竜王の番は大変です！

本編

51.「戦力として足りとらん……とは言わせへんで」

＊＊＊城内＊＊＊

「朔丸が誘拐された？」

「うん、そう。ゆあが連れ去られて、一が追ってるみたい」

「ほら、最近おるやろ？女性ばっかり攫う奴ら」

「奴らのアジトなら場所を押さえてありますぞ」

ゆあからメッセージが入って10分。リィカと共にフィルの執務室になだれ込んだ咲夜達は、必死に状況を説明していた。するとフィルの隣で書類整理をしていた人物が机の上に地図を広げる。

「海辺には二つあるな……。どっちかわかるか、じい？」

「こちらですな。海のそばですが崖の上で、近くに古びた倉庫がありましたぞ。波の音は聞こえませんでしたな」

「一応聞くがもう一方は？」

「その辺は最近大規模な建て替えがあって、大手商会が土地を更地にしたはずですぞ」

ラフィリア国内の地図に付けられた赤いバツ印。リサの考えていたとおり、ラフィリアに、竜人に手を出した時点で終わりだったのだ。今の今まで残っていられたのは最終決定をする竜王たるフィルが不在であったというだけ。

初めに妊婦や病人を狙った時点で番からの通報があり、女性で作られた騎士団員が内部派遣された。地図はその情報に基づいて制作されたものだ。

「よし、すぐに行く」

「はっ。魔法陣の準備を始めます！」

「フィル、まさかとは思うけど」

「ウチらを置いていこう、なんて考えとらんやろなぁ？ん？」

「サクヤ、リィカ。これは遊びじゃ……」

「私はゆあと他にも連れ去られた人達を助けるだけだから」

「戦力として足りとらん……とは言わせへんで」

刀を取り出し、出陣準備をするフィルに二人が詰め寄る。フィルとしては咲夜を危険地帯に連れて行きたくないし、何より死の戦場を見せたくない。日本が平和であったが故に。

しかしまぁ、真剣に訴える咲夜とリィカに対して強く出れるはずもなく。 

「……はぁ。危険なことはするなよ？」

「うん！」

「やたっ！」

にっこり笑ってフィルに礼を言う咲夜と、愛用しているサーベルの感触を確かめるリィカ。しかしそこでじいのストップがかかった。

「いけませんぞ。リィカ様はお残りになるのです」

「な、なんでや！」

「貴方こそ、机に書類が山積みでしょう」

「……ふぐ」

「さ、行きますぞ。リュカ様、シンカワ様、ご武運をお祈りしております」

ぺこりと一礼して、リィカをずるずる引きずって行ったじい。そして苦笑いする咲夜のもとに、向こうですべきことをレクチャーするメイドがやってきた。

転移魔法陣が完成するまで約10分。それは最強の味方であるフィルが、ゆあ達の元へやってくるまでの時間である。