頑張ればいいことある~ETERNAL DREAM~

慶之助

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天使が舞い降りた

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他のお客様とのやり取りが終わる間際だったさくらは、取り継いでくれた先輩の顔を見ながら右人差し指を電話機へ向け、保留に入れて下さい、と合図をした。



前のお客様との会話を終えたさくらは受話器を置くことなく赤く点滅する保留のボタンを押した。



「山本社長、おはよう御座います。」



「うちの鈴木が朝から騒いでてね、東山さんが担当から外れる、と。異動か何かですか。」



「いいえ、異動ではりません。正式には先日一緒に訪問させて頂いた課長の久保田と再度訪問させて頂き、お伝えさせて頂きたいのですが、私は未だ知識不足で、、、」



さくらが異動ではないことを確認した山本は、



「そうなんだ、異動じゃないんだ。それはよかった。それじゃ、また。」



と、機嫌良くそう言うと受話器を置いたのだった。

山本がさくらの説明を途中で遮ったのには理由があった。



ピンと来たというか、上司からの指示で担当者が変更になるのだと確信したのだ。



大企業であるNS商事の銀行担当者はそれなりの役職にあることが通常なのだが、さくらは新人の一年生。

だが、山本は一生懸命に頑張るさくらを気に入っていた。




山本の動きは早く、3分も経たないうちに今度は課長の久保田の電話が鳴ったのだ。



「あ、はい。課長の久保田でございます。山本社長、おはようございます。

 先日はご多忙の中ありがとうございました。」



久保田はさくらのところに山本社長から電話が入っていたことを認識していなかった。



朝の一番忙しい時間帯で皆自分の仕事でいっぱいいっぱいのはずなのだが、久保田が急に大きな挨拶と共に椅子から立ち上がった為、課長代理の新井を筆頭に課員の多くが手を止めその様子を眺めていた。



さくらは、山本社長から自分に電話があったことを報告する前に久保田課長にも電話が入ってしまった為、なにか不味いような気がしていた。




久保田は立ち上がったまま、受話器を握りしめて



「直々にお電話を頂き恐縮です、、、」



「あー、久保田さんにお尋ねしたいことがありましてお電話させて頂きました。」



山本社長は穏やかに、しかしどこか重みのある口調で続けた。


久保田は受話器を持つ自身の手の平から汗がジンワリ出ているのを感じながら、それでも声を震わせないように精一杯明るく声を発した。



「はい、何なりとお聞きください。」



相変わらず、山本社長は落ち着いた声でゆっくりと



「うちのフロントの鈴木が担当者が東山さんから誰かに代わるらしい、と騒いでいたので電話をしました。」



久保田はこの時点で、担当者変更についてNS商事が不満を持っているのを感じた。



しかし、ここで引くわけには行かない。



このNS商事に関するゴタゴタは課員や本店営業部、更に樋口部長も注目していることであり自分が言い出したことが覆っては面子が立たない。



更に、自身の出世の一助にするつもりでいた為、簡単に諦めるわけにもいかなかった。



丁寧に説明するんだ、、、落ち着いて、、、

少し声のトーンを落ち着きモードに変えて



「あっ、はい。実は、、、」



久保田は、自分が責任を持って担当させていただくこと、そして担当者変更については、改めて直接説明にお伺いさせて頂く旨を伝えようとした。



しかし、久保田の思いを重み十分な声が遮った。



「東山さんの毎日のレポート、訪問時の多岐に亘る業務内外の事象についての分かりやすい説明、何よりその一生懸命に頑張る姿に取引することを決めさせて頂いた。東山さんが担当から外れる、なんてうちの鈴木の勘違いですよね。」



久保田は全身から嫌な汗が吹き出すのを感じながら、それでも最後の抵抗を試みた。



「はい、東山をお褒め頂きありがとうございます。彼女は毎日一生懸命頑張っています。ただ、、、」



再び重み十分な声が久保田の最後の抵抗を遮った。



「そうですか、やはりうちの鈴木の勘違いですね。今後、御社と取引が出来るかと思うと非常に嬉しくなりますね。今後ともよろしくお願いします。久保田課長さん。」



「は、はい。東山はもちろん全社を挙げてより良いご提案をさせて頂きます。今後ともよろしくお願い致します。」



受話器を置いた久保田は、面子丸潰れな状態であることすら意識出来ないほど疲弊しきっていた。そして



「はあー」と言いながら自席にお尻から勢いよく倒れ込んだ。



額の汗を目の前にあったティッシュで拭きながら、本店営業部の天井を意識の無い中見上げた。



さくらはキョトンとしてまだ事態をしっかり把握出来ないでいた。



新井と植草は、久保田の様子や漏れ聞こえる僅かな会話からことの顛末を理解し、小さく拳を握っていた。



皆が落ち着きを取り戻した頃、久保田がさくらを呼んだ。
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