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歓迎されないアイデア
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晴れてNS商事の担当になったさくらだがNS商事のメインバンクはあくまでライバル関係の他行であることに違いは無く後塵を拝するカタチに変わりはなかった。ただひたすらに情報を提供しているだけでは営利企業としては成り立たない。
さくらは考えていた。
「うーむ」
SN商事さんにも喜んでいただけて、うちの会社にも貢献できる提案、、、資金調達や財務提案はラインナップは出揃っていて提案内容に差がない、、、そうするとメインバンクに軍配が上がってしまう。。。
最近は老後に備える為の非課税制度であるNISAやiDecoが話題になっているけどNS商事さんのような大企業は既に企業年金は実施済みだし、、、うん!
「そっかぁ」
NS商事さんじゃなくてもいいんだ。山本社長は関係会社を凄く大切に思ってる社長さんだからきっと興味を持ってくれるはずだわ。
さくらはアイデアが浮かぶと直ぐに動き出すタイプだった。しかし、特にNS商事に関しては課長の久保田の手前失敗は許されるわけもなく慎重にことを運ぶ必要があった。
新人ながら、さくらは大人の世界の空気が読める気質をもっていた。
「新井さん、ご相談があるのですが」
「何?」
「NS商事さんで商売がしたくて、、、情報提供だけではご飯食べることできませんし、、、」
「面白いじゃん」
「しかし、ありきたりなファイナンスの提案とかは入り込む余地ないんじゃないか?」
「はい。そこで、私の小さなお頭で考えてみたんです」
「面白いじゃん。で」
「老後の備えに対する制度の導入を提案してみたいと思いまして」
「企業年金か?NS商事の規模だと既にやってるぞ」
「はい、承知しています。NS商事の山本社長は関係会社のことも非常に気にかけていらっしゃるので、たくさんある関係会社に対してNS商事が音頭を取るカタチでiDeco導入を検討する機会を提供する、というのはどうでしょうか?」
「NS商事が、関係する会社の社員のことも大切に考えていることも伝わりますし、加入者掛金に上乗せする事業主掛金は全額損金算入が認められていますから導入する企業にとってもメリットがあります。対象の規模も今は従業員300人以下に拡大されていますから対象企業も多いはずです」
「なるほどお、、、いい発想だなぁ」
「うちの銀行を使ってもらうことでメインバンクに慣れ親しんでいる関係会社の社員さん達にも浸透していくきっかけにもなると思うんです。小さなことからコツコツと、というか、、、」
「いいねェ~。いい着眼点だよ。iDeco、NISAを専門に扱ってる部署とタイアップして提案してみよう」
久保田は上座の自席で、さくらと新井が何やら話し合う姿を眼鏡越しに眺めていた。久保田は実はNS商事の担当になることをまだ諦めてはいなかった。もう一段出世する為にはどうしてもNS商事クラスを担当する必要があったのだ。
経験の浅いさくらは何れミスをする。その時こそそれをカバーして周囲が納得する環境の中、堂々と扱い者を変更するつもりだった。久保田は課長でありながら腹の中ではさくらに成果を出して欲しくないのだ。寧ろ一定期間さくらが何も出来ず成果が上がらなければそれを理由に扱い者変更もできると考えていた。
出世競争に晒されている大手バンカーの中には後輩や部下を踏み台にする輩が多いこともまた事実なのだ。
課長代理の新井もまた非常に優秀であり嗅覚が鋭い賢者であった。
さくらのアイデアの実現性を確信し、関係部署への協力要請、NS商事へのアプローチの手順をさくらに伝え、先ずは制度や商品知識を正確に把握し、自分の言葉でプレゼン出来るようにしなければならないことを説明した。
そして、さくらに
「東山、君にチームで仕事することの素晴らしさを経験してもらいたい。だから仕事の進め方は俺に任せてくれないか?」
と、小声で相談した。
さくらは勿論何の不満もなく
「宜しくお願いします」
笑顔で返事をした。
その回答をしっかり確認した新井が次に向かった先は、、、
怪訝な表情で2人のやり取りを聞いていた課長の久保田の席だった。
「課長も聞こえていたと思いますが、東山のNS商事に対する提案について、そのアイデアを具現化していこうと思います。
NS商事関連企業の社数を考慮すると、説明会についても大規模なものになる可能性があります。
久保田課長の指揮の元、課を挙げてこの提案を成功させたいと思いますが、課長としてご判断を頂けないでしょうか。」
新井はフロア奥の樋口部長にも聞こえる大きな声を張った。
さくら、植草、課員の多くが鳥肌を立てながら新井の将来を想像する瞬間だった。
久保田は、未だNS商事の担当になることへの未練があり、さくらがミスすることを密かに望んでいた。
しかしながら、新井のこの仕掛けによって、さくらの提案を成功させることに全力で協力せざるを得なくなるばかりか、責任をも負うことになったのだ。
新井はさくらのアイデアを聞いていた僅かな時間に、案件の成功確度を高める手順とさくらのNS商事担当に不満を持つ課長を協力者に加え、更に課全体で取り組むことでチームの士気を高めることを考えたのだった。
さくらは一連の思慮深さと行動力に魅了され、いつしか新井のような仕事が出来る自分になりたい、と思うようになっていた。
そして、母の口癖の「頑張ればいいことある。って本当だな」と小声で言いながら、感謝の気持ちで心が満ちていくのを感じずにはいられなかった。
さくらは考えていた。
「うーむ」
SN商事さんにも喜んでいただけて、うちの会社にも貢献できる提案、、、資金調達や財務提案はラインナップは出揃っていて提案内容に差がない、、、そうするとメインバンクに軍配が上がってしまう。。。
最近は老後に備える為の非課税制度であるNISAやiDecoが話題になっているけどNS商事さんのような大企業は既に企業年金は実施済みだし、、、うん!
「そっかぁ」
NS商事さんじゃなくてもいいんだ。山本社長は関係会社を凄く大切に思ってる社長さんだからきっと興味を持ってくれるはずだわ。
さくらはアイデアが浮かぶと直ぐに動き出すタイプだった。しかし、特にNS商事に関しては課長の久保田の手前失敗は許されるわけもなく慎重にことを運ぶ必要があった。
新人ながら、さくらは大人の世界の空気が読める気質をもっていた。
「新井さん、ご相談があるのですが」
「何?」
「NS商事さんで商売がしたくて、、、情報提供だけではご飯食べることできませんし、、、」
「面白いじゃん」
「しかし、ありきたりなファイナンスの提案とかは入り込む余地ないんじゃないか?」
「はい。そこで、私の小さなお頭で考えてみたんです」
「面白いじゃん。で」
「老後の備えに対する制度の導入を提案してみたいと思いまして」
「企業年金か?NS商事の規模だと既にやってるぞ」
「はい、承知しています。NS商事の山本社長は関係会社のことも非常に気にかけていらっしゃるので、たくさんある関係会社に対してNS商事が音頭を取るカタチでiDeco導入を検討する機会を提供する、というのはどうでしょうか?」
「NS商事が、関係する会社の社員のことも大切に考えていることも伝わりますし、加入者掛金に上乗せする事業主掛金は全額損金算入が認められていますから導入する企業にとってもメリットがあります。対象の規模も今は従業員300人以下に拡大されていますから対象企業も多いはずです」
「なるほどお、、、いい発想だなぁ」
「うちの銀行を使ってもらうことでメインバンクに慣れ親しんでいる関係会社の社員さん達にも浸透していくきっかけにもなると思うんです。小さなことからコツコツと、というか、、、」
「いいねェ~。いい着眼点だよ。iDeco、NISAを専門に扱ってる部署とタイアップして提案してみよう」
久保田は上座の自席で、さくらと新井が何やら話し合う姿を眼鏡越しに眺めていた。久保田は実はNS商事の担当になることをまだ諦めてはいなかった。もう一段出世する為にはどうしてもNS商事クラスを担当する必要があったのだ。
経験の浅いさくらは何れミスをする。その時こそそれをカバーして周囲が納得する環境の中、堂々と扱い者を変更するつもりだった。久保田は課長でありながら腹の中ではさくらに成果を出して欲しくないのだ。寧ろ一定期間さくらが何も出来ず成果が上がらなければそれを理由に扱い者変更もできると考えていた。
出世競争に晒されている大手バンカーの中には後輩や部下を踏み台にする輩が多いこともまた事実なのだ。
課長代理の新井もまた非常に優秀であり嗅覚が鋭い賢者であった。
さくらのアイデアの実現性を確信し、関係部署への協力要請、NS商事へのアプローチの手順をさくらに伝え、先ずは制度や商品知識を正確に把握し、自分の言葉でプレゼン出来るようにしなければならないことを説明した。
そして、さくらに
「東山、君にチームで仕事することの素晴らしさを経験してもらいたい。だから仕事の進め方は俺に任せてくれないか?」
と、小声で相談した。
さくらは勿論何の不満もなく
「宜しくお願いします」
笑顔で返事をした。
その回答をしっかり確認した新井が次に向かった先は、、、
怪訝な表情で2人のやり取りを聞いていた課長の久保田の席だった。
「課長も聞こえていたと思いますが、東山のNS商事に対する提案について、そのアイデアを具現化していこうと思います。
NS商事関連企業の社数を考慮すると、説明会についても大規模なものになる可能性があります。
久保田課長の指揮の元、課を挙げてこの提案を成功させたいと思いますが、課長としてご判断を頂けないでしょうか。」
新井はフロア奥の樋口部長にも聞こえる大きな声を張った。
さくら、植草、課員の多くが鳥肌を立てながら新井の将来を想像する瞬間だった。
久保田は、未だNS商事の担当になることへの未練があり、さくらがミスすることを密かに望んでいた。
しかしながら、新井のこの仕掛けによって、さくらの提案を成功させることに全力で協力せざるを得なくなるばかりか、責任をも負うことになったのだ。
新井はさくらのアイデアを聞いていた僅かな時間に、案件の成功確度を高める手順とさくらのNS商事担当に不満を持つ課長を協力者に加え、更に課全体で取り組むことでチームの士気を高めることを考えたのだった。
さくらは一連の思慮深さと行動力に魅了され、いつしか新井のような仕事が出来る自分になりたい、と思うようになっていた。
そして、母の口癖の「頑張ればいいことある。って本当だな」と小声で言いながら、感謝の気持ちで心が満ちていくのを感じずにはいられなかった。
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