その男、繊細につき

慶之助

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1-26 お話になってない

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見事な空振りと言いたいところだが、へなちょこな空振りで、もう期待のしようがなかった。

80台後半?

寧ろ、なぜ?直ぐにウソと分かってしまうことを堂々と言えてしまうのか、そっちの方がみんな不思議だった。


まだコンペに参加せず言ってるだけならいいのだが、参加が決まった時は確か上機嫌だったはず。


精神が病んでるとしか言いようがない状態が目の前にあった。



勿論打ち直しだ。だが力む為に余計に当たらない。


矢部はある意味助かっていた。なぜなら、パンパンもシーちゃんも無茶苦茶優しい人柄だったからだ。


シーちゃんが文字通り優しく指導した。
「矢部さん、焦らずゆっくり振ってみましょう」


3回目にしてやっと当たった。いや、かすった。

毎ホール同じ状態で当然全く進歩しなかった。恐らく数年は練習してないに違いなかった。


どこに飛んでいくか分からない状態で、しかも、本人は悪びれるわけでもなく堂々とカートで移動し、転がったボールを確認に行く時は手ぶらで行き、またカートに戻り1本だけクラブを手にし、再びボールのところに向かう。


一番イライラしていたのは啓太だった。お世話係を依頼されたことで責任を感じていたのと、矢部の大嘘を信じきっていた自分への歯がゆさが同居し気持ちの居所が宙に浮いてる状態だった。


矢部が一度ボールのところに行き、イメージと違ったのかまたカートに戻り、またまた1本だけクラブを手に歩き出した姿を見た啓太はとうとうプッツンしてしまった。


「矢部さん、ゴルフ無理ですよ。プレイするのやめてください」


矢部の周囲にいた者にとっては散々な一日になってしまった。



そんなコンペの翌日、隣のビルで飲んでいた矢部が路上で大騒ぎをしていた。


そして、どうやら矢部自身が警察を呼んだようだ。


「この店で金を盗まれた、なんとかしろ」


パトカーで駆け付けた警官が降りてくるやいなや大声で怒鳴っていた。


いつものようにメモリーズでしっぽり飲んでいた大志と勝彦のところに若い衆が
「大志さん、なんとかしてください」


若い衆は矢部に言いがかりをつけられた店の店長だが、自分の手には負えないと分かり大志がいるメモリーズに助けを求めに来たのだった。


この時大志は心の中で、一番良いシチュエーションだ、と歓迎した。


大志と勝彦は警官と矢部の間に入り、
「矢部さん、何言ってるの?」


すると矢部は
「3日前には10万くらい財布に入ってたんだよ。こいつの店出たら数千円しか残ってない。盗まれたんだ」


大志と勝彦は顔を見合わせ少し笑ったあと大志が
「何いってるんだ、3日の間に飲んだりゴルフ行ったりしたんだろ。10万くらいなくなるだろ」


「うるせーよ、お前関係ねーだろ」


大志はやっと解き放たれた。警官の前で矢部の胸ぐらを掴み

「てめーいい加減にしろ、やってやろうか」

「タイちゃん、警察の目の前でそれは不味いよ」


勝彦が焦って止めに入った。もしも勝彦が止めなかったら確実に傷害の現行になっていたところだった。


「お前、今度この辺り歩いてるの見掛けたら直ぐに排除しに行くからな」


それ以来、この界隈で矢部の姿を見かけることは一度もなかった。


やられたことのある奴にしか分からない大志に対する強烈な恐怖心が矢部の中に植え付けられたに違いなかった。
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感想 4

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みんなの感想(4件)

chiimama_
2023.04.09 chiimama_

続きが待ちきれない^ ^

解除
taishi
2023.04.09 taishi

頑張れー

解除
Hideuchi
2023.04.08 Hideuchi

応援してます

解除

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