竜王の番は大変です!

月桜姫

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本編

49.疑い

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視点:リサ(人攫いの軍団副長)

「今回の仕事は、とても重要なものだ」

人攫いという卑しい身分に身を堕としてはや十数年。聞いたこともない”お偉いさん"からの依頼に、ボスが小躍りするのをなんとも言えない気持ちで見る。

巨大な人攫い一団、からすの女副長リサ。10才になるかならないかの頃、親に無けなしの金で売られた。

それでもめげず、幼いながら当時の団長に迫った。そして団長がロリコンだったのが幸いして庇護下に置かれ、亡き後は人族にしては少しばかり秀でた剣の腕を買われて副長になった。

「……ラフィリアで竜人の女50人。それだけで100Gだ。もちろん受けるよな、リサ?」

「得体の知れないお貴族様から来る依頼なんてろくなもんがありゃしない。アタイは反対だね」

「でももう前金貰っちまったし」

「……はぁ。大体さ、アタイら人族が女とはいえ竜人に適うはずないだろ?」

本当に、この時ばかりは悪い予感がしていた。依頼主がアジトを出ていく所をチラリと見ただけだが、分かる。これは関わってはいけない、と。

「適うだろ。とにかくやってみるぞ!」

「「おうっ!」」

「アタイは降りるよ。……どうなっても知らないからな」

そんなやり取りがあったのが1ヶ月ほど前のこと。そして今日、約束の50人が揃った。不気味なほど上手く行き過ぎていることに誰も気が付かない。

「リサの姉貴、見張り交代をお願いします」

「あいよ」

見張りを引き継ぎ、倉庫内に団員が残っていないことを確認する。今夜、日が沈んだ後に依頼主がやってくる。それまでに女達を全員、なんとかして逃がしてやるつもりだ。

「……助けて」

ふと見ると、今日連れてこられた少女二人のうち一人がブレスレットに話しかけていた。おそらく、助けを呼んだのだろう。鍵束を持って近ずけば、気丈にもキッと睨んできた。

「今、助けを呼んだろう?」

「……っ!」 

「いや、警戒しなくていい。アタイは元からこの仕事に反対だったのさ。なのにあいつら、忠告も聞かず勝手に……。馬鹿どもが」

「狂言じゃ、許されないよ」

「そんな訳」

半分くらい愚痴になったが、少女はあくまで冷静だった。誰に助けを求めたにせよ、このからす団は助けに来た人達によって潰されるだろう。

「それに、貴方だってあの人攫いの仲間でしょ。1人で見張りを任されるなんてだいぶ地位高いんじゃない?」

「一応副長だけどこんなとこ、早く抜けちまいたいんだよ。あのウィルとか言う依頼主も、あれは関わっちゃいけないやつだ……」

「ウィル……?」

「あぁ。どこか人間味のない、貴族の格好をした不気味なやつだったね」

鍵を開けて、少女を出す。もう一人は眠っているらしい。そしてウィルという名を聞いて顔色が悪くなった少女は、ブレスレットをいじってもう一度連絡しようとする。しかしああいうのは使い捨てだ。

「……ゆあを出してくれて、ありがとう。ゆあは貴方が味方だって信じてみる。……だから、ウィルが来る前に何とかしないと」

「アタイも協力するよ。奴らが来るのは日が沈んでからだから、まだ時間は残ってる」

「そうだね。まずはほかの人達を逃がさないと」

手を出してはいけない依頼に手を出し、女副長の裏切りを買ったからす団。ウィルという人物が何を目的としているかは頭の悪いアタイにはさっぱりだけども、このからす団が今日で終わることだけは分かった。
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