竜王の番は大変です!

月桜姫

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本編

44.ゆあと一、初冒険に出る

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さて。イトの決心など露ほども知らないゆあと一はただ、イトが喜んでくれてほっとしていた。一は分かった、と言ったが実はそこまで自信があった訳では無いからだ。

「それじゃ、早速依頼を受けに行こ!」

「やっぱりあれだよな、スライムとかだよな!」

「いえ、最初はゴブリンですよ?昔はスライムだったりしたんですが、狩り尽くされてしまって今は絶滅危惧種になっています」

「oh……」

予想が外れてしょんぼりする一。けれどすぐにゴブリンもチュートリアルミッションの代表格だしな、とか何とか言って復活していた。ゆあがその隣でキラキラした目をイトに向けていたのは言わずもがな、だ。

そんなこんなで初めてのFランクの依頼、"ゴブリンを三体討伐"を受けるゆあ達。イトが効率を考えて一緒に薬草採取の依頼も受けていた。 

「ね、どこにゴブリンいるの?」

「正門をまっすぐ行った先にある白の森にいますよ。歩いて15分ぐらいです」

方角で言うと北にある白の森。D、E、Fランクの冒険者が集う、いわゆる初心者~中級者向けの魔物が住む森である。

東にはCランク帯の緑の森。西にはA、Bランク帯の青の森。南にはSランク帯の赤の森がそれぞれ広がっている。

森によって魔力の濃度が大きく違うため、跋扈する魔物の強さもまた然りだ。そして森の周りには強力な結界が張られており、赤と青の森に入るにはギルドの許可が必要。

森の区別をするのは簡単。それぞれの森の名前の由来である色がついた実がなる木があるのだ。りんごのような形状の果実が。

「わっ、白い実がいっぱい!」

森について早速、たわわになる実を見てゆあが目を輝かせる。そしてイトが制止の声をかける前に、1つもぎ取って齧り付いた。

とたん、口の中に広がる強烈な酸味とえぐみ。そしてほんの少しの、なけなしの甘味。香りも食感もりんごそのものだが、僅かに感じた甘味はいちごのもの。

「ホワップルは不味いんですよ……ものすごく」

「それもうちょっと早く……」

言って欲しかったな、というゆあの言葉はぎゃあぎゃあと騒ぐ声にかき消されてしまった。少しばかりムッとした表情になったゆあが声の方向を向いて、カチリと固まる。

緑色の皮フの、小柄な人型の何か。まばらに毛が生えた頭に、歪な形の尖った耳。どんよりと濁った目に豚のような鼻、身につけるボロ。そして荒削りの棍棒を手に手に、ぎゃあぎゃあ騒いでいる。 

「これが……ゴブリン」

「とりあえず2匹しかいませんし、練習台になって貰いましょう。僕が1匹ずつ分けるのでお二人でどうぞ」 

「おっけー!」

「了解」

二人の返事を聞くとイトは買ったばかりの杖を体の前で構え、短く一言だけ言った。その言葉は一般に魔法語と呼ばれ、スズランの翻訳機能を持ってしても意味はわからない。

それでも魔法の効果は目に見えた。2匹のゴブリンの間に一筋の風が吹く。その威力は素晴らしく、いとも簡単にゴブリンを巻き上げると、ゆあと一の5メートル程手前に落とした。 

「僕もサポートするので、二人とも頑張ってください!」

イトの声を聞きながら、今まで体験したことのない殺意というものを感じていたゆあと一。固まっていては殺られる、と怯えを打ち消してそれぞれ自分の武器をぐっと握った。
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