72 / 79
本編
69.「可愛いな」
しおりを挟む
さて、その日の夜。いつも通り寝る準備をして、ベッドに入ってライトを消す直前。フィルが、その日半日ずっと聞きたかったことを口にした。
「……サクヤ」
「ん?」
「あの時、炎に焼かれる直前にサクヤ、俺に……」
と、皆まで言う前に咲夜がとんでもない速度でフィルの口を押さえつけにかかる。その頬は薄暗闇でも分かるほど、赤く染っていた。
「あ、あれはね、き、緊急……そう、緊急事態だったから!わ、私きっと気が動転してたんだよ、うん!」
「じゃ、サクヤはあの時いたのが俺じゃなくて丸だったとしても、気が動転してキスしたのか?」
「そ、それはない!フィルだから、だけと……」
口ごもりつつ、必死に言い訳を重ねる咲夜が可愛くて、ついついからかうのを止められないフィル。寝るために竜体になっていたのから人になって、わざと咲夜の瞳を覗き込む。
「俺だから、か。ならこれからも俺が好きな時に、サクヤにキスしていいか?」
「えっ、そ、それはダメ!」
「なんで?」
「は、恥ずかしいから……」
フィルが頬に手を当て、キスをする真似をしようとすると必死に腕をつっぱってイヤイヤをする咲夜。そんな反応ですら可愛くて仕方の無いフィル。
「そんなに俺とキスするのが嫌なのか?俺のこと、嫌いか?」
「き、嫌いじゃない!」
「ならいいだろ?」
「ダメっ!」
断固としてイエスと言わない咲夜に痺れを切らし、フィルがとっておきを取り出す。それはいつかフィルが咲夜に与えた竜心の、半分だった。
「フィル、それ何?」
「竜心。そのまま竜の心だ。ま、これは半分なんだがな」
「ふぅん……どうして半分なの?」
「もう半分はあげたからな」
「誰に?」
咲夜は貰ったことを知らないので、フィルが竜心の半分を誰かに渡してしまったことで少しムッとする。その気持ちが嫉妬だと気づいておらず、逆に勘づいているフィルは愉快そうである。
「サクヤ」
「え……?」
「あの時……サクヤ、氷水かぶって体が冷え切っててな。明らかに危ない状態だったから」
「じゃあ、もしかして、あの日以来妙に体力がついたのって、フィルのおかげ……?」
「あぁ。体力だけじゃない、魔力があるのもな」
そこまで聞いてやっといつかリィカから聞いた話と繋がって、理解した咲夜。その後に早く魔法が使えるようになりたいならすべきことをようやく悟って、顔を赤らめる。
「俺にもサクヤにもいい事ずくめだよな」
「フィルにいい事なんてないでしょ」
「あるさ。今まで手を繋ぐしかさせてもらえなかったんだぞ?好きな女とその先が出来ていいことが無いわけがない」
「……そ、そういうのははっきり言わなくていいの!」
「可愛いな」
「っ!?う、うるさいっ!」
「かーわいい。……"食べちゃいたいぐらい、可愛い"」
恥じらって、真っ赤になって、照れて。
そんな様子の咲夜が、フィルの一言で固まった。
「食ベチャイタイクライ、可愛イネ」
無表情になってボソリと復唱された言葉は、とても冷たく。
「サクヤ……?」
心配して、咲夜に触れようとしたフィルの手が、全力で叩かれる。
「や……めて。さわん、ないで……。助け……て、フィ……ル」
フィルは目の前にいるというのに、見えていない様子の咲夜。がたがたと身体を震わせ縮こまり、フィルを拒絶する。
しばらくして、どうすることも出来ずにただオロオロするフィルの目の前で咲夜がフッと意識を失った。
「……サクヤ」
「ん?」
「あの時、炎に焼かれる直前にサクヤ、俺に……」
と、皆まで言う前に咲夜がとんでもない速度でフィルの口を押さえつけにかかる。その頬は薄暗闇でも分かるほど、赤く染っていた。
「あ、あれはね、き、緊急……そう、緊急事態だったから!わ、私きっと気が動転してたんだよ、うん!」
「じゃ、サクヤはあの時いたのが俺じゃなくて丸だったとしても、気が動転してキスしたのか?」
「そ、それはない!フィルだから、だけと……」
口ごもりつつ、必死に言い訳を重ねる咲夜が可愛くて、ついついからかうのを止められないフィル。寝るために竜体になっていたのから人になって、わざと咲夜の瞳を覗き込む。
「俺だから、か。ならこれからも俺が好きな時に、サクヤにキスしていいか?」
「えっ、そ、それはダメ!」
「なんで?」
「は、恥ずかしいから……」
フィルが頬に手を当て、キスをする真似をしようとすると必死に腕をつっぱってイヤイヤをする咲夜。そんな反応ですら可愛くて仕方の無いフィル。
「そんなに俺とキスするのが嫌なのか?俺のこと、嫌いか?」
「き、嫌いじゃない!」
「ならいいだろ?」
「ダメっ!」
断固としてイエスと言わない咲夜に痺れを切らし、フィルがとっておきを取り出す。それはいつかフィルが咲夜に与えた竜心の、半分だった。
「フィル、それ何?」
「竜心。そのまま竜の心だ。ま、これは半分なんだがな」
「ふぅん……どうして半分なの?」
「もう半分はあげたからな」
「誰に?」
咲夜は貰ったことを知らないので、フィルが竜心の半分を誰かに渡してしまったことで少しムッとする。その気持ちが嫉妬だと気づいておらず、逆に勘づいているフィルは愉快そうである。
「サクヤ」
「え……?」
「あの時……サクヤ、氷水かぶって体が冷え切っててな。明らかに危ない状態だったから」
「じゃあ、もしかして、あの日以来妙に体力がついたのって、フィルのおかげ……?」
「あぁ。体力だけじゃない、魔力があるのもな」
そこまで聞いてやっといつかリィカから聞いた話と繋がって、理解した咲夜。その後に早く魔法が使えるようになりたいならすべきことをようやく悟って、顔を赤らめる。
「俺にもサクヤにもいい事ずくめだよな」
「フィルにいい事なんてないでしょ」
「あるさ。今まで手を繋ぐしかさせてもらえなかったんだぞ?好きな女とその先が出来ていいことが無いわけがない」
「……そ、そういうのははっきり言わなくていいの!」
「可愛いな」
「っ!?う、うるさいっ!」
「かーわいい。……"食べちゃいたいぐらい、可愛い"」
恥じらって、真っ赤になって、照れて。
そんな様子の咲夜が、フィルの一言で固まった。
「食ベチャイタイクライ、可愛イネ」
無表情になってボソリと復唱された言葉は、とても冷たく。
「サクヤ……?」
心配して、咲夜に触れようとしたフィルの手が、全力で叩かれる。
「や……めて。さわん、ないで……。助け……て、フィ……ル」
フィルは目の前にいるというのに、見えていない様子の咲夜。がたがたと身体を震わせ縮こまり、フィルを拒絶する。
しばらくして、どうすることも出来ずにただオロオロするフィルの目の前で咲夜がフッと意識を失った。
0
お気に入りに追加
210
あなたにおすすめの小説
この世界で唯一『スキル合成』の能力を持っていた件
なかの
ファンタジー
異世界に転生した僕。
そこで与えられたのは、この世界ただ一人だけが持つ、ユニークスキル『スキル合成 - シンセサイズ』だった。
このユニークスキルを武器にこの世界を無双していく。
【web累計100万PV突破!】
著/イラスト なかの

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~
saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。
前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。
国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。
自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。
幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。
自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。
前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。
※小説家になろう様でも公開しています

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
素材採取家の異世界旅行記
木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。
可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。
個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。
このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。
この度アルファポリスより書籍化致しました。
書籍化部分はレンタルしております。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

2回目チート人生、まじですか
ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆
ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで!
わっは!!!テンプレ!!!!
じゃない!!!!なんで〝また!?〟
実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。
その時はしっかり魔王退治?
しましたよ!!
でもね
辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!!
ということで2回目のチート人生。
勇者じゃなく自由に生きます?

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる