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頑張っていた私
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久保田は東山が発した先輩への気遣いの声を逃さず
「本人も納得しているようじゃないか。朝の貴重な時間だ。仕事にとりかかれ。」
と、課長として課員への業務命令を出した。東山は、久保田課長へは視線を送らず、新井と植草に一礼をして自席へと戻った。
新井と植草はどこか不満気な表情のまま自席へ重い足取りで戻ったが、新井は自席の戻ると大きな声で
「俺が東山をサポートする。今日から教育係を請け負う。」
と課長の了承も得ず、課員へ向けて決意表明した。
東山は即応し
「はい、ありがとうございます。頑張ります。」
当然、課長の久保田は一部始終を見ていたが、何も言わず黙認するしかなかった。
早速、新井課長代理が東山を読んで現在の米国の経済環境について東山に質問した。
「米国は雇用統計や物価等各指標が経済の回復を示しているが・・・米国の長期金利の動向や方向性についてどう考えているか言ってみろ。」
東山は
「米国中央銀行であるFRBは、デフレ下での日本の量的緩和を相当に研究していたと言われています。一時長期金利は1.70%を上回り、円安の要因にもなりましたが、テーパリング開始観測を先延ばしすることで長期金利を抑え込み、1.60%前後での推移を実現しています。景気回復の度合いを見極める時間帯を設けていると考えられ・・・」
植草も含め、先輩課員が唸った。
東山は、満足そうに
「経験は確かに足りりないかもしれないが、それを補って余りある努力をしているのがよく分かるよ。一緒に頑張っていこう。」
課長の久保田は無関心を装うのが精一杯であり気不味さがスーツから滲み出ているようだった。
果たして米国のテーパリングの時期についは、さくらが新井課長代理に回答した通り、FRBの神経質な発言が続き、特に経済指標の発表時にはマーケット参加者の息遣いにまで神経を尖らせているようだった。
さくらは日頃からニュースを読みまとめるだけではなく、疑問に思ったことは、帰宅後、納得するまで徹底的に調べる日々を繰り返していた。
頑張ればいいことある、、、
大好きなこの言葉を信じて、どんなに疲れていてもその日のうちに自分のものにしていた。
確かに業務経験は浅いかも知れないが、情報提供に関しての顧客満足度は群を抜くレベルに達していた。
最近の口癖は、新聞の記事はいい加減な説明多過ぎ、という、生意気なものになっていた。
ただ、情報の提供先にはさくらの説明や解説は非常に評価されており、さくらの熱心さは関係先の皆が認識していた。
9時過ぎにNS商事の担当者からさくらに電話が入った。
さくらはいつも、担当先へ連絡する時間をそれぞれについて凡そ決めていた。
NS商事には8時40分に電話するのが日常になっており、時間を過ぎても電話をしてこないさくらに対して、さくらからの連絡を受けるのが、いつの間にか日課になっていた担当者が連絡をしてきたのだ。
新人ながらとても見事な営業スタイルだ。
「はい、東山です。鈴木さん、お電話頂きありがとうございます。正式には改めてご連絡を差し上げますが、実は私、御社の担当を、、、」
担当が変更になったことは、後任の久保田課長から前振りだけして、正式にはもう一度訪問してお伝えする、と打ち合わせ済みであり、さくらは指示通りに動いた。
15分後、またNS商事から電話が鳴った。さくらは別のお客様と電話中だったため、一つ上の先輩がその電話を取った。
「東山さん、NS商事の山本さん、って人だけどどうする?」
社長から電話が入ったのだ。
「本人も納得しているようじゃないか。朝の貴重な時間だ。仕事にとりかかれ。」
と、課長として課員への業務命令を出した。東山は、久保田課長へは視線を送らず、新井と植草に一礼をして自席へと戻った。
新井と植草はどこか不満気な表情のまま自席へ重い足取りで戻ったが、新井は自席の戻ると大きな声で
「俺が東山をサポートする。今日から教育係を請け負う。」
と課長の了承も得ず、課員へ向けて決意表明した。
東山は即応し
「はい、ありがとうございます。頑張ります。」
当然、課長の久保田は一部始終を見ていたが、何も言わず黙認するしかなかった。
早速、新井課長代理が東山を読んで現在の米国の経済環境について東山に質問した。
「米国は雇用統計や物価等各指標が経済の回復を示しているが・・・米国の長期金利の動向や方向性についてどう考えているか言ってみろ。」
東山は
「米国中央銀行であるFRBは、デフレ下での日本の量的緩和を相当に研究していたと言われています。一時長期金利は1.70%を上回り、円安の要因にもなりましたが、テーパリング開始観測を先延ばしすることで長期金利を抑え込み、1.60%前後での推移を実現しています。景気回復の度合いを見極める時間帯を設けていると考えられ・・・」
植草も含め、先輩課員が唸った。
東山は、満足そうに
「経験は確かに足りりないかもしれないが、それを補って余りある努力をしているのがよく分かるよ。一緒に頑張っていこう。」
課長の久保田は無関心を装うのが精一杯であり気不味さがスーツから滲み出ているようだった。
果たして米国のテーパリングの時期についは、さくらが新井課長代理に回答した通り、FRBの神経質な発言が続き、特に経済指標の発表時にはマーケット参加者の息遣いにまで神経を尖らせているようだった。
さくらは日頃からニュースを読みまとめるだけではなく、疑問に思ったことは、帰宅後、納得するまで徹底的に調べる日々を繰り返していた。
頑張ればいいことある、、、
大好きなこの言葉を信じて、どんなに疲れていてもその日のうちに自分のものにしていた。
確かに業務経験は浅いかも知れないが、情報提供に関しての顧客満足度は群を抜くレベルに達していた。
最近の口癖は、新聞の記事はいい加減な説明多過ぎ、という、生意気なものになっていた。
ただ、情報の提供先にはさくらの説明や解説は非常に評価されており、さくらの熱心さは関係先の皆が認識していた。
9時過ぎにNS商事の担当者からさくらに電話が入った。
さくらはいつも、担当先へ連絡する時間をそれぞれについて凡そ決めていた。
NS商事には8時40分に電話するのが日常になっており、時間を過ぎても電話をしてこないさくらに対して、さくらからの連絡を受けるのが、いつの間にか日課になっていた担当者が連絡をしてきたのだ。
新人ながらとても見事な営業スタイルだ。
「はい、東山です。鈴木さん、お電話頂きありがとうございます。正式には改めてご連絡を差し上げますが、実は私、御社の担当を、、、」
担当が変更になったことは、後任の久保田課長から前振りだけして、正式にはもう一度訪問してお伝えする、と打ち合わせ済みであり、さくらは指示通りに動いた。
15分後、またNS商事から電話が鳴った。さくらは別のお客様と電話中だったため、一つ上の先輩がその電話を取った。
「東山さん、NS商事の山本さん、って人だけどどうする?」
社長から電話が入ったのだ。
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