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本編
57.「ナゼルっていえば、ルルの9番目じゃねぇか?」
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「とまぁ堅い挨拶はこれくらいでいいでしょ」
巨大な猫をどこか遠くへ放り投げて、ペタンと直接床に座ったルル。いくら絨毯がふわふわでクッションの役割を果たせるかもしれないとはいえ、土足で踏まれている場所である。すぐに次女が飛んできて、
「どうしてそんな所に座るんですか、立ってください!」
「でも私の椅子、ほら、父様が座ってるし」
「別の椅子を直ぐにご用意いたしますからっ!」
その一言で別の次女が椅子をもって息を切らしながらやってくるあたり、突発的な事態に慣れている。しかし流石に客人の前では猫を被っているだろうと安心していたらしく、相当焦りが見える。
「っとに、ルルは野生児だよなぁ。誰に似たんだか」
「ベルに似たに決まってるのです。ボクはそこまで野生児じゃないのです」
「いやミドルだろ」
「ベルなのです」
などと終わりの見えない言い争いを始めてしまったベルゼブブとミドルを止めたのは、以外にもルルであった。因みに咲夜達は反応出来ず、というより反応する気が失せてしまって見守っている。
「そんなことより、リュカ達が事前連絡もほぼなしにわざわざ合わせ鏡を使って来た理由を聞かないと」
「んー?あー、そうだったな」
「もしかして、少し前にラフィリアで起きた人攫いの事件についてじゃないのです?」
答えのど真ん中を言い当てたミドルに、どうなのです?と聞かれ一瞬面食らったフィル。しかし咲夜にちょっと小突かれて我に返り、説明を始めた。
「あー、その人攫いの件についてであっています。元々1団の弱体化が狙いだったので、そこそこ腕の立つメンバーを捕えさせ、内側から鎮圧する予定だったのです」
「ただ、途中で乱入者が来たんです。たった一人で何百人を殺戮しました」
「そしたら、その乱入者がナゼルって名乗ったんだって。父に頼まれたらしいよ?」
フィルの説明を一とゆあが受け継ぐ。丁寧語を使わないあたりゆあらしいが、ベルゼブブは眉を寄せた。……もちろん、ナゼルという名前に反応したのである。
「ナゼルっていえば、ルルの9番目じゃねぇか?」
「あの子は1番甘やかされた上、魔王としての性分が殺したい衝動として出てた困った子なのです。ルルは仕事にかまけて子育てを父任せにしすぎなのです」
「ったく、次々面倒事持ち込みやがって……。竜王、奴の処分はどうすんだ?」
「首を差し出せ、って言うのが普通ですが」
「普通、ね。でもリュカはそれをしなかった。なんでそんなに冷静なのか知らないけど、あの子が殺した人の遺族は大丈夫なの?」
ルルのその意見は尤もである。ラフィリア国側の被害は前線を支えていたという騎士団のメンバー3人であり、 騎士団に入団する際に死と隣り合わせの戦場に行くことについて本人の覚悟は試されている。
しかしそれでも敵討ちをしたいのは当たり前である。その気持ちはフィルも理解しているし、できればそうしたい。
鴉団の方の被害は多大であるが、人攫いであるので人族側から煙たがられていた。なので国際問題になるどころか感謝された。
「殺してくれ、と言われている」
「うん、当たり前だよね。……でもリュカはあの子を殺さなかった。なんで?」
「正直、殺した方が賢明だったような気もするがナゼルの独断じゃないみたいだし、一旦逃しただけだ」
「うん?」
「ナゼルが父の命令だと言ったからな」
「私たちが敵に回るかもっておもったんだね?」
「あぁ」
「私、どことも戦争したくないから色々苦戦してるっていうのに……」
最終的にナゼルの処分をどうするか、フィルも決めかねている。ナゼルが父の命令だと言わなければその場で殺していただろうが、その場合国際問題になりサーリリアと戦争が始まっていただろう。
ほぼ確実に戦争が始まるのが目に見えているのにナゼルを送り込むほどルルは馬鹿でも、生半可な平和主義を掲げてもいない。だからわざわざ確認に来た。
子の責任は親が負う。その場合ルルとその夫が責任を負うことになるが、ナゼルに命令したという点からも負うのは確実に父のほうになるだろう。
「もし最終的にあの子を殺すことになったらすぐに差し出すよ。もしそれで足りないなら私もあいつの首もね。それで済むならラフィリアと戦争になるよりよっぽどまし」
「あぁ。しかしどのみちナゼルの処分は事が終結し次第だな。誰がどこまで関わっているか、それがはっきりしないことには何とも言えない」
「そう、だね。このあと遺族の人とは話をさせてもらっていい?」
「それは頼む。魔王が直接動くのは少し過剰かも知れないが、ルルとしてはきっちりしておきたいだろ?」
「うん。私が謝って済む話じゃないとは思うんだけどね」
そこまで話してから、ルルは息をついた。咲夜達は少し納得のいかないような表情であるが、平和と言っても日本とは全くレベルが違う。
「ナゼルの処分の話はそこまでにして、次に行くのです。ナゼルの父の事なのです」
「あいつか。ったく、勝手にやれとは言ったが俺らに迷惑かけんじゃねぇってのも言ったってのに」
ブツブツと不機嫌そうにそういうベルゼブブが愚痴っているのはルルの夫のことであろう。妻の前で言っていいのか、とつい思ってしまった咲夜の表情を読んだルルは重い空気を変えるように笑う。
「そんな顔しなくても大丈夫。私、あんなやつとうの昔に捨ててやったから」
巨大な猫をどこか遠くへ放り投げて、ペタンと直接床に座ったルル。いくら絨毯がふわふわでクッションの役割を果たせるかもしれないとはいえ、土足で踏まれている場所である。すぐに次女が飛んできて、
「どうしてそんな所に座るんですか、立ってください!」
「でも私の椅子、ほら、父様が座ってるし」
「別の椅子を直ぐにご用意いたしますからっ!」
その一言で別の次女が椅子をもって息を切らしながらやってくるあたり、突発的な事態に慣れている。しかし流石に客人の前では猫を被っているだろうと安心していたらしく、相当焦りが見える。
「っとに、ルルは野生児だよなぁ。誰に似たんだか」
「ベルに似たに決まってるのです。ボクはそこまで野生児じゃないのです」
「いやミドルだろ」
「ベルなのです」
などと終わりの見えない言い争いを始めてしまったベルゼブブとミドルを止めたのは、以外にもルルであった。因みに咲夜達は反応出来ず、というより反応する気が失せてしまって見守っている。
「そんなことより、リュカ達が事前連絡もほぼなしにわざわざ合わせ鏡を使って来た理由を聞かないと」
「んー?あー、そうだったな」
「もしかして、少し前にラフィリアで起きた人攫いの事件についてじゃないのです?」
答えのど真ん中を言い当てたミドルに、どうなのです?と聞かれ一瞬面食らったフィル。しかし咲夜にちょっと小突かれて我に返り、説明を始めた。
「あー、その人攫いの件についてであっています。元々1団の弱体化が狙いだったので、そこそこ腕の立つメンバーを捕えさせ、内側から鎮圧する予定だったのです」
「ただ、途中で乱入者が来たんです。たった一人で何百人を殺戮しました」
「そしたら、その乱入者がナゼルって名乗ったんだって。父に頼まれたらしいよ?」
フィルの説明を一とゆあが受け継ぐ。丁寧語を使わないあたりゆあらしいが、ベルゼブブは眉を寄せた。……もちろん、ナゼルという名前に反応したのである。
「ナゼルっていえば、ルルの9番目じゃねぇか?」
「あの子は1番甘やかされた上、魔王としての性分が殺したい衝動として出てた困った子なのです。ルルは仕事にかまけて子育てを父任せにしすぎなのです」
「ったく、次々面倒事持ち込みやがって……。竜王、奴の処分はどうすんだ?」
「首を差し出せ、って言うのが普通ですが」
「普通、ね。でもリュカはそれをしなかった。なんでそんなに冷静なのか知らないけど、あの子が殺した人の遺族は大丈夫なの?」
ルルのその意見は尤もである。ラフィリア国側の被害は前線を支えていたという騎士団のメンバー3人であり、 騎士団に入団する際に死と隣り合わせの戦場に行くことについて本人の覚悟は試されている。
しかしそれでも敵討ちをしたいのは当たり前である。その気持ちはフィルも理解しているし、できればそうしたい。
鴉団の方の被害は多大であるが、人攫いであるので人族側から煙たがられていた。なので国際問題になるどころか感謝された。
「殺してくれ、と言われている」
「うん、当たり前だよね。……でもリュカはあの子を殺さなかった。なんで?」
「正直、殺した方が賢明だったような気もするがナゼルの独断じゃないみたいだし、一旦逃しただけだ」
「うん?」
「ナゼルが父の命令だと言ったからな」
「私たちが敵に回るかもっておもったんだね?」
「あぁ」
「私、どことも戦争したくないから色々苦戦してるっていうのに……」
最終的にナゼルの処分をどうするか、フィルも決めかねている。ナゼルが父の命令だと言わなければその場で殺していただろうが、その場合国際問題になりサーリリアと戦争が始まっていただろう。
ほぼ確実に戦争が始まるのが目に見えているのにナゼルを送り込むほどルルは馬鹿でも、生半可な平和主義を掲げてもいない。だからわざわざ確認に来た。
子の責任は親が負う。その場合ルルとその夫が責任を負うことになるが、ナゼルに命令したという点からも負うのは確実に父のほうになるだろう。
「もし最終的にあの子を殺すことになったらすぐに差し出すよ。もしそれで足りないなら私もあいつの首もね。それで済むならラフィリアと戦争になるよりよっぽどまし」
「あぁ。しかしどのみちナゼルの処分は事が終結し次第だな。誰がどこまで関わっているか、それがはっきりしないことには何とも言えない」
「そう、だね。このあと遺族の人とは話をさせてもらっていい?」
「それは頼む。魔王が直接動くのは少し過剰かも知れないが、ルルとしてはきっちりしておきたいだろ?」
「うん。私が謝って済む話じゃないとは思うんだけどね」
そこまで話してから、ルルは息をついた。咲夜達は少し納得のいかないような表情であるが、平和と言っても日本とは全くレベルが違う。
「ナゼルの処分の話はそこまでにして、次に行くのです。ナゼルの父の事なのです」
「あいつか。ったく、勝手にやれとは言ったが俺らに迷惑かけんじゃねぇってのも言ったってのに」
ブツブツと不機嫌そうにそういうベルゼブブが愚痴っているのはルルの夫のことであろう。妻の前で言っていいのか、とつい思ってしまった咲夜の表情を読んだルルは重い空気を変えるように笑う。
「そんな顔しなくても大丈夫。私、あんなやつとうの昔に捨ててやったから」
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