竜王の番は大変です!

月桜姫

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本編

47.連れ去られたゆあとイト

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視点:一

「……ッ!」

「やっと起きた」

デコピンされて、急に目が覚めた。ガバりと起き上がろうとした所で、後頭部の痛みに顔を顰める。とりあえず俺にデコピンした奴は誰だ、と目の前にいる人物を凝視した。

「お前……キト、か?」

「あぁ。いや、自己紹介はいらない。イトを通してだいたい見てきたし」

「そう、なのか」

目の前にいる双子の片割れがキトだというのは直ぐにわかった。見た目云々もそうだが、何より纏っている雰囲気が全く違う。

「……ってそうだ、ゆあとイトは!?」

「見ての通り、連れ去られたよ。初心者を狙って最近出てる人攫いだと思う。イトやユアの武器はないが金銭は取られていない」

「キト、もちろん助けに……?」

「行くに決まってる。ただハジメ、お前ははっきり言って邪魔だよ」

「っ、あぁ分かってる。でも、連れてってくれ。大事な奴、なんだ」

キトにお荷物だと言われたが、食い下がる。そうすれば俺の何かを見極めるようにじっと目をのぞき込まれ、固まる。

「……わかった連れていく。俺の指示を聞くことが最低条件だけど」

「あぁ。キトの方が戦い慣れしてるだろうしな」

ならいい、そう言いつつ無造作に転がされたイトの杖を拾ったキト。イトと揃いの帽子だが、服装は軽いものだからてっきり剣士とかだとおもったのだが。

「魔法使いなのか?」

「イトには負けるよ」 

少し肩をすくめ、そう言ったキト。どういう事だ、と聞く前にキトが手にした杖で3回、トントントンと地面を小突いた。

その瞬間、杖に付けられた拳大の青い石がカッと光を放って赤い石へ。そして石の変化につられたように、杖が薙刀へと姿を変えた。

「俺の本職はこっち。そんなに強い相手じゃないと思うけど、ハジメが死んだらイトが悲しむから今回だけバフをかける」

「あ、あぁ」

薙刀の刃を向けてくるから、何をされるのかと少し身構える。しかしキトはただ一言魔法語を言っただけだった。そしてキトの手が淡く光り、何か温かいものに包まれるような感覚がした。

「移動速度アップのバフをかけた。ま、あんまり過信しないように」

「ありがとな、キト」

「いいさ。イト達は魔法で追うからついてこい」

武器が身長に合わない長モノなのは、どうしてだろうか。そんな疑問を抱いたが、イトにはない少し厳しめな雰囲気に自然と気が引き締まる。

「ついて行く、か」

「あぁ。だが俺は走れないからな、少し時間が……」

かかる、と続けようとしたんだろう。だが俺はそれを遮り、キトの前でしゃがんだ。キョトンとするキトに、乗れよ、と声をかける。

「いや、でも」

「いいから、乗れ。その方が速いだろ?」

「……。わかった」

しばらく考えた後に承諾したキト。怖々と乗ってきたのを、手を後ろに回して落ちないように固定。キトはとても軽かったが、その手に持つ薙刀が重かった。

「あの蝶が導いてくれる。なるべく急いでくれ」

「おう!」

しっかり返事をして、ふわふわと前方を飛ぶ紫の蝶を追いかける。キトのバフの効果はすごく、1人と薙刀1本を抱えていても、それこそ自転車以上の速度で特に苦もなく走れる。しかししんどいものはしんどいので、早く着くことを願った一だった。
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