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本編
37.場内見学〜休憩エリア〜#2
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視点:フィル
一瞬、俺の耳が壊れたかと思った。咲夜はあくまでにっこりと笑っている。けれど、オーラが怖い。今まで相手したどんな強敵よりも怖い。死のイメージすらわくほどに。
「サ、クヤ……?」
「黙っててくれないかな」
「ハイ……」
怖い。サクヤが、ブチ切れている。多分、いや十中八九俺とリィカのせいだ。元々リィカは俺にひっつきすぎるきらいがあったが、今までそれを強く咎めたことは無かった。リィカがいれば下手な女達が近寄ってこなかったから。
「(つまり、リィカにとってサクヤもその女達と同等って事か……?)」
「なんよ急に怒って」
「別に怒ってないけど?……ただちょっと機嫌が悪いだけ」
俺は今日死ぬんだろうか。にっこり笑顔のまま言うサクヤの顔をまともに見れない。背筋がゾワゾワするなんていう甘い次元じゃない。
自分が氷の彫刻になったかのように身体が寒く、動かない。それが体調不良などではないことぐらい分かる。それなのにどうしてリィカは平気なのだろうか?
「怒っとるやん」
「そうだね、もしかしたら少し怒ってるかもしれない」
「やっぱ?怒らせたなら謝るわ」
「別に謝罪なんていらないんだけど」
リィカの言葉を冷たく突っぱねたサクヤ。少し顔色が悪いがまだまだサクヤに対して余裕のある舐めた態度をとるリィカが、心配だ。
「なんやよぉわからんなぁ。さっきまで黙り決め込んどったのにいきなり怒りだしてさ。あんたみたいな不安定な女にリュカにぃはあげれへんな」
「私は貴方みたいにお子様じゃないから我慢してたんだよ。で、そんなに”リュカにぃ”が大事ならモノ扱いするのやめたら?」
「何のことや、さっぱりわからんなぁ。リュカにぃはウチのもんやで?」
「違うよ。フィルはフィルだし、フィルの番は私だから」
食事の手を止めて、静かに話す2人の間に火花が散っているように見えるのは俺だけだろうか。いつの間にか辺りは静まり返り、誰一人としてこちらを向かず黙々と食事をしている。
「ふぅん。随分自信、あるんやな?」
「もちろん」
顎を引いて下から睨みつける形で問うリィカに全く引けを取らず、サクヤは見下す形で即答してみせた。
当事者であるはずの俺が何も出来ず硬直している間にも時間は流れ2人は睨み合いを続ける。けれどそこに言葉はなく、ただお互いを牽制し合っているような気がする。
「……あぁもうええわ。ウチと睨み合って折れへんかった奴なんておらんかったんやけどなぁ」
「まぁちょっと手強かったかも」
「やろ?」
緊張の数分が過ぎ、先に折れたのはリィカだった。腕組を解き、椅子の背もたれにもたれる。サクヤが肩の力を抜いたのも、同時だった。
そして一瞬で変わった空気に俺はついていけない。リィカとサクヤは何やらお互いに分かりあった……というより認めあったらしいが、何が何だかさっぱり分からない。
「明らかに私を試してるっていうのは分かったけど、ブラコンも程々にしてね?」
「もちろんや!元々リュカにぃを変な奴から守ってただけやもん。あんたみたいな良い奴が来たらウチはもう用済みや」
「そうだったらいいけど……。それと、あんたってやめてよね」
「ん?あぁそうやな。……ほな改めて。これからよろしゅう、サクヤ!」
「よろしくね、リィカ!」
先程までの険悪ムードはどこへやら、今度こそ本物の笑顔を見せるサクヤとつられてケラケラ笑うリィカ。
朔丸はそう来たか、と頭を振り振りこちらに近ずいてくるし、周りも喧騒を取り戻す。誰も何も説明してくれないし察する事も出来ず、俺一人だけが疑問符を浮かべてその場でまだ固まっていた。
しかし問い詰めるのも億劫なので、不本意ではあるがここは丸く納まってよかったと無理矢理納得しておくことにした。
『(全く、怖がって損したな……)』
一瞬、俺の耳が壊れたかと思った。咲夜はあくまでにっこりと笑っている。けれど、オーラが怖い。今まで相手したどんな強敵よりも怖い。死のイメージすらわくほどに。
「サ、クヤ……?」
「黙っててくれないかな」
「ハイ……」
怖い。サクヤが、ブチ切れている。多分、いや十中八九俺とリィカのせいだ。元々リィカは俺にひっつきすぎるきらいがあったが、今までそれを強く咎めたことは無かった。リィカがいれば下手な女達が近寄ってこなかったから。
「(つまり、リィカにとってサクヤもその女達と同等って事か……?)」
「なんよ急に怒って」
「別に怒ってないけど?……ただちょっと機嫌が悪いだけ」
俺は今日死ぬんだろうか。にっこり笑顔のまま言うサクヤの顔をまともに見れない。背筋がゾワゾワするなんていう甘い次元じゃない。
自分が氷の彫刻になったかのように身体が寒く、動かない。それが体調不良などではないことぐらい分かる。それなのにどうしてリィカは平気なのだろうか?
「怒っとるやん」
「そうだね、もしかしたら少し怒ってるかもしれない」
「やっぱ?怒らせたなら謝るわ」
「別に謝罪なんていらないんだけど」
リィカの言葉を冷たく突っぱねたサクヤ。少し顔色が悪いがまだまだサクヤに対して余裕のある舐めた態度をとるリィカが、心配だ。
「なんやよぉわからんなぁ。さっきまで黙り決め込んどったのにいきなり怒りだしてさ。あんたみたいな不安定な女にリュカにぃはあげれへんな」
「私は貴方みたいにお子様じゃないから我慢してたんだよ。で、そんなに”リュカにぃ”が大事ならモノ扱いするのやめたら?」
「何のことや、さっぱりわからんなぁ。リュカにぃはウチのもんやで?」
「違うよ。フィルはフィルだし、フィルの番は私だから」
食事の手を止めて、静かに話す2人の間に火花が散っているように見えるのは俺だけだろうか。いつの間にか辺りは静まり返り、誰一人としてこちらを向かず黙々と食事をしている。
「ふぅん。随分自信、あるんやな?」
「もちろん」
顎を引いて下から睨みつける形で問うリィカに全く引けを取らず、サクヤは見下す形で即答してみせた。
当事者であるはずの俺が何も出来ず硬直している間にも時間は流れ2人は睨み合いを続ける。けれどそこに言葉はなく、ただお互いを牽制し合っているような気がする。
「……あぁもうええわ。ウチと睨み合って折れへんかった奴なんておらんかったんやけどなぁ」
「まぁちょっと手強かったかも」
「やろ?」
緊張の数分が過ぎ、先に折れたのはリィカだった。腕組を解き、椅子の背もたれにもたれる。サクヤが肩の力を抜いたのも、同時だった。
そして一瞬で変わった空気に俺はついていけない。リィカとサクヤは何やらお互いに分かりあった……というより認めあったらしいが、何が何だかさっぱり分からない。
「明らかに私を試してるっていうのは分かったけど、ブラコンも程々にしてね?」
「もちろんや!元々リュカにぃを変な奴から守ってただけやもん。あんたみたいな良い奴が来たらウチはもう用済みや」
「そうだったらいいけど……。それと、あんたってやめてよね」
「ん?あぁそうやな。……ほな改めて。これからよろしゅう、サクヤ!」
「よろしくね、リィカ!」
先程までの険悪ムードはどこへやら、今度こそ本物の笑顔を見せるサクヤとつられてケラケラ笑うリィカ。
朔丸はそう来たか、と頭を振り振りこちらに近ずいてくるし、周りも喧騒を取り戻す。誰も何も説明してくれないし察する事も出来ず、俺一人だけが疑問符を浮かべてその場でまだ固まっていた。
しかし問い詰めるのも億劫なので、不本意ではあるがここは丸く納まってよかったと無理矢理納得しておくことにした。
『(全く、怖がって損したな……)』
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