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本編
25.フィルの異変
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ゆあと一が相談をした日の早朝。
「しょ、署長!ヤバいですよ、リュカ君!」
「どうした、そんなにあわてて」
「そ、それが!」
一昨日気絶するまでは乱暴な言葉遣いだったフィル。すでに気を失ってから42時間程たとうとしているのだが、つい先程意識を取り戻したフィルの様子はおかしい。
「ずっと宙を見つめていて、虚ろなんです」
「麻薬を摂取しなくなったからだろう」
「それと、腕や足に炎症のようなものが……」
炎症と聞いて興味を持ったのか、署長がフィルの元へ足を運ぶ。当のフィルは意識が朦朧としているため体内の魔力循環を上手くおこなえておらず、その皮膚にはうっすらと鱗が見える。
「もう少し様子を見るか」
「し、しかし!」
フィルをチラリと見ただけでそれ以上の興味を失ったらしい署長と、そのことに不安そうにする青年。色々と"見ル"ことができる彼は、フィルになにかただならぬものを感じていた。
青年がそっとため息をついた、その時。警察署の受付から、大声が聞こえてきた。
「だーかーら!リュカを出しなさいって!」
「これは貴方達のためでもあるんですよ。咲夜を、彼の元へ」
そんなゆあと一の声を聞いて、ぱっと振り返った青年。その目の前で、フィルが咲夜の名前に反応して顔を上げる。
「もういい!そんな事言うんならこっちにだって策はあるんだから!」
「咲夜。呼んでみな?」
「……フィ、ル」
そのか細い声は、青年には届かなかった。しかし、フィルには鮮明に聞こえた。
バキッ!という破壊音に青年が飛び上がると、すでにフィルは立っていて。最短で出るルートはどれだろうか、と壁を壊して突き進んで行きそうな勢い。
「こっちおいで」
「……」
首を傾げるフィルを見て、青年が楽しそうに笑った。けれどすぐに破顔させて叫びながら走り出す。その後方を、フィルがついていった。
「署長ー!リュカ君が!」
パパっとロックを解除し、ゆあの対応に困っている署長の元へ駆け込んだ青年。そしてその横をありえないスピードで通り過ぎて咲夜の腕に飛び込んだ、フィル。
「サクヤっ!」
「フィ、ル……?あ、あぁ、フィル!ごめん、ごめんね、何で私……」
「あぁ、よかった。いつもの2人だ」
「うんうん。やっぱりこうでないと、ね」
ぎゅうっと抱き合ってお互いを離さないフィルと咲夜を見て、署長が硬直している。
「フィル、もう私、言わないから。もうフィルを"人"のルールに縛ったりしないから。ごめんね、ごめんね……」
「お、おい!お前、脱走だ……」
「黙れ豚ジジイ。サクヤにたった今言われたからなぁ?俺はテメェら人ごときに裁かれるほど堕ちゃいねぇよ」
怒りを瞳に写したフィルがそう切り捨てると同時、あやつり人形の糸が切れたように署長が床に転がる。そして周りの人々も同じように倒れてゆく。
それを不思議そうに見ていた青年が我に返り、とりあえず息を確認。
「フィル、この人は?」
「知らね。ただここへ来るのに助けてくれたからな、記憶処理はやめといた」
「そっか」
「えっと、あなた達は……?」
「私は神川です。フィルの……リュカの、恋人です」
「君、リュカの国籍なくてびびったっしょ?でもね、仕方ないんだこれが」
ゆあにからかうようにそう言われ、また不思議顔の青年。そんな青年に、フィルが苦笑気味にまずそもそもこの世界の住人ではないことを説明した。
それから暫く青年が咲夜達を質問攻めにし、ようやく落ち着いたところで秘密にしておく、という約束を快く受け入れた。
「またお会いしましょうねー!」
そう元気良く別れたのだが、後に青年が防犯カメラの映像を見た署長にこっぴどく叱られたのは言うまでもない。
ただ、署長がいくら頑張ってもフィルに対する令状は不思議と降りることはなかった。
「しょ、署長!ヤバいですよ、リュカ君!」
「どうした、そんなにあわてて」
「そ、それが!」
一昨日気絶するまでは乱暴な言葉遣いだったフィル。すでに気を失ってから42時間程たとうとしているのだが、つい先程意識を取り戻したフィルの様子はおかしい。
「ずっと宙を見つめていて、虚ろなんです」
「麻薬を摂取しなくなったからだろう」
「それと、腕や足に炎症のようなものが……」
炎症と聞いて興味を持ったのか、署長がフィルの元へ足を運ぶ。当のフィルは意識が朦朧としているため体内の魔力循環を上手くおこなえておらず、その皮膚にはうっすらと鱗が見える。
「もう少し様子を見るか」
「し、しかし!」
フィルをチラリと見ただけでそれ以上の興味を失ったらしい署長と、そのことに不安そうにする青年。色々と"見ル"ことができる彼は、フィルになにかただならぬものを感じていた。
青年がそっとため息をついた、その時。警察署の受付から、大声が聞こえてきた。
「だーかーら!リュカを出しなさいって!」
「これは貴方達のためでもあるんですよ。咲夜を、彼の元へ」
そんなゆあと一の声を聞いて、ぱっと振り返った青年。その目の前で、フィルが咲夜の名前に反応して顔を上げる。
「もういい!そんな事言うんならこっちにだって策はあるんだから!」
「咲夜。呼んでみな?」
「……フィ、ル」
そのか細い声は、青年には届かなかった。しかし、フィルには鮮明に聞こえた。
バキッ!という破壊音に青年が飛び上がると、すでにフィルは立っていて。最短で出るルートはどれだろうか、と壁を壊して突き進んで行きそうな勢い。
「こっちおいで」
「……」
首を傾げるフィルを見て、青年が楽しそうに笑った。けれどすぐに破顔させて叫びながら走り出す。その後方を、フィルがついていった。
「署長ー!リュカ君が!」
パパっとロックを解除し、ゆあの対応に困っている署長の元へ駆け込んだ青年。そしてその横をありえないスピードで通り過ぎて咲夜の腕に飛び込んだ、フィル。
「サクヤっ!」
「フィ、ル……?あ、あぁ、フィル!ごめん、ごめんね、何で私……」
「あぁ、よかった。いつもの2人だ」
「うんうん。やっぱりこうでないと、ね」
ぎゅうっと抱き合ってお互いを離さないフィルと咲夜を見て、署長が硬直している。
「フィル、もう私、言わないから。もうフィルを"人"のルールに縛ったりしないから。ごめんね、ごめんね……」
「お、おい!お前、脱走だ……」
「黙れ豚ジジイ。サクヤにたった今言われたからなぁ?俺はテメェら人ごときに裁かれるほど堕ちゃいねぇよ」
怒りを瞳に写したフィルがそう切り捨てると同時、あやつり人形の糸が切れたように署長が床に転がる。そして周りの人々も同じように倒れてゆく。
それを不思議そうに見ていた青年が我に返り、とりあえず息を確認。
「フィル、この人は?」
「知らね。ただここへ来るのに助けてくれたからな、記憶処理はやめといた」
「そっか」
「えっと、あなた達は……?」
「私は神川です。フィルの……リュカの、恋人です」
「君、リュカの国籍なくてびびったっしょ?でもね、仕方ないんだこれが」
ゆあにからかうようにそう言われ、また不思議顔の青年。そんな青年に、フィルが苦笑気味にまずそもそもこの世界の住人ではないことを説明した。
それから暫く青年が咲夜達を質問攻めにし、ようやく落ち着いたところで秘密にしておく、という約束を快く受け入れた。
「またお会いしましょうねー!」
そう元気良く別れたのだが、後に青年が防犯カメラの映像を見た署長にこっぴどく叱られたのは言うまでもない。
ただ、署長がいくら頑張ってもフィルに対する令状は不思議と降りることはなかった。
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