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覚悟
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課長代理の新井は、冷静にしかしこれまでとは違う厳しい口調で声を張った。
「久保田課長、詭弁が過ぎます。頑張ってる部下をサポートして育てるのがチームリーダーである課長の責務ではないですか。
部下の手柄を横取りしてまで自分の成績に拘るあなたの品格を疑います。」
響き渡った。二課だけではなく本店営業部の隅々まで。
二課の課員は固まったまま身動きが出来ずにいた。
課長の久保田は冷静さを装う為か、意識して小さめの声で
「新井君、何を言っているか分かっているのか。」
と、言いながら新井課長代理の靴のつま先から頭頂部までをゆっくりと視線で刺した。
新井もまた落ち着きはらって、小さな声で
「私の発言に不適切な箇所はないはずです。問題にするのなら喜んで応じます。」
久保田もこれ以上大袈裟にすることは損だと判断したようで
「新井の意見は参考に預かっておく。今日のところはこの議論の結論は持ち越すことにする。しかし結論は課長である私が出す。」
そんな久保田の言い回しに新井は納得するはずもなく声を荒げた。
「もう一度言いますが、NS商事と取引が出来るのは東山のひたむきな努力があったからです。それを自分に扱い者変更する課長がどこにいるのですか。」
さくらが荒川の小さな支流に架かる橋の上で涙ぐんでいた頃社内での自身の立ち位置を顧みず、少し背伸びしながら頑張るさくらを、守ろうとする新井の姿が本店営業部のそこにあった。
植草は急に残念そうな表情になって
「ここまでは俺も机の下で拳を握りガッツポーズしながら心の中で新井さんを応援してたんだ。」
さくらは大事な時期にリスクを顧みず自分を庇ってくれた新井課長代理のことが心配で既に課長に叱責されたことなどどうでもよくなっていた。
「植草さん、それで新井さんはどうしていなかったのですか。」
植草は本当に悔しいそうに
「帰らされたんだ。樋口部長に。新井さんは是々非々の人だから、あの後、結論を先延ばししようとした課長に。」
そう言って頭を抱えた。
「それで、それで、どうなったんですか。」
さくらは懇願するように言った。
新井は課長に向かって
「課長の私が判断する?そんな理不尽なことが認められるのならこの会社に未来はない。久保田さん、あなたは間違っている。」
冷静なのか、熱くなっているのか見た目では判断できないがこの時の新井は口論が始まってから最も張りのある声で言い放った。
ついに奥まったデスクで一部始終を聞いていた部長の樋口が重い腰を上げ近づいてきた。樋口は両者が視線で迎え入れたことを確認し、静かな口調で
「今日のことは久保田ではなく私が預かる。新井はデスクを片付け速やかに帰れ。」
と指示した。
新井は部長の言葉に従い退社し、久保田はその後部長席付近でなにやら少し話した後課長席に戻ってきた。
「久保田課長、詭弁が過ぎます。頑張ってる部下をサポートして育てるのがチームリーダーである課長の責務ではないですか。
部下の手柄を横取りしてまで自分の成績に拘るあなたの品格を疑います。」
響き渡った。二課だけではなく本店営業部の隅々まで。
二課の課員は固まったまま身動きが出来ずにいた。
課長の久保田は冷静さを装う為か、意識して小さめの声で
「新井君、何を言っているか分かっているのか。」
と、言いながら新井課長代理の靴のつま先から頭頂部までをゆっくりと視線で刺した。
新井もまた落ち着きはらって、小さな声で
「私の発言に不適切な箇所はないはずです。問題にするのなら喜んで応じます。」
久保田もこれ以上大袈裟にすることは損だと判断したようで
「新井の意見は参考に預かっておく。今日のところはこの議論の結論は持ち越すことにする。しかし結論は課長である私が出す。」
そんな久保田の言い回しに新井は納得するはずもなく声を荒げた。
「もう一度言いますが、NS商事と取引が出来るのは東山のひたむきな努力があったからです。それを自分に扱い者変更する課長がどこにいるのですか。」
さくらが荒川の小さな支流に架かる橋の上で涙ぐんでいた頃社内での自身の立ち位置を顧みず、少し背伸びしながら頑張るさくらを、守ろうとする新井の姿が本店営業部のそこにあった。
植草は急に残念そうな表情になって
「ここまでは俺も机の下で拳を握りガッツポーズしながら心の中で新井さんを応援してたんだ。」
さくらは大事な時期にリスクを顧みず自分を庇ってくれた新井課長代理のことが心配で既に課長に叱責されたことなどどうでもよくなっていた。
「植草さん、それで新井さんはどうしていなかったのですか。」
植草は本当に悔しいそうに
「帰らされたんだ。樋口部長に。新井さんは是々非々の人だから、あの後、結論を先延ばししようとした課長に。」
そう言って頭を抱えた。
「それで、それで、どうなったんですか。」
さくらは懇願するように言った。
新井は課長に向かって
「課長の私が判断する?そんな理不尽なことが認められるのならこの会社に未来はない。久保田さん、あなたは間違っている。」
冷静なのか、熱くなっているのか見た目では判断できないがこの時の新井は口論が始まってから最も張りのある声で言い放った。
ついに奥まったデスクで一部始終を聞いていた部長の樋口が重い腰を上げ近づいてきた。樋口は両者が視線で迎え入れたことを確認し、静かな口調で
「今日のことは久保田ではなく私が預かる。新井はデスクを片付け速やかに帰れ。」
と指示した。
新井は部長の言葉に従い退社し、久保田はその後部長席付近でなにやら少し話した後課長席に戻ってきた。
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