悟は決まったんです。どうもありがとうございます。」
八重子はここは私に出させてください。
そう言って2人分の会計を済ませて店を出た。
六郎は仕事を終えて苑田の家に来た。苑田の家は入居者8名ほどの小さな安アパートで旦那さんが亡くなってからここに住んでいる。
六郎は呼び鈴を鳴らし、苑田の名前を呼んだ。しかし人の気配はない。
隣の住人がひょっこり顔を出した。
「苑田さんなら引っ越しましたよ。」
「引っ越したってどこに?!」
六郎は声が大きくなる。
「鹿児島だったかなぁ、福島だったかなぁ?」
六郎は苛立ちを隠せない。
「もう身内もいないし好きに生きたいって言ってましたね。」
そう言って隣の住人は家に入った。
六郎はスマホを握りしめながら走った。苑田が居なくなった。それは六郎にとって致命的なことだった。六郎は公園まで走って苑田に電話をかけた。
「この電話番号は現在使われておりません。」
ガイダンスが流れる。
「めぐみぃぃぃ!!」
六郎は苛立ちながら、月を眺めた。
こんなときに何だが月が美しく、死んでも良いわを思い出した。
そして苑田は居なくなった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説


王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる