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報われる瞬間
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久保田課長に呼ばれたさくらは直ぐに席を立ち上座へ向かった。
「NS商事のことですか。」
となかなか話を切り出さない久保田に向かってさくらは問いかけた。
久保田は何事も無かったかのように平静を装ってはいたが、誰の目から見ても悔しさが滲み出ている渋い表情で、
「NS商事の担当は引き続き東山がやれ、これは樋口部長から一任を受けた課長である私の決定だ。」
久保田は精一杯の去勢を張った。一方のさくらは素直に満面の笑みで
「ありがとうございます。」と一例し自席に戻った。
すると間髪いれずに新井が声をかけてきた。
昇進間近でありながら、マイナス点になりかねないことを覚悟してまで、自分の信念を曲げずにさくらを擁護し続けた新井は拳を小さく握るだけでは、感情を抑えることができなかった。
「東山、よかったな。本当によかった。」
続いて植草も
「おめでとう、本当によかった。」
いつの間にか、課員全員がさくらを取り囲み笑みを浮かべながら、
「よかった。おめでとう。」
を繰り返し、拍手した。
さくらはスクッと立ち上がり、先ずはさくらの直ぐ側にいた新井課長代理に視線を送り、課員みんなに向かって「ありがとうございます。」とお礼を言った。
頑張ってきた、でもどうにもならないことだと諦めていた。
自分の昇格を台無しにするかもしれないというのに必死に抗議してくれた先輩、
すれ違う度に励ましてくれた課員のみんなに感謝した。
なんか、チカラが抜けてきた、、、
そう思った瞬間、さくらの目から大粒の涙が落ちた。
NS商事との取引きが出来ると手放しで喜び、直後奈落の底に落とされ、それでも何とか気持ちを取り戻そうと仕事に向かっていたが、やはり担当させてもらえない自分の不甲斐なさを責めずにはいられなかった。
それが、お客様から直々に担当者指名をされ担当させてもらえる。
それを励ましてくれていた課員のみんなが自分のことのように喜んでくれている。
頑張ればいいことある、一番好きな言葉、母からもらった大切な大事な言葉。
「頑張ればいいことある。」
大粒の涙を隠しもせず、さくらは笑顔でみんなに頭を下げた。
帰り際に植草からドトールを誘われたが丁重に断り、さくらは会社から40分ほどのワンルームの自宅に戻ってきた。
今日は一人で、いや、家族と過ごしたかった。
「お母さん、ありがとう。」
母への感謝の気持ちが込み上げ、天井を見上げながら掠れた声で言った。
まだ、何かをやり遂げたわけじゃない。けれど、さくらの心の中は母への感謝の気持ちで溢れていた。
さくらの父親は小学生の時に病気が原因で他界し、以来、さくらは高校を卒業するまで母親と弟の3人で暮らしてきた。
さくらの母は父が他界した後も、母の実家に帰ることなく、父と家族4人で暮らした静岡で、仕事を3つも掛け持ちしながら、ずっとさくらと弟を育ててくれたのだった。
母親はいつも忙しく、ゆっくり話すことはあまりなかったが、時々話すのはいつもお父さんの自慢話だった。
「お父さん、仕事が出来たのよ。スーツをカッコよく着てね、銀行で出世頭だったのよ。経済のこと何でも知ってたの。」
恥ずかしがらずに、子供達に向かって
「お母さんは、ずっとお父さんのこと大好きなの。だから、あなたたちはお母さんの宝物なのよ。お母さんはずっとお父さんと一緒にあなたたちが大人になるまで見届けるの。」
辛くないわけがない、さくらは幼心にそう思っていたが、母親はいつも笑顔で、頑張ればいいことある、と呟きながら多忙な毎日を過ごしていた。
今も昔も母親が好きなこの言葉は実はお父さんの口癖だったのだ。
お父さん、、、
お母さん、、、のこと守ってね。
朝となく、夕となく、さくらはお父さんに向かってお願いする。
さくらが今の仕事に就いたのは幼い頃の父の姿があったからかもしれない。
「よし、ボーナスもらったら、お家に帰るぞー」
さくらは、普段は滅多に電話をかけたりしない。それより、帰った時にお母さんとたくさん一緒にいることを楽しみにしていた。
お父さん、ありがとう。
お母さん、ありがとう。
私、一人じゃない。
さくらは自分の心がポカポカと温まるのを感じながら、頑張ればいいことある、と呟いた。
「NS商事のことですか。」
となかなか話を切り出さない久保田に向かってさくらは問いかけた。
久保田は何事も無かったかのように平静を装ってはいたが、誰の目から見ても悔しさが滲み出ている渋い表情で、
「NS商事の担当は引き続き東山がやれ、これは樋口部長から一任を受けた課長である私の決定だ。」
久保田は精一杯の去勢を張った。一方のさくらは素直に満面の笑みで
「ありがとうございます。」と一例し自席に戻った。
すると間髪いれずに新井が声をかけてきた。
昇進間近でありながら、マイナス点になりかねないことを覚悟してまで、自分の信念を曲げずにさくらを擁護し続けた新井は拳を小さく握るだけでは、感情を抑えることができなかった。
「東山、よかったな。本当によかった。」
続いて植草も
「おめでとう、本当によかった。」
いつの間にか、課員全員がさくらを取り囲み笑みを浮かべながら、
「よかった。おめでとう。」
を繰り返し、拍手した。
さくらはスクッと立ち上がり、先ずはさくらの直ぐ側にいた新井課長代理に視線を送り、課員みんなに向かって「ありがとうございます。」とお礼を言った。
頑張ってきた、でもどうにもならないことだと諦めていた。
自分の昇格を台無しにするかもしれないというのに必死に抗議してくれた先輩、
すれ違う度に励ましてくれた課員のみんなに感謝した。
なんか、チカラが抜けてきた、、、
そう思った瞬間、さくらの目から大粒の涙が落ちた。
NS商事との取引きが出来ると手放しで喜び、直後奈落の底に落とされ、それでも何とか気持ちを取り戻そうと仕事に向かっていたが、やはり担当させてもらえない自分の不甲斐なさを責めずにはいられなかった。
それが、お客様から直々に担当者指名をされ担当させてもらえる。
それを励ましてくれていた課員のみんなが自分のことのように喜んでくれている。
頑張ればいいことある、一番好きな言葉、母からもらった大切な大事な言葉。
「頑張ればいいことある。」
大粒の涙を隠しもせず、さくらは笑顔でみんなに頭を下げた。
帰り際に植草からドトールを誘われたが丁重に断り、さくらは会社から40分ほどのワンルームの自宅に戻ってきた。
今日は一人で、いや、家族と過ごしたかった。
「お母さん、ありがとう。」
母への感謝の気持ちが込み上げ、天井を見上げながら掠れた声で言った。
まだ、何かをやり遂げたわけじゃない。けれど、さくらの心の中は母への感謝の気持ちで溢れていた。
さくらの父親は小学生の時に病気が原因で他界し、以来、さくらは高校を卒業するまで母親と弟の3人で暮らしてきた。
さくらの母は父が他界した後も、母の実家に帰ることなく、父と家族4人で暮らした静岡で、仕事を3つも掛け持ちしながら、ずっとさくらと弟を育ててくれたのだった。
母親はいつも忙しく、ゆっくり話すことはあまりなかったが、時々話すのはいつもお父さんの自慢話だった。
「お父さん、仕事が出来たのよ。スーツをカッコよく着てね、銀行で出世頭だったのよ。経済のこと何でも知ってたの。」
恥ずかしがらずに、子供達に向かって
「お母さんは、ずっとお父さんのこと大好きなの。だから、あなたたちはお母さんの宝物なのよ。お母さんはずっとお父さんと一緒にあなたたちが大人になるまで見届けるの。」
辛くないわけがない、さくらは幼心にそう思っていたが、母親はいつも笑顔で、頑張ればいいことある、と呟きながら多忙な毎日を過ごしていた。
今も昔も母親が好きなこの言葉は実はお父さんの口癖だったのだ。
お父さん、、、
お母さん、、、のこと守ってね。
朝となく、夕となく、さくらはお父さんに向かってお願いする。
さくらが今の仕事に就いたのは幼い頃の父の姿があったからかもしれない。
「よし、ボーナスもらったら、お家に帰るぞー」
さくらは、普段は滅多に電話をかけたりしない。それより、帰った時にお母さんとたくさん一緒にいることを楽しみにしていた。
お父さん、ありがとう。
お母さん、ありがとう。
私、一人じゃない。
さくらは自分の心がポカポカと温まるのを感じながら、頑張ればいいことある、と呟いた。
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