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本編
38.ゆあの昔話
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視点:ゆあ
『(あー、キレちゃった)』
丸君と一緒に安全なところに避難してから、そんなことを思った。あんなにキレた咲夜をみたのは、いつぶりだろう。
確かあれは、中二のとき。今でこそのらりくらりとかわすことができるが、当時はそんなこと出来なくて。おどおどしていたのがいじめっ子の目に止まったんだと思う。
半年たって、些細なイタズラはエスカレートした。中一から仲良くしていた唯一の友達咲夜には隠し通していたが、それすらできないレベルに達してしまった。
~~~~~
「……がはっ」
「おいおい、へばんじゃねぇよ」
「やめ、……っぐ」
最近はずっとこんな調子。放課後の教室に閉じ込められて、男子数人が寄ってたかって暴力を奮う日々。
致命的な馬鹿じゃないのか、殴るのも蹴るのも痕が見えないお腹辺り。投げ出された鞄を1人が漁っているが、こんなこと日常茶飯事と化していて。
もう抵抗する気力すらなく、ただはやく終わることだけを願っていた。でも、今日はいつもとは違って。ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべたそいつらがポケットから出したのは小さなナイフ。
「ナイフで人を切るってどんな気分だろうな?」
「……っ!?」
「いい顔だ、朔夏」
どうしてこんな目に遭うんだろう、とどこがぼんやりした頭で考えながら無感情にナイフを見つめる。しかしその冷たい刃が、肌に触れるその瞬間。
「ゆあー?」
放課後の教室。誰もいないはずなのに、咲夜はわざわざ探しに来てくれたのだ。そしてドアを開け、動きを止めて息を殺していた男子3人を見て。咲夜は、笑った。それはもう綺麗な笑顔だった。
「な、なぁ神川。この事は内密に……」
咲夜の笑顔を見て安心したのか、ナイフをしまいながら立ち上がって咲夜に近づく男子。対して咲夜は笑みを崩さず、しかしいつもより数トーン低い声で言った。
「私の親友に、何したの」
「へっ?」
そんな、間抜けな声が聞こえた直後。その男子の腹に咲夜の拳が刺さっていた。男子は鈍い音を立てて床に倒れ、痛い痛いと涙を滲ませた。
「ってーな!何すんだよ!」
「何って……もちろん、いじめっ子への制裁」
そこでやっと気がついた。咲夜の笑顔が、とても冷たいことに。そしてその、冷たい怒りが宿る瞳が男子達を捉えていることに。
「お、おい。とりあえず神川を抑え……っぐぁ!」
「__っ!?」
「消えて」
逃げろ、などと言いつつ咲夜に殴られた痛みに顔をしかめながら走り去っていく男子達。それを冷たい無表情で見送ってから、咲夜は泣きそうな顔になってゆあの頬に手を触れた。
「ゆあ、ゆあ。……大丈夫?」
「うん。ゆあは、大丈夫だよ」
ちゃんと座り直して、安心してもらおうと笑んだら咲夜の顔がくしゃりと歪んでぽろぽろ涙を零しはじめた。だからびっくりして、思わず咲夜を抱きしめて背をさする。
それから何度も「大丈夫?」「大丈夫」を繰り返し、咲夜が落ち着くのを待った。ゆあが今まで堪えていた涙を全部咲夜が流してくれた気がして、何故かとても気が晴れていた。
~~~~~
『(本当、あれでよく男性恐怖症にならなかったよなぁ)』
理由にはゆあより咲夜の方がショックを受けていたっていうのがあると思う。咲夜は自分が心を許す人に対してとても敏感だから。
……そう、だから。一年後あの男子達に、彼氏に裏切られて。そんなことがあって、咲夜の心は深く傷付いた。
もう二度と咲夜の身にあんなことが起こらないように。咲夜がリュカに心を許すまではまだ時間がかかると思う。その後で、”万が一”が起きちゃいけないから。
「リュカ、絶対に咲夜を裏切らないでね。咲夜は昔、人に裏切られた。そして人を自分のテリトリーに近ずけなくなったんだよ。詳しいことは本人から聞いて。……でも、これ以上咲夜を傷付けないように。ね?」
「あぁ」
先程、怒る咲夜の瞳には少なからず恐れの色が見えた。リィカが認めてくれないのではないか、リュカを盗られるのではないかという恐れ。
今回はリィカな仕掛けたことで、咲夜も少なからず理解してたからいいけれど。次はどうなるか分からない……。
穏やかにリィカと話す咲夜を見ながら、そんなことを考える。願わくば、咲夜にこれ以上の災難が訪れませんように。
『(あー、キレちゃった)』
丸君と一緒に安全なところに避難してから、そんなことを思った。あんなにキレた咲夜をみたのは、いつぶりだろう。
確かあれは、中二のとき。今でこそのらりくらりとかわすことができるが、当時はそんなこと出来なくて。おどおどしていたのがいじめっ子の目に止まったんだと思う。
半年たって、些細なイタズラはエスカレートした。中一から仲良くしていた唯一の友達咲夜には隠し通していたが、それすらできないレベルに達してしまった。
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「……がはっ」
「おいおい、へばんじゃねぇよ」
「やめ、……っぐ」
最近はずっとこんな調子。放課後の教室に閉じ込められて、男子数人が寄ってたかって暴力を奮う日々。
致命的な馬鹿じゃないのか、殴るのも蹴るのも痕が見えないお腹辺り。投げ出された鞄を1人が漁っているが、こんなこと日常茶飯事と化していて。
もう抵抗する気力すらなく、ただはやく終わることだけを願っていた。でも、今日はいつもとは違って。ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべたそいつらがポケットから出したのは小さなナイフ。
「ナイフで人を切るってどんな気分だろうな?」
「……っ!?」
「いい顔だ、朔夏」
どうしてこんな目に遭うんだろう、とどこがぼんやりした頭で考えながら無感情にナイフを見つめる。しかしその冷たい刃が、肌に触れるその瞬間。
「ゆあー?」
放課後の教室。誰もいないはずなのに、咲夜はわざわざ探しに来てくれたのだ。そしてドアを開け、動きを止めて息を殺していた男子3人を見て。咲夜は、笑った。それはもう綺麗な笑顔だった。
「な、なぁ神川。この事は内密に……」
咲夜の笑顔を見て安心したのか、ナイフをしまいながら立ち上がって咲夜に近づく男子。対して咲夜は笑みを崩さず、しかしいつもより数トーン低い声で言った。
「私の親友に、何したの」
「へっ?」
そんな、間抜けな声が聞こえた直後。その男子の腹に咲夜の拳が刺さっていた。男子は鈍い音を立てて床に倒れ、痛い痛いと涙を滲ませた。
「ってーな!何すんだよ!」
「何って……もちろん、いじめっ子への制裁」
そこでやっと気がついた。咲夜の笑顔が、とても冷たいことに。そしてその、冷たい怒りが宿る瞳が男子達を捉えていることに。
「お、おい。とりあえず神川を抑え……っぐぁ!」
「__っ!?」
「消えて」
逃げろ、などと言いつつ咲夜に殴られた痛みに顔をしかめながら走り去っていく男子達。それを冷たい無表情で見送ってから、咲夜は泣きそうな顔になってゆあの頬に手を触れた。
「ゆあ、ゆあ。……大丈夫?」
「うん。ゆあは、大丈夫だよ」
ちゃんと座り直して、安心してもらおうと笑んだら咲夜の顔がくしゃりと歪んでぽろぽろ涙を零しはじめた。だからびっくりして、思わず咲夜を抱きしめて背をさする。
それから何度も「大丈夫?」「大丈夫」を繰り返し、咲夜が落ち着くのを待った。ゆあが今まで堪えていた涙を全部咲夜が流してくれた気がして、何故かとても気が晴れていた。
~~~~~
『(本当、あれでよく男性恐怖症にならなかったよなぁ)』
理由にはゆあより咲夜の方がショックを受けていたっていうのがあると思う。咲夜は自分が心を許す人に対してとても敏感だから。
……そう、だから。一年後あの男子達に、彼氏に裏切られて。そんなことがあって、咲夜の心は深く傷付いた。
もう二度と咲夜の身にあんなことが起こらないように。咲夜がリュカに心を許すまではまだ時間がかかると思う。その後で、”万が一”が起きちゃいけないから。
「リュカ、絶対に咲夜を裏切らないでね。咲夜は昔、人に裏切られた。そして人を自分のテリトリーに近ずけなくなったんだよ。詳しいことは本人から聞いて。……でも、これ以上咲夜を傷付けないように。ね?」
「あぁ」
先程、怒る咲夜の瞳には少なからず恐れの色が見えた。リィカが認めてくれないのではないか、リュカを盗られるのではないかという恐れ。
今回はリィカな仕掛けたことで、咲夜も少なからず理解してたからいいけれど。次はどうなるか分からない……。
穏やかにリィカと話す咲夜を見ながら、そんなことを考える。願わくば、咲夜にこれ以上の災難が訪れませんように。
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