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月の砂漠のかぐや姫 第25話
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ハブブの腹の中、膝をつかせた駱駝の陰に隠れ、風砂の勢いが弱くなることをただひたすらに願うことしかできない、羽と輝夜姫。しかし、その願いも精霊には届いていないのか、すべての希望をかみ砕く竜巻が、二人の方へと近づいてきているのでした。
「もし、自分に月の巫女として何らかの力があるのであれば、わたしは羽を守りたい。その為に力を使いたい」
砂嵐の立てる音とは全く異質な竜巻の音が、段々と大きくなってくる中で、輝夜姫の意識はただただその一点に集中していました。
極度の集中の故でしょうか、いつのまにか、自分の周りで大きな声で叫んでいる風や砂の存在も、自分を守ってくれている羽の身体の温かさも、最後には自分自身の身体の重みでさえも、輝夜姫には感じられなくなっていました。
その時のことです。
輝夜姫の内側のどこかから、唄が浮かび上がってきました。それは誰からも教わった覚えのない唄で、なぜこんな唄を知っているのか輝夜姫自身にもわかりませんでしたが、同時に、自分はどこかでこの唄を歌ったことがある気もしました。
「この唄を歌いたい」
なぜ、このようなときに、教わった覚えのない唄などを歌いたいと思うのでしょうか。理由などわかりません。ただ、輝夜姫の心がそれを求めていました。
「わたしはこの唄を歌いたい」
輝夜姫は羽の身体の陰で、心の赴くままに、その唄を小さな声で歌い始めました。
二人の周囲では風と砂が吹き荒れていますから、輝夜姫が心の中から湧き上がってくる言葉を紡ぐその唄は、輝夜姫の唇から生まれた途端にかき消されてしまっても不思議ではなかったのです。
でも、どうしたことでしょうか。
その唄は、風や砂の立てる大きな音に負けることなく、まるで空気ではない何か別のものを震わせているとでもいうかのように、夜のバダインジャラン砂漠に広がっていくのでした。
そして、その唄は、ハブブの奥から現われた漆黒の竜巻が、二人が駱駝の影に身を潜めている場所へゆっくりと近づき、自分が巻き起こす漏斗の中へ二人を隠してしまった後でも続いていました。
草地の果てに 雲を湧き立て
貴方は やって来る
青海の湖面に さざ波を起こし
貴方は 去って行く
砂漠の黄砂を 漏斗に巻き上げ
貴方は 舞い踊る
篠突く雨を 自在に走らし
貴方は 笑い転げる
山肌の根雪を 大声で砕き
貴方は 怒り狂う
鼓草の綿毛を 何度も揺さぶり
貴方は 命を運ぶ
籐籠で眠る 赤子の頬に
貴方は 優しく口づける
草原を砂漠をゴビの台地を
貴方は 静かに見つめる
いつからか
いつまでか
知る人おらずとも
観る人知れずとも
繰り返す
貴方は それを 繰り返す
貴方は ただ それを 繰り返す
いつからか
いつまでか
我は 此処にある
我は 貴方を知るもの
我は 貴方を観るもの
我は 貴方と 共に在る
これまでも
これからも
貴方は 我と 共に在る
これまでも
これからも
「もし、自分に月の巫女として何らかの力があるのであれば、わたしは羽を守りたい。その為に力を使いたい」
砂嵐の立てる音とは全く異質な竜巻の音が、段々と大きくなってくる中で、輝夜姫の意識はただただその一点に集中していました。
極度の集中の故でしょうか、いつのまにか、自分の周りで大きな声で叫んでいる風や砂の存在も、自分を守ってくれている羽の身体の温かさも、最後には自分自身の身体の重みでさえも、輝夜姫には感じられなくなっていました。
その時のことです。
輝夜姫の内側のどこかから、唄が浮かび上がってきました。それは誰からも教わった覚えのない唄で、なぜこんな唄を知っているのか輝夜姫自身にもわかりませんでしたが、同時に、自分はどこかでこの唄を歌ったことがある気もしました。
「この唄を歌いたい」
なぜ、このようなときに、教わった覚えのない唄などを歌いたいと思うのでしょうか。理由などわかりません。ただ、輝夜姫の心がそれを求めていました。
「わたしはこの唄を歌いたい」
輝夜姫は羽の身体の陰で、心の赴くままに、その唄を小さな声で歌い始めました。
二人の周囲では風と砂が吹き荒れていますから、輝夜姫が心の中から湧き上がってくる言葉を紡ぐその唄は、輝夜姫の唇から生まれた途端にかき消されてしまっても不思議ではなかったのです。
でも、どうしたことでしょうか。
その唄は、風や砂の立てる大きな音に負けることなく、まるで空気ではない何か別のものを震わせているとでもいうかのように、夜のバダインジャラン砂漠に広がっていくのでした。
そして、その唄は、ハブブの奥から現われた漆黒の竜巻が、二人が駱駝の影に身を潜めている場所へゆっくりと近づき、自分が巻き起こす漏斗の中へ二人を隠してしまった後でも続いていました。
草地の果てに 雲を湧き立て
貴方は やって来る
青海の湖面に さざ波を起こし
貴方は 去って行く
砂漠の黄砂を 漏斗に巻き上げ
貴方は 舞い踊る
篠突く雨を 自在に走らし
貴方は 笑い転げる
山肌の根雪を 大声で砕き
貴方は 怒り狂う
鼓草の綿毛を 何度も揺さぶり
貴方は 命を運ぶ
籐籠で眠る 赤子の頬に
貴方は 優しく口づける
草原を砂漠をゴビの台地を
貴方は 静かに見つめる
いつからか
いつまでか
知る人おらずとも
観る人知れずとも
繰り返す
貴方は それを 繰り返す
貴方は ただ それを 繰り返す
いつからか
いつまでか
我は 此処にある
我は 貴方を知るもの
我は 貴方を観るもの
我は 貴方と 共に在る
これまでも
これからも
貴方は 我と 共に在る
これまでも
これからも
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