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本編
26.ゆあの好きな人
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視点:一
リュカが署に連れていかれる騒動からもうだいぶ時間が過ぎた。大学一年目が終わり、春休み中でレポートに追われているのだが。何故か俺はゆあの家へ招かれ、4人のお泊まり会を強制されていた。
あの1件でリュカは大学を辞め、竜体になって咲夜についてまわっている。咲夜は周囲におもちゃだの、ぬいぐるみだのと苦しい言い訳を重ねていた。
「(ま、竜は本物でリュカなんじゃないかって皆感づきつつ黙ってるんだけどな)」
「あ、丸君。冷蔵庫に入ってるサイダーと、棚から適当なスナック出してきてくれないかな?」
「あぁ」
ちびちびと飲んでいた酎ハイの缶を机に置き、立ち上がる。リュカは竜体になって咲夜の膝の上で丸まり、とっくの昔に寝入っている。おかげで俺は一人ぼっち、というか2人の会話に入るに入れない。
「(もう女子会の雰囲気だしなぁ……正直居心地わるいな)」
それならばと酒で酔ってしまおうとしたのだが、いかんせん俺は酒に強い。わりとアルコール高めの酎ハイを選んできたが、全くと言っていいほど酔えない。
そんな事を考えながら開けた冷蔵庫の中には今時珍しい瓶ラムネが4本。そのうち3本を引っ張り出し、閉める。棚の中には"やめられない止まらない"がキャッチフレーズのスナック菓子が2袋。
「おーい持ってきた、ぞ……」
「で、どうなの?ゆあは誰が好きなの?」
部屋内から聞こえた咲夜の声に、思わずドアノブから手を離してしまった。ちょっと、いやだいぶ今のタイミングで入るのは危ないだろう。
「誰って、うーん、しいていうならガブ、かな」
「えー、意外。ゆあならルシの方だと思ってた」
「本音言っちゃうと、ルシの方が顔は好み!でも……ほら、ガブの性格って似てるでしょ、あいつに」
どんどん先細りになっていくゆあの声が聞きたくて、ドアに耳をつける。誰を比べているのかは知らないが、わりともやもやするし……?
「あいつって?」
「咲夜、絶対分かってる。意地悪」
「さぁ早く!一が戻ってくる前に吐きなよー」
それとも……。ごにょごにょと最小の声でゆあに何かを言う咲夜の声が、聞こえない。
でも少ししてゆあがうー……と唸ってから承諾したのを聞く限り、何か脅しの言葉だったのだろう。のらりくらりと躱すのが上手いゆあを追い詰めるもの……?
「もー本当、咲夜にはかなわないや。……そうだよ、ゆあがガブ推しなのは性格があいつにそっくりだからだよ!―――に!」
半分ヤケになったゆあの口から紡がれる言葉を、俺は聞けなかった。夜中にも関わらず突然入ったメッセージアプリの通知音。そしてそれに驚いて取り落とした瓶ラムネが床に転がる音によって。
「どうしたの、一。大丈夫?すごい音したけど」
「大丈夫……瓶も割れてないし」
慌てて飛び出してきた咲夜の前で幸い割れなかった瓶ラムネを拾って笑う。邪魔が入ったせいであいつ、が誰か聞けなかったがもういいか。
だって部屋に入ってちらりとゆあと見てパチリと目が合うその瞬間、ゆるゆるのんびりだけど冷静沈着なゆあが一瞬で真っ赤になったから。自惚れかもしれないが、あいつが誰だか分かった気がする。
「(いやぁ、このお泊まり会来てよかったな)」
ご機嫌な一であった。
リュカが署に連れていかれる騒動からもうだいぶ時間が過ぎた。大学一年目が終わり、春休み中でレポートに追われているのだが。何故か俺はゆあの家へ招かれ、4人のお泊まり会を強制されていた。
あの1件でリュカは大学を辞め、竜体になって咲夜についてまわっている。咲夜は周囲におもちゃだの、ぬいぐるみだのと苦しい言い訳を重ねていた。
「(ま、竜は本物でリュカなんじゃないかって皆感づきつつ黙ってるんだけどな)」
「あ、丸君。冷蔵庫に入ってるサイダーと、棚から適当なスナック出してきてくれないかな?」
「あぁ」
ちびちびと飲んでいた酎ハイの缶を机に置き、立ち上がる。リュカは竜体になって咲夜の膝の上で丸まり、とっくの昔に寝入っている。おかげで俺は一人ぼっち、というか2人の会話に入るに入れない。
「(もう女子会の雰囲気だしなぁ……正直居心地わるいな)」
それならばと酒で酔ってしまおうとしたのだが、いかんせん俺は酒に強い。わりとアルコール高めの酎ハイを選んできたが、全くと言っていいほど酔えない。
そんな事を考えながら開けた冷蔵庫の中には今時珍しい瓶ラムネが4本。そのうち3本を引っ張り出し、閉める。棚の中には"やめられない止まらない"がキャッチフレーズのスナック菓子が2袋。
「おーい持ってきた、ぞ……」
「で、どうなの?ゆあは誰が好きなの?」
部屋内から聞こえた咲夜の声に、思わずドアノブから手を離してしまった。ちょっと、いやだいぶ今のタイミングで入るのは危ないだろう。
「誰って、うーん、しいていうならガブ、かな」
「えー、意外。ゆあならルシの方だと思ってた」
「本音言っちゃうと、ルシの方が顔は好み!でも……ほら、ガブの性格って似てるでしょ、あいつに」
どんどん先細りになっていくゆあの声が聞きたくて、ドアに耳をつける。誰を比べているのかは知らないが、わりともやもやするし……?
「あいつって?」
「咲夜、絶対分かってる。意地悪」
「さぁ早く!一が戻ってくる前に吐きなよー」
それとも……。ごにょごにょと最小の声でゆあに何かを言う咲夜の声が、聞こえない。
でも少ししてゆあがうー……と唸ってから承諾したのを聞く限り、何か脅しの言葉だったのだろう。のらりくらりと躱すのが上手いゆあを追い詰めるもの……?
「もー本当、咲夜にはかなわないや。……そうだよ、ゆあがガブ推しなのは性格があいつにそっくりだからだよ!―――に!」
半分ヤケになったゆあの口から紡がれる言葉を、俺は聞けなかった。夜中にも関わらず突然入ったメッセージアプリの通知音。そしてそれに驚いて取り落とした瓶ラムネが床に転がる音によって。
「どうしたの、一。大丈夫?すごい音したけど」
「大丈夫……瓶も割れてないし」
慌てて飛び出してきた咲夜の前で幸い割れなかった瓶ラムネを拾って笑う。邪魔が入ったせいであいつ、が誰か聞けなかったがもういいか。
だって部屋に入ってちらりとゆあと見てパチリと目が合うその瞬間、ゆるゆるのんびりだけど冷静沈着なゆあが一瞬で真っ赤になったから。自惚れかもしれないが、あいつが誰だか分かった気がする。
「(いやぁ、このお泊まり会来てよかったな)」
ご機嫌な一であった。
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