竜王の番は大変です!

月桜姫

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本編

41.ゆあと一、ギルドに行く

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「わぁっ!ここが、冒険者ギルド……!」

「デカイなぁ」

赤茶色のレンガ造りの建物を前に、ゆあと一は思わず足を止めて見入っていた。高さで言うと普通の二階建て一軒家と同じくらいだが、横幅がとてもある。

「丸君、入ろっ!」

「おう」

ぎぃっと少しきしみながらドアが開く。中に入った途端に人々の話し声やら何やらが飛び交う喧騒に包まれる。だいぶ広いし屋内だが、いかんせん人が多すぎて狭く感じられる。

入ってすぐ右手に依頼の掲示板がでーんとあって、そこに武装した人達が集まっている。左手には受付があって、依頼の受付や達成証明、ギルドカード発行等様々な事をしている。

奥は食事・休憩スペースになっていて、少し遅めの昼食をとる者もいれば酒を酌み交わしてはしゃぐモノ達もいる。喧騒の原因は主にここだった。

「こんにちは。ご要件はなんでしょう?」

「あ、冒険者に……」

「ギルド登録、並びにギルドカード発行ですね。……はい、ではこちらの用紙を記入の上、一番端にある赤い印のカウンターへどうぞ」

「は、はい。ありがとうございます」

わら半紙のような茶色がかった紙を2枚と羽根ペン、インク壺をテキパキと渡してくれた受付の人。お礼を言って脇によけた2人。

なんとか空き席を見つけて座り、早速紙に目を通す。本名、年齢、職業、属性、武器。項目は少なく、後ろ2つ以外はすぐに記入できる。

「本名は朔夏ゆあ、年齢はっと……。職業どうする?」

「学生でいいだろ。というか日本語で書いたが大丈夫かこれ……」

「たぶん大丈夫なんじゃない?言語変換の魔法とかありそう」

「確かに」

ゆあの予想は、的中した。赤い印の受付に行って紙を渡すと、受付嬢が書かれている言語が異国語なのを見るなり何やら水晶版を取り出す。記入済みの紙の上にそれをのせ、その上に無記入の紙をのせる。

そうすれば水晶版が淡く青に輝き、光がなくなると見慣れない文字で無記入だった紙に文字が浮かんでいた。

今更ではあるが、スズランのおかげで咲夜達はこの世界の人達と普通に話し、文字を読むことができている。本人達は全く気づいていないが。

「ユアさん、ですね」

「はい」

「では血を1滴、こちらのカードに垂らしてください」

受付嬢が別な水晶版を取り出し、紙の上に載せる。その後でで差し出された針を少し驚いてみたゆあは、全く迷わず人差し指に刺す。たちまち小さな傷から赤い血が珠になって溢れて、1滴滴った。

「ありがとうございます。……、、、」

何かよく分からない言語で言った受付嬢の手が淡く緑の光に包まれ、ゆあの指にある小さな傷を一瞬で癒した。

魔法だ、魔法だ!と目をキラキラさせて見入るゆあの手元で、一滴の血が水晶版全体に広がって文字を描き出す。

「……完了。どうぞ、ギルドカードです。初めの手数料は20Cになります。お持ちでない場合は後付も可能ですがいかがいたしますか?」

「持ってる、これ……かな?」

「はい、ありがとうございます。紛失の際、再発行には料金5Sかかりますので、くれぐれも紛失にはお気をつけ下さい」

説明を終えてから手渡されたギルドカード。透明な水晶版だったそれは、受付嬢の完了の一言で乳白色に黒で字が刻まれたデザインへと変わっている。

「ふぁぁぁっ!すごい……っ!」

「……。お連れ様でしょうか?それでは同様にお願いいたします」

「あ、はい」

クレジットカードサイズの自分のカードを手にしてくるくるぴょんぴょん、全身で嬉しさを表現するゆあを受付嬢が優しい目で見守る。けれどすぐに我に返り、一のカード作りに取り掛かった。

5分後、受付嬢に一のカード代金20Cを支払った2人。ゆあも一も自分のカードをほくほく顔で眺めていたのだった。
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