竜王の番は大変です!

月桜姫

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本編

21.赤色の悪魔

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視点:フィル

サクヤの声が聞こえなかったフリをして外に出た俺。手当り次第周りのものを破壊し、殺戮の限りを尽くす赤の悪魔を見据えた。

すでに10数名が犠牲になっている。駆けつけた警察のやらも叫びながら鉛玉を打ち込んでいるみたいだが、奴にとってそんなもの手の平に乗る虫と大差ない。

「なっ、君!危ないから離れてなさい!」

などとのたまう大人を蹴散らし、悪魔の元へ。元々この種は蒼で、人語を解し、愚かな真似はしない上級である。なのにこの無様な姿は何だ。

「ガアアァァァァァッ!!」

獰猛な叫びは、弱い人族にとって恐怖の対象でしかなく次々気絶してゆく。しかし、俺からすれば。この悪魔は怒りと、そして悲しみに満ちている。

大方、ウィルの奴が何かしでかしたのだろう。こいつは誇りを踏みにじられ、下等生物よりも劣る存在と成り果てた自身を嘆いているのだ。そこに理性は最早なく、ただ感情のままに暴れ狂っている。

「安心しろ、赤色の悪魔。俺が直ぐに……終わらせてやるから」

魔力は満タン、威圧を抑えるための力も今は必要ない。あとはアレがあれば完璧なんだが……ないものねだりをしても仕方がない。幸い、コイツ相手なら素手でも100%勝てるが。

「ふぅー……。よし、行くぞ?」

軽く息を吐いて、魔力を体に纏わせる。その上で悪魔を見上げればこちらの戦意を感じ取ったか、また大声をあげてのっそりと向かってくる。

奴が来るまで悠長に待つ時間も惜しいし、こちらから行くとするか。腰を落として強く踏み込む。足元で不吉な音が聞こえたが気の所為だろう。

奴の身長は俺の倍ほど。こちらの世界の尺じゃ、4メートルぐらいか?上級種って言えば小さくても6、最大で10メートル級を想像するんだがな。

「よっと」

奴にぶつかる直前、体を大きく使ってスピードを殺さないように気をつけつつバク宙。さすがにスピードが乗っていたせいか、ゴッ!と鈍い音を立てて奴の顎が凹んだ。

……ダンスで使うやつとかいうツッコミは無しで。

「ガァッ!?」

「はい、歯食いしばってー?そぉりゃ!」

大きくノックバックした所に1つ拳を叩き込む。手応えは上々。体をくの字に曲げて血を吐く悪魔。俺は容赦なく、1度着地して再び飛んでかかと落とし。

今度は上々という手応えではない。上手く悪魔の核を叩けたらしい。核……魔核っていうのは俺達でいう心臓みたいなものだ。で、俺はいまそれを粉々に打ち砕いた。

「悪魔の魔核は額の宝石。ま、これを知ってはいても叩き壊せる奴なんてそうそういないんだがな」

俺だって3撃も必要だった。うつ伏せで転がる奴を持って、空間を開く。向こうの世界の王城倉庫と繋がっているから、放り込めば適切な処理をしてくれるはずだ。

まず体を放り込んだ俺は懐から小さな巾着を取り出し、地面に散らばる魔核を注意深く拾い集める。ある一定以上の大きさがあるものを正常な生物が口にすれば、魔力に飲まれて狂いかねない。

「うーん、やっぱマズイな」

拾った欠片の中で1番大きなものを口に含み、ガリガリと噛む。もう少し下等の魔核の方が魔力の質がいいが、それでも今少しだけなくなった魔力を補充するには丁度いい。

そう思いつつガリガリしていたら、ふと頭の中に聞こえてきた。

『感謝します、竜王』

「おー……」

頭の中に直接響く、声のようだが声出ないもの。つまり念話で伝わってきた悪魔の声はまだ幼かった。そして礼を言うとすぐに赤い悪魔の魂は去っていった。多分、行くべきところへ行けるだろう。

「っつーか弱すぎだろ。ウィルはこれで何がしたかったんだよ、全く」

まだ魔核をガリガリ噛みながら、俺はサクヤの元へ素晴らしい速さで戻ったのだった。
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