竜王の番は大変です!

月桜姫

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本編

27.そろそろ……

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「でだ、サクヤ。そろそろこっちで暮らすのも厳しくなってきたから向こうへ行きたいんだが」

「うんそうだね」

レポートから目をあげないまま即答されて面食らったのはフィルの方。何せ今まで何度言っても大学が終わるまで、の一点張りだったのだ。

「ほ、ほんとか?」

「うん。周りの目を気にするの、疲れちゃったし。それに年に一度は戻って来れるんでしょ?」

「え、あぁ。でも……本当に?」

「何よ、フィルから言い出したんじゃない。もう2年だし、この機会に、ね。それにフィル、ウィルのこと追っかけたいでしょ?」

そう言ってレポートから目を上げた咲夜にどうなの、と目で聞かれてひとつ頷くフィル。城の方に連絡を入れて調べさせてはいるが、やはり心配なのだ。

「ちなみに言うとね、ゆあと一にも了承を得てるんだよ。そしたら2人もついてくるって言って聞かないの」

「丸朔が?でも大学を出ないと職がないって言ってたじゃねぇか」

「だから向こうで仕事頂戴ねって極上の笑顔で言ってたよ」

「(要するに職くれなかったらわかってるよな?ってことか。その場にいなくてよかった……)」

フィルがわりと本気でそう思った時、不意にチャイムが鳴った。そそくさと立ち上がった咲夜がインターホンを覗くと、そこには笑顔のゆあと一。

「やっほー、来たよ!」

「うん!とりあえず入ってー」

「おっじゃましまぁす!」

「お邪魔します」

咲夜をしんがりにリビングへと入ってきた2人を見たフィルはその大荷物をまじまじと見つめる。それからギギギッと音がしそうな固さで咲夜を振り返り、疑問を口にした。

「もしかして……今から?」

「うん。だってフィル、いつでもって言ってたし」

「まさか……嘘ついたの、リュカ!?」

「嘘じゃねぇよ!でもその……本当に?」

「何回聞くの」

苦笑気味な咲夜に、珍しく弱気なフィル。少し心配そうではあるが後悔はない一と、楽しくて楽しくて仕方がないといった様子のゆあ。

「あとで言われても俺は知らねーぞ?」

「うん」

「あぁ」

「勿論」

「……ったく」

呆れたように呟いてから、フィルは不思議な石を取り出す。曇りひとつない、綺麗だがただの水晶。その表面に全く何も写していないのを除けば。

「向こうについて俺がいいと言うまで絶対に手を離すな。今から通るのは空間の間、つまり手が離れたら……分かるな?」 

「う、うん」

「とりあえず手を離さない限り大丈夫だから」

A 4の紙に石で何かを書いていたフィルがその手を止め、リビングの中心で紙を掲げ持った。それから発したのは咲夜達が知らない竜人の言葉。

「俺が先頭で1列に並ぶ。しんがりは丸だ」

「おう。……っと荷物は?」

「それは先に運ぶ」

そう言って悪魔を入れたのと同じ空間を開き、無造作に荷物を放り込んでゆく。そうこうしているうちに、ずっと宙に浮いていた神に白く発光する魔法陣が浮かび上がった。

そして、突然そこを中心に空間が縦に裂けた。ぱっくりと口を開ける、人が絶対に見ないはずの空間の裂け目。その先に見えるのは白い虚無。

「いいか、絶対に手を離すなよ」

再三そういったフィルの言葉に重々しく頷き、しっかりと手を握る3人。そのまま無言で虚無の空間に足を踏み入れ、しんがりの一の後ろで入口が閉じた瞬間。

咲夜とフィルの繋がれた手に、雷が落ちた。
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